日本のロケット「イプシロン」打ち上げ失敗 地上から破壊指令

日本の小型ロケット「イプシロン」6号機は12日午前、鹿児島県の内之浦宇宙空間観測所から打ち上げられましたが、ロケットに異常が発生したため、機体を破壊する信号が送られ、打ち上げは失敗しました。

「イプシロン」6号機は、12日午前9時50分ごろ、鹿児島県肝付町にある内之浦宇宙空間観測所から打ち上げられましたが、JAXA=宇宙航空研究開発機構によりますと、ロケットに異常が発生したため、打ち上げのおよそ6分半後に機体を破壊する信号を送ったということです。異常の原因については明らかになっていません。

JAXAは12日午後会見し、2段目と3段目のロケットを切り離す前にロケットの姿勢が目標からずれ、地球の周回軌道に投入できないと判断したと説明しました。

また、破壊された機体はフィリピン東の海上に落下したと推定されるとしています。

JAXAの山川宏理事長は「関係する皆様の期待に応えられず深くおわび申し上げる。今後、早急に原因の究明や対策を図り、わが国の宇宙開発利用に対する信頼を取り戻すべく全力を尽くしていきたい」と述べました。

「イプシロン」は、小型の人工衛星を低コストで打ち上げようとJAXAが開発した全長26メートルのロケットで、今回の6号機には、福岡市のベンチャー企業が開発した2つの商業衛星や公募で選ばれた企業や大学の実証実験を行う衛星などあわせて8つの衛星が搭載されていました。

今回の打ち上げは「イプシロン」としては初めてとなる商業衛星の打ち上げで、需要が高まる小型の人工衛星の打ち上げビジネスへの本格的な参入につながるのか注目されていました。

日本の主力ロケットの打ち上げ失敗は、2003年のH2Aロケット6号機以来で、「イプシロン」としては今回が初めてです。

企業や大学などが開発した8つの人工衛星を搭載

8つの人工衛星のうち、福岡市のベンチャー企業「QPS研究所」の2つの衛星は、「イプシロン」として初めてとなる商業衛星の打ち上げ受注で、ロケットの設計や製造を担当する「IHIエアロスペース」がJAXAに打ち上げを委託していました。

このほかの6つは、JAXA=宇宙航空研究開発機構が「革新的衛星技術実証」と呼ばれるプログラムで公募し、選ばれた衛星です。
・企業が開発した部品を搭載し、宇宙空間で実証するためのJAXAの衛星「小型実証衛星3号機」
・名古屋大学の衛星「MAGNARO」
・九州工業大学の衛星「MITSUBA」
・米子工業高等専門学校の衛星「KOSEN-2」
・早稲田大学の衛星「WASEDA-SAT-ZERO」
・一般財団法人の未来科学研究所の衛星「FSI-SAT」

搭載の衛星を開発した企業は

「QPS研究所」の大西俊輔社長は「九州でつくった衛星を九州で打ち上げるという意味で感慨深く、きょうを迎えましたが、やはりロケットは100%完璧なものではないと感じています。まずは詳細な報告を待ちたい」と話していました。

そのうえで「衛星の開発は喜びや悲しみ、さまざまなものが合わさってできるものだと思う。今回の経験も大きな財産になると思うので、より一層力強い開発体制でさらにいいものをつくるという原動力に変えていきたい」と話していました。

全国8高専が共同開発の衛星も

人工衛星「KOSEN-2」は2年余りをかけて全国の8つの高専が共同開発し、海底の地殻変動のデータを集める予定だったということです。

12日は、米子工業高等専門学校でおよそ30人の学生などがオンラインで打ち上げの様子を見守り、大きな煙とともに打ち上げられると歓声をあげていました。

しかしその後、打ち上げが失敗したことが分かり、電子制御工学科5年の吉岡玲志さんは「闇の中で手探りするように研究開発を進めてきたので、残念で複雑な気持ちです」と話していました。

米子高専では今月から全国の高専とともに、新たな人工衛星「KOSEN-3」の開発を始めるということで、開発の指導にあたった徳光政弘准教授は、「失敗は非常に残念ですが、『KOSEN-3』の開発に全精力を注ぎ、さらによい衛星をつくりたい」と話していました。

専門家「失敗が連続しないことが大事 事故原因を」

三菱重工業でH2Aロケットなどの開発や運用に関わってきた東京理科大学の小笠原宏教授は打ち上げ失敗による商業衛星受注への影響について「今回の打ち上げが商業利用のきっかけになるはずだったと思うので痛手なのは間違いない。失敗が連続しないことが大事で事故原因を究明して次の打ち上げを連続して成功させれば、マーケットはついてくると思う」と話していました。

打ち上げ失敗の原因については「2段目のロケットの燃焼は完璧だったので、3段目との分離までに、小型のエンジンやロケットの姿勢を把握するセンサーなどになんらかのトラブルが起きた可能性がある」と指摘しました。

一方、新型ロケット「H3」の開発などへの影響については「今回の失敗で開発が止まることはないと思う。今回の事故による影響がないか徹底的に評価するはずだ」と話していました。

官房長官「重く受け止め 原因究明と必要な対応講じたい」

松野官房長官は、12日午後の記者会見で「JAXAからは『イプシロン』ロケットの打ち上げ失敗について、第2段と第3段の分離可否の判断時点で目標姿勢からずれ、当初の軌道に投入できないとの判断により、午前9時57分に『指令破壊信号』を送出したとの報告がなされていると承知している」と述べました。

そのうえで「文部科学省やJAXAの対策本部を中心に、原因の把握と対策の検討が行われる。今後の宇宙政策にどのような影響を与えるか、現時点で予断を持って言える状況にはないが、打ち上げ失敗を重く受け止めて、原因の究明を早急に進め、必要な対応を講じていきたい」と述べました。

文科相「信頼取り戻すべく 関係者とともに全力で対応」

永岡文部科学大臣は12日午後に談話を発表し「打ち上げが失敗に終わり、国民の期待に応えられなかったことは、誠に残念だ。今回の事態を受け、文部科学省に対策本部を設置するとともに、専門的な見地からの徹底した原因究明を行うよう指示した。また、JAXA=宇宙航空研究開発機構に対し、状況の早急な把握などを指示した。早急に原因を究明して対策を立て、わが国の宇宙開発利用に対する信頼を取り戻すべく、関係者とともに全力で対応していく」としています。

日本の主力ロケット打ち上げ失敗例は

H2Aロケットでは、2003年11月に6号機が政府の情報収集衛星を載せて打ち上げられ、2本の補助ロケットのうち1本を切り離すことができず、予定の飛行ルートから外れたため地上からの指令で破壊されました。原因は、補助ロケットの「ノズル」と呼ばれる噴出口に穴が開き、補助ロケットを切り離すための装置が故障したことでした。このあと品質管理態勢が抜本的に見直されました。

日本の主なロケットの打ち上げ失敗は、H2Aロケットの前身のH2ロケットでも2回起きています。

【H2 5号機】
1998年2月に打ち上げられたH2ロケットの5号機では「2段目」のエンジンの燃焼が予定より早く止まり、載せていた衛星を予定の軌道に投入することができませんでした。

【H2 8号機】
1999年11月に行われたH2ロケット8号機の打ち上げも「1段目」のメインエンジンが壊れ、打ち上げは失敗しました。