「幸せの国」ブータン 旅行者受け入れ再開も“観光税”3倍に

「幸せの国」として知られるヒマラヤの王国ブータンは23日、外国からの旅行者の受け入れを正式に再開しました。しかし、滞在日数に応じて課す税金をこれまでの3倍に引き上げるなど、観光政策を大幅に見直したことから、影響を懸念する声も出ています。

観光が主要産業の1つになっているブータンでは、新型コロナの感染拡大を受け、最長で3週間の隔離を義務づけるなどおよそ2年半にわたり、外国からの旅行者の受け入れを事実上、停止してきましたが、23日から隔離措置なしで、入国できるようになりました。

首都ティンプーに近い空港では、僧侶が集まって観光案内所の再開を祝ったほか、関係者が到着した旅行者1人ひとりに歓迎を表す白いスカーフを首にかけて出迎えました。

ブータンでは滞在日数に応じて課すいわゆる「観光税」を、ことし6月にこれまでのおよそ3倍にあたる1人あたり200ドル、日本円で2万8600円あまりに引き上げるとともに、これまでは税金と併せて徴収していたホテル代や移動費、ガイド料金を別にするなど、観光政策をおよそ半世紀ぶりに見直しました。

ブータン政府は旅行費用を高く設定することで、富裕層の割合を増やすねらいがあるとみられますが、業界団体などからは、割高感からブータンへの旅行自体が、敬遠されるのではと影響を懸念する声も出ています。

※1ドル=143円。

ロテ・ツェリン首相 “量より質の観光へ”

観光政策を大幅に見直したことについて、ブータンのロテ・ツェリン首相は「ブータンは小さな国なので大勢の旅行客を受け入れることはできない」と述べ、受け入れる人数は制限する必要があり、今回の見直しで「量より質」の観光がいっそう進むという考えを示しました。

その上で「それでも訪れてくれる人たちにここで使うことになるお金と時間に見合うだけの価値をお返ししたい」と述べ、質の高いサービスを提供することで旅行費用の増額について、理解を得たいとしています。

一方、日本ブータン学会の平山雄大理事は「ブータンとしては、コロナ禍でしばらく外貨を獲得できていなかったので今回の見直しを行ったのだろう。これまでのブータンの観光政策の転換点になるのではないか」と話しています。

そのうえで「航空券などの学生割引がなくなった一方、寺院などの入場料が新たに設定された。旅行費用はほぼ倍増になるので日本からの観光客は今後、確実に少なくなるのではないか」との見方を示しました。

国内の観光業界からは期待と不安の声

ブータン政府が旅行者に課す税金をこれまでの3倍にするなど、およそ半世紀ぶりに観光政策を大幅に見直したことについて、国内の観光業界からは期待と不安の声が上がっています。

首都ティンプーにある外資系の高級ホテルは、今回の見直しをチャンスととらえ、観光客の受け入れ準備を進めています。

このホテルでは、宿泊料金を1泊250ドルから600ドルと高めに設定し、富裕層に質の高いサービスを提供しようと、3か月前から、全てのスタッフを対象に、接客の講習を毎週行うなど、教育に力を入れています。

ホテルを運営するソナム・ペンジョーCEOは「私たちは、新しい観光政策に期待しています。私たちはブータンを評価してくれるお客様を取り込んでいきたいと思っています。観光産業はうまくいくと期待しています」と話していました。
一方でブータン観光の費用が高くなることから旅行者から敬遠され、客数の減少につながるのではないかと懸念する人もいます。

ティンプーで、伝統工芸品を販売する土産物店を営むサンゲイ・テンジンさんは(49)仏教画の画家として活動しながら、23年前からみずからの作品のほか、伝統衣装や地域に伝わる仮面などの工芸品を主に観光客向けに販売してきました。

これまで、店には多くの外国人観光客が訪れ、売り上げも、年々増えていましたが、新型コロナの感染拡大以降、売り上げは以前の5%にまで落ち込みました。

サンゲイさんはブータン政府による銀行へのローン返済義務の一時延期の措置を受け、預金を取り崩しながらこれまで生活してきましたが、今後はローン返済が再開することから収入を確保しなければなりません。

このため、以前のように外国からの旅行者が戻ってこなければ生活が立ちゆかなくなると危機感を強めています。

サンゲイさんは、「以前より少ない客しか来なければ、私たちにとって厳しい状況です。土産物屋を辞め、ほかの仕事に切り替えることも考えています」と話していました。