沈むアニメ聖地を見過ごせない

沈むアニメ聖地を見過ごせない
「聖地がこれ以上荒れるのは辛いよ」

今月、台風14号が九州を北上し、列島を縦断した際のツイートです。こうした災害の危機が高まるたびにアニメファンの間では好きな作品のロケ地の被災を心配する声がSNSで相次ぎます。

たとえ遠く離れた場所の災害でもファンにとっては自分事。
今回は「アニメ×防災」をテーマに、埼玉や東京を舞台にしたあの人気アニメ聖地のリスクを映像化してみました。
(※台風で被災された皆さま、一日も早い復興をお祈りしています)

濁流に飲まれたロケ地

幼いころから妖怪が見える高校生の夏目貴志が妖怪との出会いや別れの中で、「大切なもの」を見つけていくアニメ「夏目友人帳」のワンシーンです。

背景に映る印象的な橋は、今月の台風14号でも氾濫が危ぶまれた、熊本県人吉市の球磨川にかかる「天狗橋」がモデルとされています。
現地は2008年の第一期から続くアニメシリーズを代表するロケ地のひとつとして、ファンが繰り返し訪れる特別な場所です。
人吉を2度、訪れた女性ファン
「アニメをきっかけに人吉を訪れたとき、地元の方々が本当にあたたかくて。
『また帰ってきてください』と声をかけてくれたんです。自分にとって人吉は『帰りたい場所』なんです」
ところが2年前の豪雨で、球磨川で大規模な氾濫が発生。
「天狗橋」も濁流に飲みこまれて大きく破損し、ファンに衝撃を与えました。
ファンのツイート
「被害の大きさに涙が出てしまった」
「現地の衝撃的な映像を見て心が痛いです」
コラム:「令和2年7月豪雨」
九州では2020年7月4~7日にかけて記録的な大雨となり、球磨川などの氾濫や土砂災害が各地で発生。

熊本県では69人が死亡・行方不明、約4600棟が全壊もしくは半壊し、先月の時点でも約2000人が仮設住宅などで生活している。

作品を超えて

復興を願うファンの思いは現地を支援する動きにもつながり、先月15日には人吉市の花火大会が3年ぶりに観客を入れて開催されました。

人吉の空に打ち上がる花火はライブ配信で全国にも届けられ、作品を超えて地域に思いをはせるファンの声が相次ぎました。
ファンのツイート
「夏目と人吉を好きでよかった」
「人吉の穏やかな日常が早く戻りますように」
「人吉にまた行きたい」

もしも「聖地」が沈んだら【その1埼玉】「らき☆すた」編

アニメファンが心を寄せる聖地の水害リスク。

ハザードマップの浸水想定を調べてみると、ほかの人気作品の聖地も被災の可能性があることが分かり、今回、映像化を試みてみました。
まずは、初期の聖地巡礼ブームを巻き起こした作品「らき☆すた」(2007年放送)。

女子高生の友だち同士の何気ないやりとりを面白おかしく描いた日常系アニメです。

この作品を象徴する聖地が埼玉県久喜市の鷲宮神社です。

放送の翌年の初もうで客がおよそ30万人と前年の3倍以上に急増する人気ぶりで、15年がたつ今でもキャラクターを書き込んだ絵馬の奉納が後を絶ちません。
久喜市によると、鷲宮神社の鳥居の前は近くの利根川が氾濫した場合、最大で3m近く浸水するおそれがあるとのこと。

ファンの方には少しショッキングかも知れませんが、実際どのぐらいの水位になるのか、まずは静止画で再現してみました。
家の2階にいても安心できないほどの高さになることが分かります。

AR動画はあえて水位を低めに1メートルほどの設定で制作してみました。流れをつけることで水害のリアルな迫力のようなものが感じられます。
もう一か所、鷲宮神社と同じくオープニング映像に登場する春日部駅も、利根川の氾濫で最大3m近く浸水する可能性があります。
鷲宮神社と同じように、大人も頭まですっぽりと完全に沈んでしまいます。
春日部駅の動画は、水位を2メートルほどに設定して制作してみました。
この規模の利根川の氾濫は1000年に1度の雨が降った時と想定されています。

映画のような非現実的な映像に感じられるかも知れませんが、75年前のカスリーン台風では実際に利根川上流が氾濫し、流域で1000人余りが亡くなっています。

もしも「聖地」が沈んだら【その2東京】「ラブライブ!」編

「沈む聖地」は、アニメ文化の発信地、東京・秋葉原にもあります。

例えば、女子高で結成されたアイドルグループの成長を描いた「ラブライブ!」に登場する秋葉原駅前の中央通りです。

毎週日曜日に歩行者天国が実施されるこの通りは、荒川の氾濫によって最大2m近い浸水が想定されています。
計測棒を持って立っている私の身長は160cmですが、頭まで水に浸かってしまいます。

動画は少し水位を低く、1メートルほどに設定して制作してみました。
合成映像なので、歩行者の方々は難なく歩けているように見えますが、実際には腰の高さの水位で流れがある場合、大人でも簡単に押し流されてしまう危険があります。

荒川のこの規模の氾濫も1000年に1度の雨が降ったという想定です。

荒川の下流には、江戸川区や江東区、葛飾区、墨田区、足立区、北区、板橋区、埼玉県川口市と戸田市などが位置し、氾濫した場合は多くの地域で浸水が予想されています。

二次元の「好き」がリアルの関心へ

今回の取材を通して、作品がきっかけとなって、聖地で実際に起きたリアルな災害の教訓を知ることができたと語る人もいました。

東日本大震災で被災した茨城県大洗町が聖地となっている「ガールズアンドパンツァー」(通称「ガルパン」)のファンの方です。

震災の翌年、2012年にこの作品が放送されたのをきっかけにして、これまでに4回、大洗町を訪れる中で被災の事実を知り、ハザードマップを見たり、食料の備蓄をしたりするようになったと話していました。
今年ももうしばらくは台風のシーズンが続きます。
あなたの好きな作品の聖地のリスクを調べてみたら、防災・減災につながる発見があるかも知れません。
そして何より大切なのは、自宅や職場などの身近な場所のリスクを知ることです。

もし災害が起こった時、どこに避難するか、どう行動するか。
この機会に大切な人とぜひ話してみてください。
(報道局ネットワーク報道部 中藤智晴)