防衛力を5年以内に抜本強化 年末に向け有識者の意見取りまとめ

防衛力の抜本的な強化に向けた政府の有識者会議の初会合が開かれ、岸田総理大臣は、省庁の縦割りを打破して総合的な防衛体制を検討するとともに、予算や財源のあり方についても議論を進め、年末に向けて意見を取りまとめるよう要請しました。

防衛力を5年以内に抜本的に強化するため、政府が新たに設置した有識者会議の初会合は30日夕方、総理大臣官邸で開かれ、外交・防衛や経済・財政の分野などの専門家に加え、岸田総理大臣や林外務大臣、浜田防衛大臣などの関係閣僚も出席しました。

この中で、岸田総理大臣は「あらゆる選択肢を排除せず、現実的に検討し、防衛力を抜本的に強化していく。その際、官民の研究開発や公共インフラの有事の際の活用などを含め、縦割りを打破し、総合的な防衛体制の強化を検討していく必要がある」と述べました。

その上で「防衛力の強化は一過性のものではなく、一定の水準を維持・継続する必要があり、そのためには経済力の強化も不可欠だ。経済・財政のあり方についても議論をいただきたい」と述べ、年末に向けて意見を取りまとめるよう要請しました。

政府は、年末にかけて「国家安全保障戦略」など安全保障関連の3文書を改定するとともに防衛費の増額を目指す方針で、有識者会議では総合的な防衛体制の強化や防衛関連の新たな予算の枠組み、そして、その裏付けとなる財源などを議論することにしています。
日本の防衛費の規模は、おおむね、中期防=中期防衛力整備計画に基づいて決まっています。

安全保障環境が厳しさを増す中、当初予算ベースでは、平成26年度以降、今年度までの9年間で10%増加し、令和4年度は5兆3600億円あまりとなっています。

一般会計の総額の5%を占め、「公共事業費」や「文教および科学振興費」とほぼ同じ規模です。

一方、政府・与党の間で防衛費増額の1つの目安として議論にのぼるNATO=北大西洋条約機構は「国防費」として沿岸警備にかかる費用なども含めていて、財務省によりますと、この基準に該当する費用は日本は昨年度・令和3年度でおよそ6兆9000億円。

対GDP比で1.24%となっています。

NATOは加盟国の国防費について対GDP比で2%という目標を掲げていますが、直近のデータで見ると、
▼フランスが1.93%、
▼ドイツは1.49%と
▼イタリアは1.54%
▼カナダは1.36%と2%に届いていない国もあります。

ただ、ロシアによるウクライナ侵攻を受けて、EU=ヨーロッパ連合域内のNATO加盟国の間では、国防費の増額の議論が活発になっています。

このうちドイツは、今年の予算から1000億ユーロ、日本円にしておよそ14兆円の特別基金を設立して、国防費を増額するなどの対応を進めています。

また、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を受けて、NATOへの加盟を申請している北欧のスウェーデンは、ことしから2025年にかけて国防費を毎年50億クローネ、日本円でおよそ640億円ずつ増額することを決めています。

スウェーデンは国防費増額の財源として
▼たばこ税、酒税の税率引き上げや
▼大手金融機関向けに「銀行税」を導入する方針を打ち出しています。

岸田総理大臣は防衛力強化の議論について、「中身と予算と財源を3点セットで議論する」と述べていて、今後の有識者会議では防衛力の中身とあわせて財源をどう確保するのかといった点も焦点となる見通しです。

有識者会議・佐々江座長「さらに深掘りして議論していく」

会議の座長を務める元アメリカ大使の佐々江賢一郎氏は、記者団に対し「抜本的な防衛力の強化の必要性を前提とした上で、NATO=北大西洋条約機構の基準の問題や、全体的な財源のあり方のバランスの重要性などについて所見を申し上げた。それぞれが述べた論点は明確になっているのでそれをさらに深掘りして議論していく」と述べました。