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最近ほめられていない取材班がほめる大切さを取材してみた

突然ですが、10月19日は「ほめ育」の日ということをご存じでしたか。

子どもも、大人も、ほめられることで意欲がわき、成長につながります。でも、何でもかんでもほめればよいわけでもありません。

若者の中には、ほめられることがプレッシャーになって逆に意欲をなくす人もいるという教育現場からの声も。

意外に奥の深いほめ方、ほめられ方。

最近、ほめられた記憶があまりないという取材班の面々。あすへの意欲を奮い立たせるために取材してみました。
(おはよう日本部 酒井佑陶 ネットワーク報道部 野田麻里子 芋野達郎)

「ほめ育」実践する保育園は

ほめることを保育方針の基本にしているという東京郊外の保育園を取材したのは入局2年目のディレクターの私(酒井)です。

いつもはテレビの「おはよう日本」を担当しているのですが、ネット記事の取材と書き方を学ぶため、今回、取材班に加わりました。

どちらかといえば自己肯定感の低い私。

大人になるにつれてほめられる機会も減ったな、などと考えているうちにこの保育園に着きました。

じつは、保育園に足を踏み入れるのも、20年以上前に自分が卒園して以来。
保育園に一歩入ると、至る所から保育士さんたちのほめる声が聞こえてきました。

「最後まで残ってお掃除やってくれているね、すごいね!」「お友達のいいところ見つけて伝えられたね、えらいね!」

この保育園では、ふだんの生活の中で気付いたことがあると、その場で間髪入れずに積極的にほめるようにしているそうです。

午後には子どもたちが集められて、あるイベントも。

子どもたちがその日頑張ったことなどをみんなでほめて祝福し合う、その名も「キラキラタイム」
(保育士)「きょうのキラキラな人は…あおと君です。あおと君は、さっきのお昼寝の時間で使っていたマットを、自分から進んで片づけてくれました。すごいね。じゃあみんなでー」

(園児たち)「キラキラー!」

(あおと君)「ありがとう」
大人になった私からすると、まぶしすぎる場面でした。

あとで聞いてみるとこの日選ばれていた子はちょっとシャイな性格の子だそうです。

そこで、ほめることで自信につなげて、行動を継続させるモチベーションにするほか、積極的に挑戦するように行動を変えていくねらいがあるそうです。

ほかの子の前で、できるようになったことを説明することで、まねする子も増えるのだとか。

この時間は毎日のように設けられています。
さらに、文章でほめることも忘れません。

月に2回、保育士が、最近できるようになったことなどをほめてシートに書き、連絡帳に貼って保護者と共有します。

受け取った保護者も返事をするかたちでシートに記入し、子どもをほめます。

シートの内容を子どもの前で読み上げることもあるそうです。

ほめられたという体験が文字に残って積み上がり、後で振り返ることもできます。

それがその子の心の柱にもなるのだそうです。

卒業アルバムのメッセージを読み返して元気が出るタイプの私からすると、これはうれしいかも…。
保育園で使っている「キラキラシート」
保育士さんにお話を聞いてみました。

「ほめ育」によって、子どもたちにどんな変化が?
「ほめることによって、小さいことでも失敗を恐れずチャレンジする子が増えました。小さいころからほめられることで、少しずつ自信につながっているのかなと思います」
さらに「ほめ育」は、ほめる側にも影響すると言います。
「もともと私自身も自己肯定感が低いほうだったんですけど、ほめ続けることでどんどん新しいことに挑戦する子どもたちを見ていると、自分もささいなことが気にならなくなりました。ほめる側の私自身もポジティブになった気がしています」
保育園で取材をしていて感じたのは、なんとも明るい雰囲気でした。

どんどんほめることでほめられた子どもたちも、ほめた大人たちも、自分に自信を持って前向きになっている様子が見て取れました。

一方、年を重ねるごとに、どうにも自分に自信が持てなくなってきた私。

小さいころにここに通っていたら、もっと自己肯定感の高い人生を送っていたかも…と思いながら園をあとにしました。

「ほめ育」って? 提唱者に聞いてみた

何だか明るい表情で帰ってきて、「ほめ育」を実践する保育園のようすをいきいきと語ってくれた酒井ディレクター。

3人の子育てをしている私(野田)にとって、どうすると子どもたちが自己肯定感を高めて成長してくれるのかについては無関心ではいられません。

保育園が実践する「ほめ育」を提唱している一般財団法人「ほめ育財団」に話を聞いてみました。

取材に応じてくれたのは代表理事の原邦雄さん。

そもそも「ほめ育」ってなんなんですか?
一般財団法人ほめ育財団 代表理事 原邦雄さん
「ひと言でいうと、ほめて育てる教育メソッドのことです。日本人はほめるのもほめられるのも苦手という人が多いんですが、会社の職場環境とか、子育て環境に好影響があるはずだと思い、このほめ育という教育メソッドを作りました」
ただし、なんでもかんでもほめればいいということではないようです。

原さんによると、「ほめ育」のポイントは3つあり、1つめは、“プラスの焦点で相手を見る”ということ。

2つめは、“ほめる基準をしっかりと作る”

