バス置き去り園児死亡1か月 園の再開に保護者から不安の声も

静岡県牧之原市の認定こども園で、3歳の女の子が通園バスの車内に取り残され、熱中症で死亡した事件から5日で1か月になります。警察は園が安全管理を怠ったとみて捜査を進めていて、県や市も特別監査の結果を踏まえ、改善勧告を出すかどうか近く判断することにしています。

先月5日、牧之原市にある認定こども園「川崎幼稚園」で河本千奈ちゃん(3)が駐車場に止められた通園バスの車内におよそ5時間にわたって取り残され、重度の熱中症で死亡しました。

園はバスを運転していた当時の理事長が、車内の確認を怠ったうえ、教室で姿が見えないのに担任が保護者に問い合わせをしていないなど、複数のミスが重なったことが原因だと説明しています。

こども園は休園を続けてきましたが、登園時などの人数確認のマニュアルを改定するなど安全対策を講じたとして、3日から再開しました。

一方、今回の事件を受けて、転園した園児も相次いでいます。

市によりますと園には167人の園児が通っていましたが、4日までに保育部に通う13人と幼稚部に通う9人の合わせて22人の園児の保護者から転園の申し込みがあったということです。このうち15人についてはすでに転園先が決まっているということです。

市は、引き続き転園の申請を受け付けることにしています。

牧之原市子ども子育て課の前田明人課長は「転園の申請を行った保護者のなかには、園が行った2度の説明会に出席しても不信感が拭えなかったという人が多いです。転園により、園児たちの環境が大きく変わることが懸念されるので、心のケアに努めていきたい」と話していました。

保護者向け説明会 再開に疑問の声も

こども園が先月23日に開いた保護者向けの説明会では、園を再開する方針に対して出席した保護者から疑問や不安の声が相次ぎました。

説明会では、こども園を運営する学校法人の後任の理事長に就任した増田多朗氏が、安全対策を講じたうえで園を再開する方針を説明しました。

これに対し、保護者からは「ふだんから朝や帰りの様子を見て、ちょっと大丈夫かなと思うところがありました。どうして保護者の不安の声を聞かずに、『もう安全です、これでスタートします』と言えるのか不思議です」という疑問の声が上がりました。

また、園が再発防止のために人数確認のマニュアルを改定したという説明に対して、別の保護者からは「どんなによいマニュアルができても、同じ先生が園児を見る以上、同じようなことが起こると考えています」という不安の声も出ました。

一方、出席した保護者からは「園を再開してほしいという気持ちもありますが、ご遺族の気持ちも大切にしてほしいので、再開までの1週間に、無理にご理解をいただくことがないようにしてほしい」という意見も出されました。

説明会ではこのほか、通園バスの乗務員がシルバー人材センターから派遣されていたことについても意見が出され、保護者の1人は「バスの送り迎えをしている高齢の職員はキャパシティーを超えていると思っていました。園児を教室まで連れて行くのを助けたこともありました」と話していました。

保護者「信じて預けるしかない」

こども園に子どもを預けたという保護者の1人はNHKの取材に対し「園が再開したことはほっとしました。ご遺族の心情を考えると複雑な気持ちもありますが、ほかの園に移るのは距離的に難しく、園を信じて預けるしかありません。マニュアルを見直したといっても安全が確保されたわけではないので、再発防止を徹底するよう努めてもらいたい」と話していました。

再発防ぐための対策は

こども園では、今回の事件の原因について、出欠の管理に利用していたアプリの確認が不十分で、女の子が教室にいなかったのに保護者に問い合わせをしないなどのミスが重なったと説明しています。

登園時の人数確認は、以前は午前9時にアプリを確認する1回のみとなっていたため、園では再発防止のため、人数確認のマニュアルを改定し、合わせて4回チェックすることにしました。

具体的には、まず、クラスの担任や補助が、午前9時15分と45分の2回、アプリを確認したうえで、欠席や遅刻などの入力があった園児の情報をホワイトボードに書き込むとしています。

そして午前9時50分には、クラスからの報告がなくアプリへの入力やボードへの記載がない園児については、園長か副園長が担任に対して保護者への連絡状況を確認するとしています。

そのうえで午前10時に、園長か副園長が各クラスを回って点呼を行い、名簿に丸をつけることにしています。

こども園の弁護士によりますと、園では先月29日と今月1日の2回にわたって、保護者の立ち会いのもと、改定したマニュアルに沿ってシミュレーションを行い、再開は可能だと判断したということです。

理事長「悲惨な事件 絶対に起こさない」

こども園の再開にあたり、園を運営する学校法人の増田多朗理事長が報道陣の取材に応じました。

この中で増田理事長は、改めて女の子と遺族に謝罪したうえで、業務の開始前に職員全員で黙とうしたことを明らかにしました。

そして、園の再開を決めた理由について「ご遺族の気持ちを考えると再開の判断はなかなかできませんでしたが、再開を望む声が保護者からも上がったので、安心安全なマニュアルが整備されたことをもって判断しました」と説明しました。

そのうえで「ご遺族の納得は得られていないと思いますがこれまでのやり取りの中で特に反対という意見はありませんでした。悲惨な事件は絶対に起こさないという覚悟で、皆さんに納得していただけるような園を目指してまいりたい」と述べました。

一方で、バスによる送迎の再開については現在、マニュアルを整備している段階だとして「何度もシミュレーションをして保護者に見てもらい、納得していただいた段階で再開することになります」と説明しました。

理事長によりますと、今回の事件を受けてこども園の杉本智子副園長と女の子のクラスの担任は先月末をもって退職したということです。

県の監査に落ち度も チェック機能を強化へ

今回の事件をめぐっては、認定こども園の安全管理を監督する静岡県の監査が不十分だったことも明らかになりました。

去年7月に福岡県の保育園で園児が送迎バスの車内に取り残され熱中症で死亡した事件を受けて、国は翌月、送迎バスの乗車時と降車時に人数を確認し、その内容を職員の間で共有することなどを求める通知を出しました。

一方、県によりますと、去年11月に実施した川崎幼稚園の定期監査では、この通知の内容が監査の項目に反映されておらず、口頭での注意喚起にとどまったということです。

これについて県福祉指導課の小池美也子課長は「年度の途中でも重大事故につながるような可能性があるものについてはチェックをして注意を促すことが必要だったと反省している」と述べています。

また、川勝知事も会見で「監査に落ち度があった」と述べ県の対応が不十分だったことを認めています。

今回の事件を受けて、県は今後、こども園や保育所などへの抜き打ちの監査を実施することを検討していて行政によるチェック機能を強化する方針です。

また、県はこれまで、県内の保育施設などが送迎バスを運行する際の基準となる安全管理の指針を県独自に策定していなかったことから、今月中に取りまとめることにしています。

送迎バスに安全装置設置義務づけへ

この事件で警察は園が安全管理を怠ったとみて業務上過失致死の疑いで捜査を進めています。

先月中旬にはバスを現場の駐車場に止めて車内の温度がどのくらい上がるのかの検証を行い、45度を超えたことを確認しました。

一方、県と市もこども園に特別監査に入り、安全管理上の問題点について調査を進めていて改善勧告を出すかどうか近く判断することにしています。

また、国も制度の見直しに動いていて、小倉少子化担当大臣は先月29日、保育所などの送迎バスに安全装置の設置を義務づけるよう関係府省に指示しています。