バイデン政権「中国は唯一の競合国」 競争に打ち勝つ方針示す

アメリカのバイデン政権は外交・軍事戦略の指針となる「国家安全保障戦略」を発表し、中国を「国際秩序を変える意思と能力を兼ね備えた唯一の競合国」と位置づけ、同盟国との連携などによって競争に打ち勝つとする方針を示しました。

政権として初の「国家安全保障戦略」発表

アメリカのバイデン政権は12日、政権として初めてとなる外交・軍事戦略の指針「国家安全保障戦略」を発表しました。

この中で中国について、経済、外交、軍事、そして技術面において「国際秩序を変える意思と能力を兼ね備えた唯一の競合国」と位置づけ、競争に勝つために今後10年間が重要になると指摘しました。

そして中国に対抗していくための具体策として
▽アメリカ国内で競争力、技術革新、強じん性の強化に力を注ぎ、
▽同盟国や友好国との連携を一段と深め、
▽アメリカの利益を守るための責任ある競争を行っていくとしています。

「日本の防衛への揺るぎない決意」尖閣諸島に直接言及

またインド太平洋地域については「21世紀の地政学上の中心」だとし、日本については「日米安全保障条約に基づく日本の防衛への揺るぎない決意を確認する。条約の適用範囲には尖閣諸島も含まれる」として尖閣諸島に直接言及しました。

一方、ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアについては「国際的な平和と安定に対する喫緊かつ絶え間ない脅威をもたらしている」としたうえで通常戦力が弱体化し核兵器への依存度を高めるおそれがあると指摘し、「ロシアが核兵器を使用したり、使用すると脅したりすることで目的を達成することは許さない」としています。

バイデン政権としてはウクライナへの軍事侵攻が続くなかロシアを重大な脅威だとする一方で、唯一の競合国は中国だと明記し、同盟国や友好国との連携などを通じて中国との競争に打ち勝つとする方針を打ち出した形です。

国家安全保障戦略の発表はことしはじめに行われるとみられてきましたが、ウクライナへの軍事侵攻などを受けて発表が遅れていました。

中国「時代遅れの考え方に反対」

これに対して中国外務省の毛寧報道官は、13日の記者会見で「われわれは、冷戦思考とゼロサムゲームなどの時代遅れの考え方に反対する」と述べ、アメリカに反発しました。

そのうえで、「中国とアメリカは世界最大の発展途上国と先進国で、世界の平和と安定の維持や経済の繁栄と発展に責任を負っている。両国関係を健全で安定的な軌道に再び戻すべきだ」として関係改善を呼びかけました。

バイデン政権 中国とロシアなどに対抗の認識

バイデン政権は12日に発表した国家安全保障戦略の中で現在の国際環境について、中国とロシアなどに対抗し、国際秩序の未来を形づくるうえで戦略的競争のまっただ中にいるという認識を示しています。

中国については「国際秩序を変える意思と能力を兼ね備えた唯一の競合国」と位置づけたうえで「インド太平洋地域で強い影響力を持ち、世界を主導する大国になろうとする野心を抱いている」としています。

そのうえで、対中国戦略は3つの柱からなるとして競争力や技術革新、強じん性、民主主義といったアメリカの強みである部分を国内で強化し、アメリカが重要な戦略的資産とする同盟国や友好国などとの連携について一段と深める、とする一方で、気候変動や新型コロナウイルスへの対応など利益が一致する分野では協力するとして責任ある競争を行っていくとしています。

また、台湾については、台湾海峡の平和と安定の維持が「不変の国益」だとしたうえで、いかなる一方的な現状変更にも反対すると同時に台湾の独立も支持しないとしてこれまでの政策に変わりはないと強調しています。

一方、ウクライナに軍事侵攻を続けるロシアについては「国際秩序を乱そうとする目的を持って帝国主義的な道を選んだ」と非難したうえで「西側諸国とロシアの戦いではなく、主権や領土の一体性を尊重し、戦争によって領土を得ることを禁止するなどとした国連憲章の基本原則に関わる」との認識を示しています。

米専門家“中国を脅威となりうるとみなした”

バイデン政権が発表した「国家安全保障戦略」について、東アジアの外交・安全保障政策に詳しいSASAKAWA・USAのジェームズ・ショフ上級部長はNHKの取材に対し「過去の戦略と異なるのは、中国をアメリカや国際秩序に対する直接の脅威となりうるとみなした点だ。軍事力の強化や先端技術の輸出規制などいま、われわれがやろうとしていることのすべてについて、中国との競争に打ち勝つためだとして正当化している」と分析しました。

一方、中国との関係については「中国との直接の競争にすべてを結び付け、それに打ち勝つことを優先するがあまり、互いに協力し合える領域を指し示すことができていない」としたうえで「米中が互いに敵対するサイクルに入ってしまい、多くの課題に協力して効果的に取り組むことを難しくしているように見える」とも述べて、今回打ち出した戦略は、対立を加速させるおそれがあると指摘しました。

また、対ロシア戦略についてショフ氏は「注目に値するのはロシアが国際秩序に与える影響力について、低下したとの認識を示したことだ。ロシアのことを忘れ去りはしないまでも、中国に対する挑戦と比べて明らかに格下げをしたことには驚かされた」と述べました。

また、台湾をめぐる戦略についてショフ氏は「バイデン大統領が数週間前、台湾の独立を支持するかのような発言をしたが、これは国務省が示したアメリカの公式な政策とは相反する。その点、今回の戦略で、アメリカは、中国と台湾の双方が現状変更を行うことを支持しないと明確に示したことはよいことだ」と述べ、アメリカの台湾に対する政策は不変であると示したことは有効だとの認識を示しました。

官房長官「日本防衛へのコミットメントを高く評価」

松野官房長官は、午前の記者会見で「国際社会が直面する戦略的な競争や各国共通の地球規模課題に対し、アメリカがリーダーシップをとりながら、日本を含む同盟国や同志国と連携しつつ対応していく考えを示したほか、自由で開かれたインド太平洋の推進や日本防衛への揺るぎないコミットメントを再確認しており、高く評価する」と述べました。

また、年末までに改定する国家安全保障戦略など安全保障関連の3文書への影響について問われたのに対し「日米両国間では、日頃から戦略や政策をすり合わせるために緊密に連携してきており、その方向性は一致している」と述べました。