プーチン政権 併合強行の構えも 要衝失い動員混乱も続き痛手か

ロシアでは、ウクライナの4つの州を併合するための関連法案が議会で審議されるなどして、プーチン政権は一方的な併合を強行する構えです。
これに対し、ウクライナ軍は東部の要衝を奪還するなど攻勢を強めていて、プーチン政権にとっては動員をめぐる混乱も続く中、政治面でも痛手となっているという見方が出ています。

ロシアのプーチン大統領は2日、ウクライナ東部や南部の4つの州を併合するための関連法案や、批准を求める「条約」だとする文書を議会下院に提出しました。

これを受け、議会下院は3日、4つの州を併合するための「条約」だとする文書について可決しました。

今後、4日に上院での審議を経た上で、プーチン大統領が署名し、一方的な併合を強行する構えです。

これに対し、ウクライナのゼレンスキー大統領は2日、「ウクライナ軍の成果は、リマンに限ったものではない」と述べ、東部ドネツク州の要衝リマンに続いて、南部ヘルソン州にある複数の集落を奪還したことを明らかにし、攻勢を強めています。

アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は2日、「リマンでのロシアの敗北は、ロシア軍のキーウからの撤退や東部ハルキウ州からの撤退以上にロシアで否定的な報道が出てきている」と指摘しています。

そして、プーチン大統領に強い忠誠心を示す武闘派の側近らが軍部を痛烈に批判したことについて、結果的にプーチン大統領の指導力を弱体化させたという見方を示しています。

また、プーチン大統領が予備役の動員の過程で誤りがあったことを認めたことについて、イギリス国防省は3日、「最初の1週間で、動員が機能不全に陥っていたことを浮き彫りにしている」と指摘しています。

プーチン政権は、ウクライナの4つの州の一方的な併合を強行する構えですが、東部の要衝を失うなど劣勢が続き、予備役の動員をめぐる混乱も広がる中、ウクライナの戦況だけでなく政治面でも痛手となっているという見方が出ています。

ウクライナがリマン奪還 今後の影響は

要衝のリマンはウクライナ東部ドネツク州の北部にある街で、鉄道などで周辺の都市とを結ぶ交通の拠点として知られます。

近くにはドネツ川が流れていて、ロシア軍とウクライナ軍はこのドネツ川をめぐっても激しい攻防を続けてきました。

ロシア国防省はことし5月にリマンを掌握したと宣言し、その後、ロシア軍はリマンを足がかりのひとつにして東部ドンバス地域への侵攻を続けてきました。

リマンから部隊を進軍させ、鉄道などを使って補給活動も行ってきたとみられます。

しかし戦況を分析するイギリス国防省は、ロシア軍はこれまで西部軍管区と中央軍管区、それに自発的に動員された兵士によってリマンの支配を維持してきたものの兵員が不足していたと指摘しています。

プーチン政権にとっては、ウクライナでの戦況が劣勢に陥る中、先月の東部ハルキウ州の大部分に続き、今回、リマンを失ったことは軍事面で大きな打撃になったとみられ、特にドンバス地域への完全掌握に向けた補給活動などが一層困難になるとみられます。

3日付けのロシアの有力紙「独立新聞」は撤退について1面で伝え、「リマンの降伏が政治問題化」というタイトルで要衝からの撤退をきっかけにロシア国防省や参謀本部に対する批判が専門家だけでなく政治家からも起きていると伝えています。

この中で、プーチン大統領に強い忠誠心を示す武闘派の側近でウクライナ侵攻ではチェチェンの戦闘員を率いているカディロフ氏やかつて軍の司令官だった議会下院の議員が「問題は前線の状況を理解していない国防省にある」と批判したと伝えています。

そして、「前線で起きている問題の責任者として陸軍司令官の名前が公然と非難されたのは軍事作戦が始まって以来初めてだ」と指摘し、今後、プーチン大統領による新たな人事の決定がなされるのかどうかが注目されるとしています。

アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は2日、「リマンでのロシアの敗北は、クレムリンが効果的かつ公平に部分的な動員を実施できなったことと重なり、ロシアの言論空間に大きな変化をもたらした」としたうえで、今回の撤退について「ロシア軍のキーウやハルキウ州からの撤退以上に混乱と否定的な報道が出てきている」と指摘しています。

そして、クレムリンはリマンなどの敗北の打撃を和らげようとしているものの、カディロフ氏などの軍部批判が結果的にプーチン大統領の指導力を弱体化させるものとなったという見方を示しています。

このため、ロシア国内で予備役の動員をめぐる混乱も広がる中、リマンを失ったことはウクライナの戦況だけでなくプーチン政権にとって政治面でも痛手となっているという見方が出ています。

一方、欧米の軍事支援を受けるウクライナ軍はリマンを奪還したことで、ドネツク州内のほかの拠点の奪還に向けても攻勢を強めるとみられ、今後は、リマンから地理的に近い東部ルハンシク州の拠点、リシチャンシクやセベロドネツクの奪還も目指す可能性があります。