ウクライナ きょうも全土で防空警報 ミサイル攻撃の詳細は?

ウクライナではロシア軍が10日、首都キーウなど各地への大規模なミサイル攻撃を行い、ウクライナの非常事態庁などによりますとこれまでに市民ら19人が死亡し、105人がけがをしました。キーウなどでは11日も一時、防空警報が出され、警戒が強まっています。

ウクライナ各地への10日の攻撃ではいくつの都市がねらわれたのか?
攻撃を受けた場所の被害状況はどのようなものだったのか?

詳しくまとめました。

10日の大規模攻撃「少なくとも18都市で被害」ウクライナ軍

ウクライナ軍は、10日のロシアによる大規模な攻撃でキーウやリビウなど少なくとも18の都市の20か所以上で被害が出たとしています。

攻撃には巡航ミサイルやドローンなどが使用されたということです。

ウクライナ軍の幹部は「同時に全方位から激しい攻撃が行われた」としていて、戦況について分析しているシンクタンク「戦争研究所」によりますとロシア軍はクリミアとベラルーシからもドローンを使った攻撃を行ったということです。

また、ウクライナと国境を接するモルドバのポペスク副首相兼外相・欧州統合相は10日、ツイッターに「黒海のロシアの艦船より発射された3発の巡航ミサイルがモルドバの上空を通過した」と投稿しました。

モルドバ政府は駐在するロシア大使を呼び出し説明を求めたとしています。

死者は19人に けが人105人

ウクライナの非常事態庁などによりますと10日の攻撃で、これまでに市民ら19人が死亡し、105人がけがをしたということで、さらなる市民の犠牲が懸念されます。

アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は、10日の攻撃について、巡航ミサイルやイラン製を含む無人機が使用され、ロシア西部の基地やカスピ海や黒海の海上から攻撃が行われ、さらにはクリミアやベラルーシからも無人機が攻撃に使われたと指摘しています。

また、ロシア軍の攻撃について「ロシア国内の好戦的な勢力の要求に応える思惑もあったようだ」として、ショイグ国防相など軍部への批判が高まる中、プーチン大統領が国内の強硬派の主張に耳を傾けざるを得なかったという見方を示しています。

一方、プーチン大統領は今後の攻撃について「わが国の領土でテロ攻撃の試みが続くなら、その脅威のレベルに応じた規模で厳しく対応していく」と述べていて、「戦争研究所」は、「核兵器による攻撃などにすぐに踏み切るのではなく、エスカレーションの段階を慎重に上げていく可能性を示唆している」という分析を示しています。

首都キーウ 大統領府に近い中心部に複数の攻撃

イギリスBBCなどによりますと、10日のロシア軍による大規模なミサイル攻撃で、ウクライナのキーウ中心部の▽国立キーウ大学が立地する大通り「ヴォロディミルスカ通り」
▽市民の憩いの公園として知られる「タラス・シェフチェンコ公園」
▽それにドイツ大使館の領事業務を行う事務所や、韓国のサムスン電子の支社が入っているオフィスビル「101タワー」
▽また、ドニプロ川を望む有名なガラスの橋、などが攻撃を受けたということです。
これらの建物や場所はすべて大統領府から1キロから3キロほどの距離しか離れていません。

「東部ドニプロ 住宅地にミサイル攻撃」ウクライナ外務省

ウクライナ外務省の幹部は10日、東部ドニプロの住宅地がロシアのミサイル攻撃を受けた瞬間とする車のドライブレコーダーが捉えた映像をSNSで公開しました。

映像では、車が複数台道路を走行していたところ、突然、前方で大きな爆発が2回起き、激しい炎が上がる様子が映っています。

爆発の衝撃で電線が大きく揺れ、周囲にはガラスとみられる破片などが飛び散り、爆発のあった方向に向かっていた車や人々があわてて引き返す様子も捉えられています。

映像を公開したウクライナ外務省の幹部によりますとドニプロでは10日、ロシアのミサイル攻撃により4人が死亡、20人がけがをしたということです。

キーウなどでは11日も防空警報

ウクライナでは、11日午前8時前、日本時間の午後2時前に首都キーウなどに防空警報が出され、その後、西部の都市リビウなど全土に拡大されましたが、キーウを含めてほとんどの地域で日本時間の午後7時半までに解除されました。

ウクライナ政府は国民に対して、避難場所にとどまるよう呼びかけています。

また、南東部ザポリージャ州のスタルフ知事は11日、SNSの投稿で、中心都市ザポリージャには、朝からのロシア軍による攻撃で12発のミサイルが撃ち込まれ、少なくとも1人の死亡が確認されたと明らかにしています。

ロシア軍は10日、キーウやリビウなど各地で大規模なミサイル攻撃を行ったばかりですが、ロシア国防省は11日、「本日、ロシア軍はウクライナ軍の指揮所とエネルギー施設に対し、空や海から大規模な攻撃を継続した」と発表しました。

ゼレンスキー大統領「典型的なテロリストのやり方」

ゼレンスキー大統領は10日に公開した動画で「ロシア軍は朝のラッシュアワーにわざとこのような攻撃をした。これは典型的なテロリストのやり方だ。より多くの恐怖をあおり、多くの人に動揺を与えたかったのだ」と述べ、ロシアを強く非難しました。

プーチン大統領「報復措置だ」

一方、ロシアのプーチン大統領は10日に安全保障会議を開き「ロシアはウクライナのエネルギー、軍事、通信施設に対して大規模な攻撃を行った」と述べました。

プーチン大統領は、一方的に併合したウクライナ南部クリミアとロシアをつなぐ橋で今月8日に起きた爆発がウクライナ側による破壊工作だったとしたうえで、その報復措置だと主張しました。

