全国学力テスト 行き過ぎた事前対策 トップクラス石川県で何が

小学6年生と中学3年生を対象に毎年実施されている「全国学力テスト」で全国トップクラスの成績が続く石川県で、ことしのテスト直前、多くの学校が授業時間を削り過去の問題を解かせるなどの「事前対策」をしていたことが、県教職員組合が行った調査で分かりました。
全国学力テストをめぐって文部科学省は行き過ぎた対策をしないよう求めていて、専門家は「抜本的な改善が必要だ」と指摘しています。

4月に実施されたことしの全国学力テストで、石川県は中学3年生ではすべての科目で平均正答率が全国1位だったほか、小学6年生でも「算数」が全国1位、「国語」と「理科」が全国2位となるなど、毎年、全国トップクラスの成績が続いています。

校長などから「事前対策」の指示や働きかけあった 回答の7割に

こうした中、石川県教職員組合はことしのテストについて県内280校余りの小中学校の教員を対象に実態調査を行い、104校から回答を得ました。
その結果、授業時間や放課後などに「事前対策」をするよう、校長などから指示や働きかけがあったと答えた学校が、回答した学校の7割にあたる72校に上ったということです。

また、回答の内容を詳しく見ると、テスト直前、多くの学校が連日にわたって授業時間を削り、過去に出された問題を解かせるなどしていたことが分かります。

さらに自由記述では通常の学習への影響を懸念する声のほか、「事前対策をしないと教育委員会の訪問が増える」とか、こうした対策について「学年便りに記載しないように言われた」などという回答もあったということです。

現場の教員は “1年前から対策 塾や予備校のよう”

「全国学力テストへの対策で子どもの育成に関わる体験などの時間が軽視されている」

ことし8月、NHKの情報提供窓口の「ニュースポスト」に、石川県内の公立小学校に勤務する現役の教員から投稿が寄せられました。

教員はNHKの取材に応じ、勤務先で行われている学力テスト対策の実態について語りました。

学校では全国学力テストを受ける1年前、5年生のときから朝の自習や放課後、さらに授業の時間を使って子どもたちに対策問題を解かせているといいます。

1時間の授業で多い時には数年分の「過去問」をコピーして配り、教科によっては年間の授業時間の10分の1、10時間以上を学力テスト対策にあてているケースもあるということです。

テストの直前になると、校長から教員たちに「よろしく」と声がかかり、本番が終わってからも学校としての成績に一喜一憂する雰囲気があるということです。

コマ数が限られる中、指導要領にない内容に多くの時間を割いている現状に、教員は子どもたちの学びに影響が出ることを強く懸念していました。
教員は「体験的な活動を増やして社会や理科をもっと好きになってもらいたくても、学力テスト対策に追われて優先順位が低くなってしまう。子どもたちの大切な時間を使ってまで、塾や予備校のように対策をするのは、教育の機会が均等に行き渡っているか調べるという、学力テストの本来の目的からもかい離していると思います」と話しています。

文科省の見解は

全国学力テストは、学力や学習の状況を把握して授業の改善につなげることなどを目的に15年前に始まりました。

しかし、正答率を上げるため、各地で行き過ぎたテスト対策が行われていることが問題となり、文部科学省は2016年4月「行き過ぎた取り扱いがあれば、テストの目的を損なう」として全国の教育委員会に対し、テスト本来の趣旨を学校に浸透させ適切に対応させるよう求める通知を出しました。

そして、翌2017年以降は都道府県ごとの順位が詳細に分からないようにするため正答率の小数点以下は公表しない形に対応を見直しました。

文部科学省は取材に対し「行き過ぎた対策」の具体例として、正答率の上昇だけを目的にテスト実施前に集中的に過去問や対策問題を解かせること、学力テスト対策としての指導を授業の進行に影響がある形で授業時間を削って行うことなどを挙げています。

一方で、学力テストの問題は「良問」であり、子どもたちの授業の理解につなげるため活用することについては推奨しているとしています。

学校で授業時間を削った学力テスト対策が依然、続いていることを示す石川県教職員組合の実態調査の結果について、文部科学省は「詳細を把握しておらず、個別の事案に対して判断評価することは難しい」としつつ「本来の趣旨や目的に沿った学力の調査がなされるよう、今後も周知を図っていきたい」としています。

全市町の教育委員会で “事前対策 把握せず”

NHK金沢放送局は、石川県内19の市と町の教育委員会に対し、全国学力テストへの学校の対応について調査用紙と電話で取材しました。

全国学力テストの成績アップを目的に、学校が事前対策を行っていることを把握しているとした教育委員会はありませんでした。
学校が事前対策を行うことの是非については、大半の教育委員会が「対策を行うことは認められない」「できれば対策すべきでない」と回答。

授業の改善のために過去問を活用することは問題ないという意味合いで「どちらともいえない」と回答した教育委員会があったほか「そもそも、事前の対策は行っていないので、その是非についても答える必要はない」という教育委員会もありました。

県教委 “行き過ぎあれば 市や町を通し指導”

石川県教育委員会はNHKの取材に対し「県としても全国学力テストの取り扱いを適切に行うよう、毎年、通知を出している。その趣旨と合わない行き過ぎた取り扱いがあれば市や町を通して指導したい」と回答しています。

専門家 “学校教育ゆがめる 結果をもとに授業改善が大切”

文部科学省が設置した全国学力テストの専門家会議で10年以上にわたって委員を務めた早稲田大学教職大学院の田中博之教授は、全国学力テストの行き過ぎた対策が今も続く背景について「公立学校の先生たちは、よくも悪くも横並びの平等主義で、地域の人や保護者からの期待とか、同じ町の学校どうしで比べて点数があまり低いと恥ずかしいとか、さまざまな暗黙のプレッシャーを感じている。一人一人の先生の判断ではなく通常は校長の指示があり、その前には校長会という組織があり、校長会には教育委員会からお願いや指示が下りている。特に石川県の場合、成績でトップになった責任や、もう順位を落とせないというプレッシャーもあるのではないか」と指摘しました。

そのうえで「テスト教科の学力を付け焼き刃的に上げる目的で体験活動やフィールド調査など他の教育に充てる時間を削ることは学校教育をゆがめている点で大きな問題であり、抜本的に改善しなければならない。基礎をおろそかにして、学力テスト向けの発展問題ばかりやらせても、クラスの中には分からない子も出てきてしまう。大切なのは学力テストの結果をもとに授業を改善することであり、そこに取り組むことを忘れないでほしい」と話しています。