
ドラフトで注目 大学で急成長した2人の150キロ投手 明星大学
プロ野球のドラフト会議が10月20日に行われます。このドラフト会議で150キロ以上のストレートを投げられる2人のピッチャーが、“ひそかに”プロのスカウトから注目されています。
2人の所属は明星大学硬式野球部。これまでプロ野球のドラフト会議では1軍の公式戦に出場できる支配下で指名を受けた選手はいません。高校時代は無名だった2人、決して強豪とは言えない、この大学で彼らが成長してきた要因は、今どきの若者らしい「デジタルの活用」でした。
所属するのは2部リーグ
明星大学は、首都大学野球連盟に所属しています。ただし、巨人のエース菅野智之投手(東海大)など多くのプロ野球選手を輩出してきた「1部リーグ」ではなく「2部リーグ」です。

その明星大学で、ことしプロから注目されているのが最速154キロを投げるエース・松井颯投手と、最速159キロを投げる谷井一郎投手の2人です。
順風満帆ではなかった2人

エースの松井投手は最速154キロのストレートにキレのある変化球を織り交ぜた安定したピッチングが持ち味です。
埼玉の強豪・花咲徳栄高校出身で同学年には日本ハムの野村佑希選手。1学年上には中日の清水達也投手などがいます。

その一方で、松井投手は高校時代は3番目か4番目の投手という立ち位置で、3年生の夏にチームが甲子園出場を果たした際にはベンチ入りしましたが、敗れた試合の最後に1イニング登板しただけでした。当時は、プロ入りなんて想像できなかったと言います。
(松井投手)
「高校の1つ上、2つ上の先輩にプロ入りした投手がいて、その投手たちと比べると自分はプロには行けないんじゃないかと思っていた」
(松井投手)
「高校の1つ上、2つ上の先輩にプロ入りした投手がいて、その投手たちと比べると自分はプロには行けないんじゃないかと思っていた」

一方の谷井投手は豪快なフォームから、ことしの大学野球界で最も速いとされる最速159キロを投げ込む剛腕です。
ただ、ここまでの野球人生は苦労の連続でした。中学時代に所属したシニアリーグのチームでは、1年生大会では登板したものの、2年生以降公式戦での登板はありませんでした。
ただ、ここまでの野球人生は苦労の連続でした。中学時代に所属したシニアリーグのチームでは、1年生大会では登板したものの、2年生以降公式戦での登板はありませんでした。

進学した都立武蔵村山高校では、大会で上位に進んだことはなく、エースとして臨んだ3年夏の西東京大会は初戦で敗退。プロはほど遠い世界だったと言います。
(谷井投手)
「都立高校だったこともあり、注目されるような選手ではなかった。プロへの距離感がわからなかった」
(谷井投手)
「都立高校だったこともあり、注目されるような選手ではなかった。プロへの距離感がわからなかった」
逆境も力に
そんな2人が明星大学で出会いました。
明星大からは投手に限っては過去に育成ドラフトでも指名された選手がいないという環境の中、転機となったのは大学2年生の春です。
新型コロナウイルスの感染拡大によって大学のグラウンドでの練習が5か月間、一切できませんでした。
普通であれば、先が見えず、不安になってしまいそうなこの期間に2人は新たな取り組みを始めました。
明星大からは投手に限っては過去に育成ドラフトでも指名された選手がいないという環境の中、転機となったのは大学2年生の春です。
新型コロナウイルスの感染拡大によって大学のグラウンドでの練習が5か月間、一切できませんでした。
普通であれば、先が見えず、不安になってしまいそうなこの期間に2人は新たな取り組みを始めました。

それが、動画配信サービスやSNSなど「デジタル」を活用して、投球フォームや、体の使い方などを本格的に勉強し始めたことです。
確立したサイクル
まず2人は、自分たちの投球フォームを互いに分析。左足の上げ方こそ大きく異なるものの、それ以降の体重移動のしかたや左手を高く上げるところ、軸足となる右足の使い方、テイクバックの形など、共通点が多いことに気がつきました。

そして、動画配信サービスなどを利用し自分たちと投げ方が似ているプロ野球や大リーグでピッチャーを探し、その動画を参考に自分たちのフォームの改良に取り組みました。
その過程で、筋力や柔軟性など足りないと感じた部分はSNSなどで集めた情報をもとにトレーニングをして補強する。2人で試行錯誤を続けてきました。
その過程で、筋力や柔軟性など足りないと感じた部分はSNSなどで集めた情報をもとにトレーニングをして補強する。2人で試行錯誤を続けてきました。

(松井投手)
「筋力や柔軟性がないとできない動作もあったので、そこはふだんから継続してきたトレーニングが生きていた」
(谷井投手)
「自分の考えている動きと実際の動きが違うので、両方をすりあわせていってむだを無くしていくのが難しかった」
「筋力や柔軟性がないとできない動作もあったので、そこはふだんから継続してきたトレーニングが生きていた」
(谷井投手)
「自分の考えている動きと実際の動きが違うので、両方をすりあわせていってむだを無くしていくのが難しかった」

さらに2人でブルペンやキャッチボールでの投球を撮影し合ったり球速を測って効果を検証したりしました。
フォームの改良と球速の大幅アップ
このようにして2人はデジタルを活用した情報をもとに地道にトレーニングを続けフォームの改良を進めてきました。