教育方針や企業理念などに基づいて、ほめる、ほめない、あるいはしかるという線引きをしっかりすることが大事なのだそう。

そして3つめは、”しっかりと言葉で伝える”こと。

相手への感謝の気持ちや「ここがすばらしい」と思うこと、そして「この先こうなってほしい」という小さな期待を具体的に書き出し、相手に読んでもらいます。

それによって、「重要な存在だと思われたい」「好かれたい」といった、自尊心の三大欲求と言われるものを満たし、自信につなげてもらえるとのこと。

「ほめ育」を提唱する原さん自身、子どもの頃に両親にたくさんほめて育ててもらった経験が下地になっていると言います。

大人になって厳しい職場環境に直面し体調を崩したこともありましたが、もう一度社会人として復帰することができ、それもほめられた経験があったからこそだと力説していました。
原邦雄さん
「両親や家族が絶対的な味方でいてくれる、自分の可能性を信じてくれているという安心感がありました。ほめて育ててもらったことで、自分自身も未来を信じて困難を乗り越えられることができたと実感していますし、今度はその経験を恩送りというかたちで社会に返していきたいと思って活動しています」

おすすめのほめ方、聞きました

そんな原さんに、きょうからできる、おすすめの「ほめ方」を聞いてみました。
すると、「まずは、“ありがとう探し”をおすすめします」。

具体的には、相手のおかげで自分の人生や生活の中でどんなよいことが起きているのか探してみる。

そして、自分にとって口にするのにハードルの低い、言いやすいことばで相手に伝えるということをアドバイスしてもらいました。

もしできれば具体的に、相手がいつ、どんな行動を取ったことで感謝したいと思ったのか、シーンが分かるように伝えられると効果的だといいます。
原邦雄さん
「感謝の気持ちを伝えることで相手がどう思うかはそんなに考えなくてもいいんです。自分が『この事に対してほめたい』という気持ちになって、しっかりことばにして伝えたという実感があればどんなほめ言葉でも大丈夫です。19日のほめ育の日が、ほめるのが苦手な人の背中をおすことにつながればいいなと思っています」
ふだん子どもたちにはついつい、「すごいね」「えらいね」と連呼してしまう私。

もちろんそのことばは本当にそう感じたから言ってはいるのですが、「ありがとう」という感謝の気持ちを起点によいところを見つけていくのは新鮮で、きょうからでもできそうです。「できたこと」だけでなく、子どもたちのありのままの姿をほめていきたいと思いました。

でも、ほめられるのが苦手な人も…

でも、「ちょっと待ってよ」と私(芋野)は思うのです。

ほめて育てる重要性は理解できるけれど、私なんかはもう子どもじゃないんだし、いまさらほめられても、逆に恥ずかしいだけだよと。

こんな風に考えてしまう私はやっぱり自己肯定感が低いのでしょうか。

でも、取材してみると、これは私に限った話でもなさそうなんです。

今の若い世代はほめられるのが苦手だと指摘している本がありました。
執筆したのは、若者の心理に詳しい、金沢大学の金間大介教授です。

今の若者はどうしてほめられるのが苦手なのか、また、そういった若者に対してはどうほめればよいのか聞いてみました。
金沢大学 金間大介教授
「今の若者は、自己肯定感が低い傾向があるので、何割かの学生は、みんなの前でほめられることをプレッシャーというふうに感じてしまうようです。たとえば、同級生の前で教員からほめられたりすると、周りの人からの自分に対する期待がどんどん高まります。一方で、自分はそこまで能力のある人間ではないと思っているので、自分自身の認識と、ほめられた状態でギャップを感じて、どうしようと困ってしまう。彼らのことばでいうと、『圧を感じる』のだと思います」
金間教授は実際、大学の授業で学生をほめたところ、予想していなかった反応をされたと言います。
「授業中に非常にいい質問をした学生がいたので、皆の前で学生の名前を呼んで、『今の質問、非常によかった』というふうに言ったことがあったんですね。すると、授業後にその学生が教壇のところに来て、『先生、ちょっとやめてください。どうか皆の前でほめないでください』とはっきり言ったんですね。私はほめられることはうれしいことだと思っていたので大変驚いたのですが、理由を聞くと、皆の前でほめられるとハードルが上がり、次の授業から来にくくなってしまうということでした」
金間教授は、そうした若者に対しては、その性格や価値観に合わせたほめ方が求められると考えています。
「今の若者にとって、皆の前でほめることはプレッシャーになり得る、モチベーションを下げてしまうことにつながり得ます。そのことを意識して、皆の前ではほめず、なるべく一対一の状況でほめてあげることが大事だと思います」

「また、ほめ方も考えなくてはいけません。今の若者は、大人が自分たちをコントロールして誘導しようとしているのではないか、搾取しようとしているのではないかということに敏感で、強い抵抗感を示す傾向があります。そのため、ほめるときには、自分の『こうしてほしい』という気持ちをできるだけ乗せず、客観的なフィードバックとしてほめるということに集中することが大切だと思います」
「ほめることは、人の承認欲求を満たしてあげることができますし、さらには、人が『自信を持つ』ことにつながります。『自信がない』というのは、一つのキャラクターなので、そこによい悪いは存在しませんが、イノベーションを起こす人材を育成するという点などでは不利に働きます。人が新しいことに挑戦し、イノベーションを起こしていくためには、ほめることで自信を持ってもらうことが非常に重要だと思います」。

ほめることから始めよう

10月19日は「ほめ育の日」ということから始まった今回の取材。

「ほめ育」を推進する原さんも、日々若者と向き合っている金沢大学の金間教授も、ほめ方の違いはありますが、「ほめる」ことが大切だと教えてくれました。

自己肯定感が低い取材班のメンバーにとっても改めて、ほめること、ほめられることの大切さを考えるきっかけになりました。

まずはきょうからでも身近な人たちをほめることから始めようと3人で一致し、取材を終えました。

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