ウクライナ インフラ被害深刻に ロシアとイランの接近に警戒感

ウクライナでは首都キーウなど各地でロシア軍による攻撃が続き、発電所などインフラ施設の被害が深刻になっています。ロシア軍による攻撃には、イランが供与した無人機も使われていると指摘されていて、ロシアとイランの軍事的な接近に警戒感が強まっています。

ウクライナでは17日夜から18日朝にかけて、首都キーウを含む各地でインフラ施設や集合住宅がロシア軍のミサイル攻撃を受け、キーウのクリチコ市長はSNSで、市内の発電所への攻撃で3人が死亡したと明らかにしました。

キーウ市内は18日、一部の地域で信号機が消えていたほか、電気で動くトロリーバスの運行ができなくなるなど、公共交通機関にも影響が出ています。
ゼレンスキー大統領は「今月10日以降、ウクライナ国内の発電所の30%が破壊され、全土で大規模な停電が発生している」として、ロシア軍による攻撃で電力施設の被害が深刻になっていると非難しました。

イギリス国防省は18日、ロシア軍がミサイルとともにイランが供与した自爆型の無人機も使ってウクライナ全土への攻撃の頻度を高めていると指摘しています。
ウクライナ政府はロシアとイランへの非難を強めていて、クレバ外相は18日、ゼレンスキー大統領に対し、イランとの外交関係を断絶するよう提言する考えを明らかにしました。

一方、イラン外務省は17日、ロシアへの無人機の供与について改めて否定し、ロシア大統領府のペスコフ報道官も18日「そのような情報はない」と述べました。

しかし、アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は「ロシアは、無人機やミサイルを入手するためイランとの関係を利用している」としたうえで、ロシア軍がミサイル不足に陥る中で、イランとの軍事協力を加速させる可能性があると分析していて、ロシアとイランの軍事的な接近に警戒感が強まっています。

米国務省副報道官 ロシアとイランの接近は“世界にとって脅威”

アメリカ国務省のパテル副報道官は18日の記者会見で、ロシアとイランの軍事的な接近について「世界全体にとって脅威と見なすべきものだ」と述べ、警戒感を示しました。

そのうえで「アメリカはイランが兵器を供与できなくなるよう、制裁や輸出規制などの実用的かつ積極的な措置をとり続ける」と述べて、イランによるロシアへの軍事支援に歯止めをかけるため、追加の措置を講じる考えを示しました。

イラン外務省「どちらの側にも立たず いかなる武器も供与せず」

これに対しイランはロシアへの武器の供与を否定していて、イラン外務省のキャンアニ報道官は17日「イランはウクライナとロシアの戦争でどちらの側にも立たないし、いずれに対してもいかなる武器も供与していない」と主張しています。

そのうえで「何十億ドル分もの兵器などを戦争当事者の一方に供与してきた国々が、もう一方への供与を非難するのはブラックジョークだ」とし、ウクライナを軍事的に支援する欧米各国を非難しています。

こうした中、アメリカ政府は無人機の供与に関わったとしてイランの企業に制裁を科すなど、ウクライナや欧米各国はロシアとイランの軍事面での接近に警戒を強めています。

ロシア イランとの関係強化に力を入れる

ロシアのプーチン政権は欧米との対立が一段と深まるなか、良好な関係を維持する中国やインドに対してさらなる接近を試みています。

ただ先月行われた上海協力機構の首脳会議では中国の習近平国家主席とインドのモディ首相から軍事侵攻に対する懸念が示されたとされています。

こうした中、ロシアがいま関係強化に力を入れている国の1つが、アメリカと激しく対立する一方、ロシアとは伝統的に友好関係にある中東の大国イランです。

プーチン大統領はことし7月、軍事侵攻後、旧ソビエト諸国以外では初めての外国訪問としてイランを訪れ、最高指導者ハメネイ師やライシ大統領と相次いで会談しました。

プーチン大統領はイランとの経済や安全保障などの分野で協力を深めることで一致し、イランの実権を握るハメネイ師から直接、侵攻に踏み切ったロシアの立場への理解を取り付けています。

またともにエネルギー大国であるロシアとイランは原油や天然ガスなどエネルギー分野で協力を深める姿勢を示しているほか、いずれも欧米の経済制裁を受けるなかで通貨ドルを排除した取引を模索するなどして経済的な結び付きを強化しアメリカに対抗しようとしています。

先月にはロシアなどが主導する上海協力機構の首脳会議で、プーチン大統領は、イランの上海協力機構の正式加盟を後押ししていて、ライシ大統領と行った会談では軍事と密接な関係がある航空宇宙分野でも協力関係を深めることで一致しました。

ロシアはこれまでイランに対し高性能の地対空ミサイルシステム「S300」を売却するなど兵器を輸出してきましたが、ここにきてウクライナに侵攻するロシアが兵器不足に苦しむ中、イランが自爆型の無人機をロシア軍に供与し、先月からウクライナの戦場で使用していると指摘されています。

イギリス国防省やアメリカのシンクタンク「戦争研究所」は、ロシア軍が一方的に併合したウクライナ南部のクリミアにつながる橋で起きた爆発への報復措置だとして今月10日と11日、ウクライナ各地で行った大規模な攻撃では、イランが供与したとされる無人機「シャヘド136」が使用されたと分析しています。

17日に首都キーウで行われた攻撃にもこの無人機が使われたとみられ、ウクライナのレズニコフ国防相はロシアとイランを厳しく非難したうえで各国に対し、両国への圧力を強めるよう訴えました。

また「戦争研究所」はロシア軍がイランの精鋭部隊、革命防衛隊の要員をウクライナ南部のクリミアやヘルソン州に招いて「シャヘド136」を使用するための訓練を行った可能性があると指摘しています。

イランは無人機の供与を否定していますが、アメリカ政府は先月無人機の供与に関わったとされるイラン側の団体などに制裁を科していて、両国の軍事面の接近に警戒を強めています。

旧ソビエト諸国の間でロシアの求心力低下か

ロシアのプーチン大統領がウクライナへの軍事侵攻に踏み切ったことに対し、ロシアが勢力圏とみなしてきた中央アジアなど旧ソビエト諸国からは、プーチン大統領と一線を画す姿勢が目立っています。

カザフスタンのトカエフ大統領は、ことし6月、プーチン大統領を前に、ウクライナ東部2州の親ロシア派による一方的な独立宣言を認めないと発言し、先月もカザフスタン外務省は一方的な併合に向けてウクライナの親ロシア派が強行した「住民投票」だとする活動を認めない考えを示しています。

また今月14日には、ロシアと中央アジア諸国との首脳会議で、タジキスタンのラフモン大統領がロシアを念頭に「われわれにも敬意を払ってほしい」と訴えました。

この発言はプーチン大統領は中央アジア各国を影響力を行使できる自身の勢力圏の一部としか見ていないとして苦言を呈したものですが、こうした異例の発言は旧ソビエト諸国の間でロシアの求心力が低下していることの表れと見られています。