1万円で1万7000円分お買い物? 地域発行の商品券とは

1万円で1万7000円分お買い物? 地域発行の商品券とは
物価高騰を受けて、いま全国の自治体が住民の家計や事業者の経営を支援しようと相次いで発行しているのが、地域限定のプレミアム付き商品券。そんな中、岡山県のとあるまちが、1万円で購入すると1万7000円分の買い物ができる商品券を発行しました。プレミアム=割増率は実に70%。なぜ、まちはこんなに高いプレミアムの商品券を発行したのか?効果は出ているのか?それを確かめるため、現場に向かいました。(岡山放送局 内田知樹記者)

発行したのは人口7万足らずのまち

70%のプレミアム付き商品券を発行したのは、岡山県総社市。
人口はおよそ7万人。

政令指定都市の岡山市に隣接するなど、都市部へのアクセスが良いことや、近年子育て支援に力を入れていることもあり、人口は増加傾向にあります。
総社市はことし8月、「物価対策応援券」として70%のプレミアム付き商品券を発行しました。

発売初日、市役所にはさっそく商品券を買い求める市民の行列ができていました。

まちに行ってみた

それから、およそ1か月がたった9月下旬。

商品券は市内およそ500の店舗で使えるということで、訪れてみると、街中の至る所に商品券ののぼりが立っていました。
そのうちのひとつ、クリーニング店に入ってみました。

「重油の価格がおととしの2倍以上になるなどコストが上がっていただけに、非常に助かっています」

そう語るのは、クリーニング店の前田和昭専務です。
この老舗クリーニング店は、市内で4店舗を展開しています。

ボイラーを炊いて発生させた蒸気の熱でクリーニングをしていますが、燃料である重油の価格が上昇。

さらに洗剤や商品のカバー、ハンガーなどのコストもかさみ、料金を値上げせざるをえなかったということです。

そうした中、商品券が発行され、すぐに手応えを感じたといいます。
前田専務
「プレミアム商品券を使って、料金が数千円と単価が高いソファーカバーやじゅうたんなどふだんクリーニングに出せないものを持ってくるお客もいる」
いまでは、売り上げのおよそ2割が、商品券で占められているということです。

つづいて訪れたのは洋菓子店です。
すると、ちょうど商品券を使ってケーキを買い求めるお客さんがいました。
洋菓子店のお客さん
「1500円分使いました。家計を預かる身としては、助かっています」
この洋菓子店も、原材料価格の高騰に直面。

週に50キロの輸入小麦を使っているということですが、コロナ前と比べると1袋=25キロあたり800円ほど値上がり。

そのほか、ケーキ作りに欠かせない乳製品や果物も値上がりしています。
このため、これまでに看板商品のシュークリームをはじめ、ほぼすべての商品の値上げに踏み切りました。

客離れも懸念していたやさきに商品券が発行され、平日で50枚、休日で100枚ほど利用があるといいます。
洋菓子店の店主 日置尚孝さん
「原材料の高騰に加えて、夏場は洋菓子店の売り上げが落ち込む時期ですが、プレミアム付き商品券のおかげで、変わらずお客が来てくれている面もあると思う」
発行から1か月でおよそ6割の市民が購入したということで、市民からも事業者からも歓迎の声が聞かれました。

なぜこんなに高いプレミアム?

全国的に自治体が地域商品券を発行する中、プレミアムは20%から30%程度が多くなっています。

総社市は、なぜ70%という高いプレミアムの商品券を発行したのか?

次に、市役所へ取材に向かいました。

取材に応じてくれたのは、担当の林課長。
高いプレミアムにした理由を尋ねると、まず示されたのが、ことし6月に市内の事業者を対象に物価高騰の影響を聞き取ったアンケート結果でした。
“燃料高騰で原価率が50%を超えてきている”

“ことしが本当に苦しい”

そこには、コスト上昇に苦しむ事業者の生の声が記されていました。

アンケート結果をみて、飲食店から自動車関連まで幅広い業種が、予想以上に深刻な状況に置かれていると認識したといいます。
林課長
「新型コロナの影響があった去年までと比べて客足は増えているのに、原材料費の高騰で利益が圧迫されていることが分かった。これまでも40%、50%のプレミアムが付いた商品券を発行してきたが、今回はよりいっそう消費を喚起し、事業者への支援につなげるため20%上乗せした」
地域経済の冷え込みを避けるには、思い切った政策が必要だと判断。

プレミアムを70%に引き上げ、住民に「お得感」をアピールすることにしたということです。

高いプレミアム 市の負担は?

しかし、プレミアムを高くすると、その分、市が負担する金額も増えてしまいそうです。

どうやって、まかなったのでしょうか?。
林課長
「財源は、地方創生臨時交付金です。この交付金は、活用方法が自治体に委ねられている部分が大きく、総社市では市民にまんべんなく還元できる政策に使おうと決めて今回の商品券の事業費に充てました」
地方創生臨時交付金は、新型コロナの影響を受ける地方を支援するため、国が自治体に出している交付金で、人口などに応じて金額が決まります。

費用を交付金の範囲内におさめるため、対象を赤ちゃんからお年寄りまで市民全員としつつ、1人が購入できる上限を2冊分=1万円(プレミアム込みで1万7000円)にしたということです。

ほかの自治体では、購入額の上限が2万円を超えるケースもあり、総社市では上限を低めに抑えた形になっています。

つまり、総社市は、財源はほかの自治体と変わらないながらも、『プレミアムは高く、1人あたりの金額は抑える』戦略をとることで、今回の商品券を実現したというわけです。

効果あるか検証必要

一方、こうしたプレミアム付き商品券について、地域経済に詳しい専門家は本当の意味で効果があるかどうか、しっかりと検証する必要があると指摘しています。
岡山大学大学院社会文化科学研究科 中村良平特任教授
「確かに70%の割増率は大きく、短期的には消費喚起も期待できるが、長期的に見て地域経済の活性化につながるかは疑問がある。財源を国の交付金でまかなっているので、住民からも好評だと何度も発行したくなる。しかし、何度も繰り返すとお得に買い物ができることが当たり前になり、むしろそれがなくなった時に消費が落ち込んでしまうことも考えられる。この商品券によって、どれだけ販売額やサービスが増えて、プレミアム分を超えて消費を増やす効果が出ているのか、専門的な検証が必要だ」
国からの交付金を元手に、多くの自治体が発行しているプレミアム付き商品券。

ついプレミアムの高さに注目が集まりがちですが、あくまでプレミアム分以上に消費を押し上げられるかがポイントになるということです。

各自治体は単なる商品券の発行にとどまらず、地域の事業者の魅力や競争力を高める取り組みを促し、住民が継続して地元の店舗でもっと買い物をしたくなるような環境をつくり、地域経済の活性化につなげられるか問われています。
岡山放送局
内田知樹
2021年入局
長野県出身
事件担当を経て倉敷支局
県南西部のニュースを幅広く担当
昼食のパンやうどんの値上がりが心配