更年期の不調、会社が支えます

更年期の不調、会社が支えます
仕事のちょっとしたスキマ時間に、更年期の不調をオンラインで診療してもらう。社員のために、こんなサービスを導入した企業があります。
福利厚生は「男性も女性も同じ内容」ではなく、「それぞれの体の事情に合わせた」サポートへ。今、企業の考え方が変わり始めています。

更年期を支える新サービス

「頭痛と肩凝りはだいぶよくなって、気持ちの面もかなり持ち直してきました。漢方なんですけど、ずっと飲み続けたほうがいいのか…」
仕事の昼休み、誰もいない会議室でパソコンに向かう服部幸子さん(50)。
日本航空のグループ企業で財務管理を担当しています。
画面の向こうで質問に答えているのは更年期に詳しい婦人科の医師です。
医師
「継続的に飲んでいたほうが安定するんですけど、もし1度やめてみたいということであれば、ご自身のタイミングでやめていただいても結構です。やめどきがわからないという意見もあるので」
服部さん
「まだ4か月なので、もう少し長い目でみてみようと思います」
このオンライン診療、薬の処方、宅配までしてくれて、費用はすべて会社が負担しています。

服部さんが利用するのはこの日が4回目。症状はかなり改善されたといいます。
ジャルセールス 財務グループ 服部幸子 グループ長
「会議と会議のスキマ時間にすべてが終わり、診療に関するストレスが全くないです。冷たいものが好きで、水筒に氷を入れてずっと冷たいものを飲んでいたのですが、手足が冷えるなら注意したほうがよいとアドバイスももらいました。先月は1回も頭痛も肩凝りもなく業務に影響がなかったのと、先生がついてくださるということで気持ちの落ち込みもなくなっています」

責任が重くなり…不調を我慢しがち

最近は「男性更年期」ということばもよく目にするようになりました。男性はストレスなどで男性ホルモンが減ることが不調の要因となると考えられています。

一方女性は、閉経する前後のおおむね45歳から55歳で誰もが女性ホルモンの急激な減少を経験し、心身に大きな影響を与えることが分かっています。

女性は、この時期に体調を崩しやすい体の仕組みになっているのです。

現在50歳の服部さんも不調を感じるようになったのは半年ほど前。気持ちの落ち込みや頭痛、肩凝りなど更年期の症状が出て、休日には家事を夫にまかせて1日寝ていることもあったといいます。

ただ、自分に合いそうな婦人科を探して、平日に仕事を休んで通う手間を考えると、日々の忙しさに流されて行動に移せずにいたそうです。
職場では17人の部下を束ねるグループ長のため、同僚や部下にも気を遣わせたくないと思い、言い出せなかったといいます。
服部さん
「管理職の大切な業務の1つにメンバーのモチベーションを上げるということがあるんですけど、気持ちが落ち込んでいる時にメンバーのモチベーションを上げるというのが非常に苦しくて。

私が会議とかで忙しくしていると、なんとなく気を遣っていま声をかけるのをやめようといったことを肌で感じているので、そこに体調が悪いというのが加わるとメンバーが私に意見や質問をする機会を奪ってしまいそうで。なるべく『いつも元気だよ』とみせようとして、より更年期の症状を隠してしまうようなところがありました」
こうしたケースは多いと、オンライン診療に当たっている医師は指摘します。
フィデスレディースクリニック田町 内田美穂 院長
「我慢してしまう人が多いですね。特に40代、50代で働いている女性はなかなか時間がとりづらい。場合によっては対面での診察が必要になることもありますが、オンライン診療で不調が改善することがあるので、福利厚生で対応するのはすごくメリットがあるのではないかと思います」

社員のパフォーマンス向上に期待

日本航空がこのサービスを試験的に導入したのはことし5月。
これまでにおよそ50人が利用しています。

利用者に体調が改善したかアンケートしたところ、症状が仕事や日常生活に影響した日数は、はじめは1か月当たり平均8.18日でしたが、3か月目には6.40日と、2日ほど短くなったそうです。

