子ども食堂、私は行っていいの?

子ども食堂、私は行っていいの?
『子ども食堂って誰でも行っていいの?』
最近こんな議論が、SNSで注目を集めました。

食事を無料や格安で提供することから、かつては貧困対策と考えられがちだった子ども食堂。
しかしその認識は今、大きく変わりつつあるといいます。

長年、子ども食堂のサポートなどに尽力してきた湯浅誠さんに話を聞きました。
(ネットワーク報道部 石川由季)

発端はあるツイート

「家族が子ども食堂に行こうと言っているけれど、本当に厳しい家庭があるので遠慮すべきだと思っている」

こんな趣旨の投稿をきっかけにSNS上で議論が始まったのは今月上旬。
このツイートには900件を超えるコメントが寄せられ「誰でも行っていい」という人と「行くべきではない」という人に分かれていました。

このうち湯浅さんが注目したのは「誰でも行ってもいい」という声の多さ。
数年前とは、明らかに違うといいます。
NPO法人「全国こども食堂支援センター・むすびえ」理事長 湯浅誠さん
「私はこの問題に関わって6年ですが、ああ、変わってきたんだなとしみじみ実感しました。今でも子ども食堂は貧困や不登校の子どもが行く場所だと思っている人のほうが多いと思っていますが『誰でも行っていい場所』と言う人がこんなにいっぱいいる。世の中の子ども食堂のスタンダードが変わり始めていると感じて、感動しました」
大人も子どもも、経済的に厳しい人も、そうでない人も「誰でも行っていい」という湯浅さん。
そもそも子ども食堂の役割とは、どのようなものなのでしょうか。
湯浅さん
「運営する皆さんのことばを使うと『分け隔てなく、ここに来てくれる人たちを、もてなしたい、歓待したい。そして、この場所を好きになって自分の居場所だと感じてくれるそういう場所を作りたい』そんな思いがベースにはあります。
今、世の中全体の“つながり”のいわば総量が落ちてきてる。だんだん高齢化して人も子どもも減っていく中で、なんとか踏みとどまり、つながりを取り戻したい。そのためにやっているという事なんですよね」

みんなが行かないと大変な人も行けなくなる

湯浅さん
「行くべきではないと言った人たちも、善意なんですよね。『あそこは食べられない人が行くところなんだから、あなたが行ったら必要な人の分を1食食べちゃう。必要としてる人に届かなくなるから行かないことが支援だ』というふうに思っているわけです。
しかし、実は行くことこそが支援なんだと知ってほしい。なぜなら、みんなが子ども食堂に行くことを控えてしまうと「行く人=大変な人」と見られるようになってしまい、むしろ本当に大変な人が行きにくくなる。子ども食堂は、みんなの中に大変な誰かを包み込む、しかもさりげなく包み込む場所なんです」
ただ、コロナ禍や物価高で子ども食堂の運営が厳しいという話をニュースなどで目にすることがあります。利用者がどんどん増えても、大丈夫なのでしょうか。
湯浅さん
「ある子ども食堂が試算していましたが、原価200円の食事を300円で大人が2人食べてくれれば、1人の子どもに無料で同じ食事を出せるわけですね。コロナで大変だし、物価高騰で大変だからこそ、行ける人は行って応援してあげてほしい」
多くの子ども食堂は、寄付された食材など使って無料または数百円程度の格安で食事を提供しています。
ただ、地域の人たちがボランティアで運営しているところもあり、一度に受け入れられる人数は食堂によって違うといいます。
湯浅さん
「子ども食堂によっては、例えば毎回30食とか、毎回50食とか、ある程度、想定される人数を決めて準備してるところもあるので、そこにいきなり100人来ちゃうと、それは困ることになります」

バリエーションがあって当たり前 まずは問い合わせて

国が2020年度に行った調査でも子ども食堂の2割は経済状況などで利用条件を設けていると回答しています。
多くの食堂が誰でも受け入れている一方で、そうではないところもあるのです。

初めて行く場合は、どうすればいいのでしょうか?
湯浅さん
「月に1回しかやってないところもあれば、365日やってるところもあります。また誰でもどうぞというところもあれば、うちはこういう人だけですよというところもある。行ってみないと分からないのでそこは事前に確認してもらう必要があります。
子ども食堂は民間の活動なので行政的な規格がありません。バリエーションがあって当たり前。いろんなところがあって当たり前なんだと、そういう認識で行ってほしいと思います」

湯浅さんが考える子ども食堂の未来形とは

子ども食堂の数は去年の時点で全国におよそ6000か所。(NPO「むすびえ」などの調査)
近年は、年間1000か所以上のペースで増加していて、2018年と比べると2.5倍以上に増えています。
湯浅さんは、子ども食堂のような“居場所”がもっと世の中に必要だと話します。
「いわゆる総称しての居場所ですよね。子ども食堂とか地域の居場所、高齢者の居場所。これらはだんだん境界線がなくなってきていると思っていて。
経済的に困ってなくても、孤立や孤独を感じる人はいっぱいいるし、1人暮らしがどんどん増えている。みんなに居場所が必要で、こうした居場所を公民館や牛丼屋、コンビニ、事業者、個人…いろんな人たちがあちこちでやっている状態。それが理想ですね」
湯浅誠さん
社会活動家 東京大学先端科学技術研究センター特任教授
全国の子ども食堂のサポートのほか、調査・研究などを行うNPO法人「全国こども食堂支援センター・むすびえ」理事長
平成20年には派遣労働の契約を打ち切られる人が相次ぐ中で設けられた「年越し派遣村」で村長を務める