こちらが松井投手のフォーム、新旧比較です。

こちらは谷井投手のフォームの新旧比較です。
2人とも下半身の柔軟性が増したことによって投球時の足の幅・ストライド幅が大きくなりました。また、上半身と下半身のねじりの差、いわゆる捻転差が大きくなったことでボールにより力が伝わるようになり、球速は着実に上がっていきました。
松井投手は高校時代の最速が「141キロ」だったのが現在では「154キロ」、谷井投手は「147キロ」だったのが「159キロ」と、ともに球速を10キロ以上伸ばすことに成功。プロのスカウトにも注目されるようになりました。
2人とも下半身の柔軟性が増したことによって投球時の足の幅・ストライド幅が大きくなりました。また、上半身と下半身のねじりの差、いわゆる捻転差が大きくなったことでボールにより力が伝わるようになり、球速は着実に上がっていきました。
松井投手は高校時代の最速が「141キロ」だったのが現在では「154キロ」、谷井投手は「147キロ」だったのが「159キロ」と、ともに球速を10キロ以上伸ばすことに成功。プロのスカウトにも注目されるようになりました。
巨人の大勢投手も

巨人にドラフト1位で入団し、今シーズン、ルーキーながら抑えを務めた大勢投手も大学時代に見た動画を参考にみずからのピッチングを確立した選手の1人です。
平成11年生まれの大勢投手が参考にしたのは昭和54年から62年にかけて巨人に在籍しエースとして活躍した江川卓さんでした。
「わかっていても打てないストレート」に衝撃を受けたと言う大勢投手。
平成11年生まれの大勢投手が参考にしたのは昭和54年から62年にかけて巨人に在籍しエースとして活躍した江川卓さんでした。
「わかっていても打てないストレート」に衝撃を受けたと言う大勢投手。

トレーナーと一緒に動画を参考に、かかとを上げて投げる「ヒールアップ投法」という江川さんの特徴的にフォームを取り入れました。
そしてプロ1年目で新人の最多記録に並ぶ、37セーブを挙げる活躍をしました。
そしてプロ1年目で新人の最多記録に並ぶ、37セーブを挙げる活躍をしました。
専門家「デジタルの活用注意も必要」
野球選手の動作解析が専門である筑波大学体育専門学群の川村卓准教授によりますと、この明星大学の2人のように動画配信サービスやSNSなどの情報をトレーニングに取り入れる選手は増えているということです。

川村准教授はまずメリットについて「撮影がスマートフォンで気軽にできるようになったので、まず最初の情報として自分がどうなっているのかが客観的にわかるようになった。その上でSNSを用いて、動画でトレーニング方法やプロの選手のフォームを手軽に見られるようになり、自分の動きと比較できるようになったことは非常に大きい」と述べました。
一方で、「トレーニングには段階がいろいろあり、今自分に必要なのはどこの段階のトレーニングなのか、どのぐらいの負荷を許されるのかを慎重に吟味してやっていかないと、いいトレーニングでも逆に故障の原因になってしまったり、ほかの部分に狂いが生じたりしてしまう『副作用』となることもある」と指摘しました。
一方で、「トレーニングには段階がいろいろあり、今自分に必要なのはどこの段階のトレーニングなのか、どのぐらいの負荷を許されるのかを慎重に吟味してやっていかないと、いいトレーニングでも逆に故障の原因になってしまったり、ほかの部分に狂いが生じたりしてしまう『副作用』となることもある」と指摘しました。

その上で「一緒に見てくれる、助言してくれるような人の存在が大事。また、自分の感覚としてちょっと合ってないなとか、ちょっと重たすぎるなっていうのは敏感にやってほしい。地道で、すぐに結果が出ないトレーニングもあってこその高負荷のトレーニングだということは知っておいてほしい」と注意点を話していました。
ドラフトが迫る今の思い
2人は現在行われている秋のリーグ戦でもアピールを続けています。

松井投手は10月10日時点で4試合に先発登板し、30イニングを投げて自責点は2と抜群の安定感でチームを支えています。

谷井投手も中継ぎとして2試合に登板し、無失点と好投を見せています。
ドラフト会議が、すぐそこまで迫った今の思いを2人に改めて聞きました。
ドラフト会議が、すぐそこまで迫った今の思いを2人に改めて聞きました。

(松井投手)
「ただ努力するだけでなく、頭を使って、知識を得て練習することを続けてきた。まずドラフトにかからないと意味が無いと思うので、リーグ戦でしっかり結果を残せるように。その先も見据えつつ練習していきたい」
(谷井投手)
「プロは無理だと言われたこともあったが、諦めずここまで継続してきたから今がある。やるべきことをやって、リーグ戦で結果を出してドラフトにかかりたい」
「デジタル」を活用し、技術を磨いてきた2人に吉報は届くのか。プロ野球ドラフト会議は10月20日に行われます。
「ただ努力するだけでなく、頭を使って、知識を得て練習することを続けてきた。まずドラフトにかからないと意味が無いと思うので、リーグ戦でしっかり結果を残せるように。その先も見据えつつ練習していきたい」
(谷井投手)
「プロは無理だと言われたこともあったが、諦めずここまで継続してきたから今がある。やるべきことをやって、リーグ戦で結果を出してドラフトにかかりたい」
「デジタル」を活用し、技術を磨いてきた2人に吉報は届くのか。プロ野球ドラフト会議は10月20日に行われます。
取材担当

池田 侑太郎
報道局 記者
2022年入局の1年目 神戸市出身
大学時代は準硬式野球部で選手兼任監督
趣味は野球観戦でオリックスのファン
報道局 記者
2022年入局の1年目 神戸市出身
大学時代は準硬式野球部で選手兼任監督
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