サンマ・秋サケがとれない!“秋の味覚”に異変 産地で何が?

サンマ・秋サケがとれない!“秋の味覚”に異変 産地で何が?
サンマの水揚げ量が全国有数の宮城県で、いま異変が起きています。

同じく宮城を代表する魚の1つ、秋サケとともに、水揚げが大幅に減っているのです。

こうした中、漁業関係者の頭を悩ませる、別の問題も起きています。

かつてない事態に、産地はどう対応しようとしているのでしょうか。
(石巻支局記者 藤家亜里紗、気仙沼支局カメラマン 上田大介、仙台放送局記者 伊藤奨)

主力のサンマがとれない!

「これがうちのサンマの主力商品です。サンマが不漁でこの秋でいったん販売休止になりそうです」

そう話すのは、宮城県石巻市の水産加工会社の平塚隆一郎社長です。

11年前の東日本大震災で工場は全壊。2年後にようやく工場の再建を果たしましたが、いま、サンマの不漁が経営を直撃しています。
震災後に販売を開始し、地元を中心に親しまれている主力商品は原料となるサンマの入荷が今シーズンはまだないため、在庫がなくなり次第、販売休止になる見通しです。

平塚さんの会社では、サンマは売り上げ全体のおよそ2割を占めるだけに、空いた穴をほかの魚で埋めるのは簡単ではありません。
平塚社長
「サンマの代わりに『何売るんだよ』という話になるので、サンマに代わるものが『じゃあこれ』っていうのは今のところはない。『この商品をこれだけで売り上げられます』というものはないので困っています」

サンマにサケ…宮城を代表する魚 激減

東日本大震災で大きな被害を受けた宮城県の漁業。震災から11年半を経て、インフラ面での復興はほぼ完了し、漁業産出額も2020年には震災前(2010年)の9割にまで戻りました。

しかしいま、主力の魚の水揚げ量が激減するという事態に直面しています。

宮城県を代表する魚、サンマと秋サケの漁業産出額の推移です。
東日本大震災で港や漁船などが被害を受け、大幅に減少したあと、一時的に震災前の水準まで回復しました。

しかし、漁獲量は徐々に減少。最近では震災直後を下回る水準まで再び落ち込んでいます。

はっきりした原因はわかっていませんが、温暖化などが影響しているとみられています。

原油高騰 漁業者を直撃

こうした状況に加え、漁業関係者にさらなる打撃を与えているのが、「燃料価格の高騰」です。
「きょうの水揚げはだめでした。いつもの6割~7割くらいかな」

石巻市の漁業者、木村優治さんが悲しそうに笑いながら言いました。
木村さんは地元で30年以上、底引き網漁でタイやタコなど四季折々の魚を取って生計を立てています。

震災で漁船などが大きな被害を受けましたが、3年後に操業を再開。水揚げ量はいま、震災前とほぼ同じ水準になりました。

しかし、このところの原油価格の上昇で大きな打撃を受けています。
底引き網漁はほかの漁に比べて漁船の操業で使う軽油の消費量が多く、1日当たりの消費量は1000リットルを超えます。

8月の軽油代は約200万円。1年前の1.5倍に上昇しました。
漁業者 木村さん
「軽油代は1回の航海当たり8~9万円くらいする。1日だけで。水揚げ量の少ない日は冗談で『休んでたほうがマシ』という話がでるくらい」
影響は水揚げにも。漁に使う網はナイロン製で石油が主な原料になっています。
海底を長時間引っ張るため、いたみやすく、毎日修繕が必要ですが、その材料も去年より3割ほど高くなっているといいます。

燃料の節約にと、近くの漁場で魚をとったり、スピードを抑えた運転を心がけたりしているため、これまでよりとれる魚の量が少なくなるのではないかと心配しています。
漁業者 木村さん
「スピードを抑えるとその分操業時間が減るので、不漁になるリスクもある。本当は速く向かって、早く漁場について操業すればそれに越したことはないんだけど、燃費を節約するためにゆっくり行けば操業時間が少なくなってしまう。なかなか難しい」
燃料代などの値上がりを受けて、県や塩釜市は今年度、漁業者に対して経費の一部を補助するなど支援をしていますが、原油価格の高騰がいつまで続くか、先行きは見通せません。

新商品開発 使うのは?

多くの漁業関係者が厳しい現実に直面する中、新たな取り組みも始まっています。
石巻市の水産加工会社の平塚さんの会社では、サンマが減って何もしないわけにはいかないと、新商品の開発に取り組んでいます。

注目したのは、最近水揚げが増えている「タイ」です。
お茶漬け用に切り身を加工して製品化しました。

1年の開発期間を経て、切り身の処理や味付けなどの工夫を重ね、9月から販売を始めました。

「あっさりしていてお茶漬けにあう」と評判は上々で、手応えを感じています。
水産加工会社 平塚社長
「サンマがとれなくなったり、暖かいところの魚が増えてきたりするなど、宮城の水産業は大きく変わってきている。加工の方法は全然違うところがあるので、変化に合わせてそれを習得していく。いろんなことにチャレンジしていきたい」

養殖に活路を

養殖に活路を見いだそうという動きも出ています。
宮城県気仙沼市の水産加工会社では、長年、秋サケを切り身などに加工して販売してきましたが、ここ数年、十分な量の秋サケが確保できない状態が続いています。
水産加工会社 阿部社長
「本来であれば天然の秋サケを買い付けして作業をしている時期ですが、きょうはサケがないのでほかの魚で代用しています。原料さえあればなんとか仕事はできますが、今の状況は苦しい」
8月下旬、社長の阿部さんが訪問したのは、岩手県の養殖施設です。
ここで進められているトラウトサーモンの養殖の様子を視察するためです。

トラウトサーモンは回転ずしのネタとしても人気が高く、養殖を目指して、ほかの加工業者などとともに、準備を進めているのです。
水産加工会社 阿部社長
「この稚魚をこれから海に持って行って育てられるといいんですけど」
阿部さんは、同じ悩みを抱える三陸沿岸の会社などと連携するとともに、将来的には漁協や魚市場とも協力し「三陸サーモン」として売り出したいと考えています。

来年1月には、海での試験養殖を始める予定です。
水産加工会社 阿部社長
「個別での生き残りは難しいとみんなが考え始めている。三陸のサーモンの養殖は、もっと大きなくくりでブランド化できればより大きな販路が築ける」

取材を終えて

サンマや秋サケの激減は、いつまで続くかもわからず、どう対応していいのか戸惑っている漁業関係者も少なくありません。また、後継者不足やコロナの影響など、宮城の水産業を取り巻く環境は震災前より厳しくなっています。

一方、県沿岸の水産関係者の多くは「水産業の復活なくして復興なし」と話しています。

水揚げ量の減少などの困難を乗り越え、宮城の水産業がどう将来を切り開いていくのか、今後も見続けていきたいと思います。
石巻支局記者
藤家 亜里紗
仙台放送局を経て2021年から石巻支局
石巻で旬の魚を目で見て味わって勉強しています。最近始めた船釣りではタチウオやサバ、スズキを釣りました。
気仙沼支局カメラマン
上田 大介
2011年入局
釧路放送局、甲府放送局を経て、2021年から気仙沼支局
カツオやサンマ、秋サケを中心に漁業の現場を取材。海の変化について日々学んでいます。
仙台放送局記者
伊藤 奨
福井放送局を経て2020年から仙台放送局(経済取材担当)
はらこ飯やサンマの炭火焼き
食欲の秋を楽しみたいと思います。