サービスを導入した担当者は、社員の体調をサポートするメリットについてこう話します。
日本航空 人財戦略部 島大貴 アシスタントマネジャー
「更年期の症状で昇進の辞退や転職を考えた社員がいます。我慢しなきゃといった感覚や、どの医療機関にかかったらよいのか分からないといった不安を少しでも解消することで社員のモチベーションにもつながり、満足度が上がることは非常に大きなメリットだと思います。

これは当然、仕事でのパフォーマンスの向上につながりますし、お客様に提供していくサービスの品質そのものが向上していくことにつながっていくと考えています」

注目されるメノテック市場

こうした更年期の悩みを技術で解決しようという商品やサービスは、「メノテック」と呼ばれています。

英語で更年期を指すメノポーズとテクノロジーを組み合わせた造語です。

国内では第2次ベビーブームの世代が更年期にあたり、就業する女性の4人に1人を占めることから、新たなサービスが相次いで登場しています。
「TRULY」が提供しているチャット相談
医師や看護師、薬剤師がLINEのチャットで更年期の症状や不調の相談に応じるサービス。男女両方の社員に対応。

更年期に関する情報発信を行っている会社が去年から開始。

ことし8月からは症状を理解してもらうための研修コンテンツの提供も始まり、試験的な導入も含めて20社3自治体が利用しているという。
「よりそる」の更年期コミュニケーションアプリ
その日の体調や要望をAIがLINEのメッセージやスタンプにしてパートナーなどに伝えてくれるサービス。

月に5回まで使えるカウンセリング機能も。

女性が感じている更年期の症状と、パートナーが気付いている症状に大きな差があるという調査結果をもとに、コミュニケーションギャップを埋めるツールとして作ったそう。

変わる企業の意識

更年期をサポートするサービスを提供しているベンチャー企業の「LIFEM」。
9月始め、大手化粧品メーカーとの商談に臨んでいました。
「ポーラ・オルビスホールディングス」は女性社員が全体の75%を占め、すでに月経のトラブルをサポートするサービスを導入しています。今回さらに更年期世代向けのサービスの導入を検討していました。

こうした女性の体の不調を念頭に置いた福利厚生メニューをつくり始めたのはこの1年ほどのことだそうです。
ポーラ・オルビスHD 健康経営タスクフォース 中沢和也 リーダー
「こうした話題はタブー視されているところもありますし、女性の問題というところで男性には実感もできないという面がありますが、そうした理解があるかないかで日常の関係性でも抱く感情や言動に違いが出てきます。

人材への投資は次の世代に目を向けがちですが、こういったプログラムを通じてあらゆる世代、属性の人を大事にしているというメッセージの発信につながると考えています」
サービスを提供する会社には、同じように導入を検討したいという問い合わせが、この半年間で3倍ほどに増えたといいます。
LIFEM 菅原誠太郎 代表取締役
「企業の中には男女で同じ施策をしたいというところもあります。しかし女性は月経や更年期などホルモンバランスに左右され、男性よりも体調を崩しやすい。これはベースとして平等ではないので、カバーして公平にすることが大事で、そうしたサポートをしていこうという企業は増えてきていると思います」

体の事情に合わせたサポートをする時代へ

ことし7月末、連合東京が開催したオンラインセミナーで講師をつとめた長井聡里さん。
産業医で、職場の健康管理などをサポートする会社の経営者でもある長井さんは、これから企業に求められるのは社員の“男女の性差”を踏まえた支援策だと訴えました。

全員に同じサポートをする時代から、体の事情に合わせたサポートをする時代へ。
それが結果的に、互いを理解し、誰もが働きやすい職場につながると話します。
JUMOKU 代表取締役 長井聡里医師
「最近、男性にも講演する機会が増えましたが、女性よりも男性のほうが反響があります。『これまで更年期について知らなかったから(部下の女性などに)不適切な対応になっていた』とか、『イライラしているのは気難しい人だとしか思っていなかったが、一歩引いて見守ろうという気持ちになった』という声もありました。体が大変な時、それを分かってくれるだけでも違います。
女性の更年期は“峠越え”。男性とは明らかに違います。我慢するか、休むかの2択ではない解決策が必要です」
(ネットワーク報道部記者 金澤志江 報道番組センターディレクター 市野凛)