また「ウクライナの情報機関はロシア国内の発電所やガスの輸送インフラに対してもテロを試みている」などと主張したうえで「わが国の領土でテロ攻撃の試みが続くなら、その脅威のレベルに応じた規模で厳しく対応していく」と述べ、ウクライナ側を強くけん制しました。

米 バイデン大統領「違法な戦争の徹底的な残虐性」

欧米各国からは非難の声が相次ぎました。

アメリカのバイデン大統領は「市民を殺傷し軍事施設以外を標的とする攻撃は、プーチン大統領によるウクライナの人々に対する違法な戦争の徹底的な残虐性を示すものであり強く非難する」との声明を発表しました。

この中でバイデン大統領は「家族や愛する人々を無差別に殺害された人々に哀悼の意を表するとともに、負傷したかたがたの回復を心からお祈りする」としています。

そして「ロシアによる攻撃はウクライナの人々とともに立ち上がるという我々の連帯をさらに強めるだけだ。同盟国やパートナーとともに、プーチン大統領とロシアによる残虐行為と戦争犯罪の責任を追及し、ウクライナ軍が国と自由を守るために必要な支援を提供し続ける」としたうえでロシアに対し直ちに侵略をやめてウクライナから撤退するよう求めました。

英 トラス首相「プーチンが自暴自棄になっている明確な兆候」

イギリスの首相官邸によりますとトラス首相は10日、ウクライナのゼレンスキー大統領と電話会談しロシアによるウクライナ各地への攻撃を強く非難するとともに、軍事面などで引き続きウクライナを献身的に支えると強調しました。

会談後、トラス首相はツイッターに「市街地への驚くほどひどい攻撃は、プーチンが自暴自棄になっている明確な兆候だ。イギリスは、自由のために戦うウクライナを支え、重要な軍事物資を提供し続ける」と書き込み、全面的な支援を約束しました。

仲介役のトルコもロシアを非難

アメリカ・ニューヨークでは、10日、ロシアがウクライナの4つの州を一方的に併合するとしたことについて、ロシアを非難し即時撤回などを求める決議案を話し合う国連総会の緊急特別会合が始まりました。

およそ20か国が演説し、多くの国がロシアによる大規模なミサイル攻撃を非難しました。

ロシアとウクライナの仲介役を務めてきたトルコのシニリオール国連大使も「全世界が戦争の終結を呼びかけるなか、わたしたちは再び衝撃的なニュースで目を覚ました。市民が死傷したロシアの攻撃は深く憂慮すべきであり、容認できない」と非難しました。

松野官房長官「断じて正当化できず、強く非難」

松野官房長官は閣議のあとの記者会見で、今のところ日本人の被害情報は入っていないとしたうえで「ロシアの攻撃により、ウクライナ各地で多くの市民が犠牲になっていることを極めて深刻に受け止めている。民間人や民間施設への攻撃は国際法違反であり、断じて正当化できず、強く非難する」と述べました。

岸田首相 G7緊急首脳会合に出席へ

また、岸田総理大臣が日本時間の11日夜、オンライン形式で開かれるG7=主要7か国の首脳による緊急会合に出席することになったと発表しました。
岸田総理大臣は、G7=主要7か国の首脳とオンラインで会談し、ロシアによるウクライナの首都キーウなどへのミサイル攻撃を受けた今後の対応をめぐって意見を交わすということです。

会談では、G7としてロシアによる攻撃を強く非難するとともに、ウクライナへの支援で結束した対応を確認する見通しです。

松野官房長官は記者会見で「民間人や民間施設への攻撃は国際法違反であり、断じて正当化できず強く非難する。G7をはじめとする国際社会と緊密に連携し、ロシアに対し即時に侵略を停止し、部隊を撤収するよう改めて強く求めていく。G7の結束を確認し、国際社会に強力なメッセージを発出していきたい」と述べました。

専門家「核大国 米ロの協議や接触が必要」

ロシアの政府系シンクタンク「ロシア国際問題評議会」のアンドレイ・コルトゥノフ会長は、NHKのインタビューに対し、プーチン政権は、軍事侵攻の大義を特別な軍事作戦から祖国防衛のための戦いに変えたという見方を示しました。

そのうえで、核戦力を使用する危険性に触れ、ロシアとアメリカによる対話の必要性を訴えました。

【一方的な「併合」】
コルトゥノフ氏は、ウクライナでの戦況に関連して「政権側は、『特別軍事作戦』としていたものを今では『祖国戦争』として見せようとしている。ロシアは、自分たちが併合した地域で戦闘が起きれば、領土の一体性への侵害だと主張し、相応の対応をとる」と述べ、プーチン政権は、ウクライナの4つの州の一方的な併合に踏み切ったことを受けて、軍事侵攻の大義を祖国防衛のための戦いに変え、動員も含めて国民の理解を得るねらいだと指摘しました。

【核戦力の使用は?】
また、ロシアが核戦力を行使する可能性について、コルトゥノフ氏は「ロシア指導部は、欧米の軍事支援の強化を懸念している。核のリスクは、NATOがウクライナの紛争により直接的に、より大規模に関わった場合、増加するだろう」と指摘しました。

そして「プーチン政権は、いまでは戦争がロシアの領土内で直接起きていて、ウクライナだけでなく核兵器の保有国を含む欧米側が 活発に関与していると主張することができる」と述べウクライナの4つの州を一方的に併合したことで、プーチン政権が核戦力を使用する危険性が高まるという見通しを示しました。

そのうえで「何よりも核大国であるロシアとアメリカの問題であり、何らかの協議や接触が必要となる」と述べ、米ロ両国による対話の必要性を訴えました。