過ぎたあとのほうがずっと怖い?台風”後”にひそむ思わぬ危険

過ぎたあとのほうがずっと怖い?台風”後”にひそむ思わぬ危険
記録的な勢力の強さで九州に上陸し、日本を縦断した台風14号。
きのうようやく消滅しました。
さて、あとは片づけだけと思いきや、その片づけに、思わぬ危険が潜んでいることをご存じでしょうか?

まだまだ台風シーズンは続きます。
ぜひ、覚えておいてほしいこと、台風は去った「あと」も危険なんです。
(ネットワーク報道部 石川由季 柳澤あゆみ おはよう日本 池田佳恋)

過ぎたあとこそ注意を

「令和元年房総半島台風では、台風が襲来の最中より過ぎ去った後のほうが比較にならないほど多数の救急患者を生じました。事後のほうがずっと恐いのです」
こうツイートしたのは、千葉県鴨川市にある亀田総合病院救命救急科の白石淳部長です。

2019年9月、千葉県の房総半島を中心に大きな被害を出した台風15号による救急患者を診察した経験から、台風のあとこそ注意が必要だと警鐘を鳴らしています。
3年前の当時、救急患者は台風の接近時ではなく通過したあとに多く発生し、台風が去ったあとけが人など救急患者の搬送が数日間にわたって続いたといいます。

そのほとんどは雨や風、土砂崩れなどによってけがをした人ではなく、片づけなどをしている間にけがをした人たちでした。
亀田総合病院 白石淳医師
「記憶のかぎり、いちばん多かったのは屋根から落ちた人でした。壊れた屋根に自分でのぼり、ブルーシートをかけて雨漏りしてくる穴をふさごうとしたようです。がれきを片づけようとしてくぎを踏んだり、ものが落ちてきてけがをした人もいました。特に高齢者が多かったと思います」
さらに台風による停電が原因とみられる搬送も相次ぎました。
「停電で自家発電機を室内で回してしまい、一酸化炭素中毒で運ばれてきた人がいます。屋内で過ごしている人が集団で家族みんなで中毒になる。複数人が1度に搬送されてきた事例も何度かありました」
台風の通過したあとにどんなリスクがあるのか。
改めて整理してみます。
◎台風による被害と搬送やけがのリスクの例◎
被害ケース1 家が壊れた
▽修理や応急措置のため、のぼった屋根から落ちる
▽がれきを片づける際、くぎを踏んだり手足を切ったりする
※40代以上の人は破傷風のワクチンの抗体が切れているおそれがあり、破傷風になる危険もあります
被害ケース2 水道、電気などが止まった
▽室内で自家発電機を回し、一酸化炭素中毒に
▽冷房が入らず、熱中症になる
※特に、お年寄りが体調を崩して重篤な状況に陥るケースも
白石医師は、自分ひとりで片づけようとせず、周りの人やボランティアの力を借りたり、専門の業者に依頼したりするなど安全第一で動いてほしいと呼びかけています。
亀田総合病院 白石淳医師
「当時の教訓から言えることがあるとすれば、家が壊れたり電気、ガス、水道が止まったりしたら、まずは冷静に、避難所などの安全な場所に移動してほしいということ。
そして、自分ひとりで解決しようとせず地域の人などと集団で対応にあたってほしいということです。ひとりで作業をし、動けないようなけがをして発見が遅れればより重大な事態になりますし、集団であれば誰かは必要な装備や知識を持っているのではと思います。訓練したボランティアや業者の人などプロが来るのを待つほうがいいと思います」

それでも片づけをしなければ…気をつけるポイントは?

自分たちで家などを片づけなければならない方もいると思います。

そこで、台風のあと、実際に被災した住宅の片づけを始めるときには、どんなことに注意すればいいのでしょうか。

10年以上にわたって、各地の被災地に入って復旧の支援にあたり、現場での経験が豊富なNGOの代表、前原土武さんに話を聞きました。

前原さんは先月、豪雨で被害を受けた新潟の被災地に支援に向かっている移動の途中だったそうで、車内でオンラインの取材に応じていただきました。
前原さんが、まず挙げたのは「焦りは禁物」。

少しでも早く災害前の状態に自宅を戻したいと思う気持ちがはやるのは分かりますが、確認してほしいことがあるといいます。
災害NGO結 前原土武 代表
「過去には、急いで片づけを進めたものの、り災証明書をのちのち出してもらうときに、浸水の高さが、行政の把握と違っていたりするなどして、受けられる支援がないなどというケースがありました。まずは、被害の状況を屋内外さまざまな角度から写真に撮っておくことが重要です」
そして、大切なのが、けがをしないための服装です。

前原さんたち「復旧のプロ」が、被災地の支援に入るときの服装などについても伺いました。このような格好で作業にあたることで片付けがしやすく、また予期せぬけがも防げるということです。
▽皮膚が隠れる長袖、長ズボン
▽長靴(ステンレスのインソール付きのもの)
▽ヘルメット
▽ヘッドライト(両手をあけるため)
▽ラバーつきの手袋(軍手は汚れがすぐに皮膚についてしまう)
▽雨がっぱ(雨が降っていなくても泥水を含む場所の作業をするとき、汚れればさっと着替えられる)
また、前原さんは「物を捨てることはいつでもできるんです」と、意外なことも教えてくれました。

片づけでは、ついつい「物を処分すること」に注意が向きがちですが、やはり焦りは禁物のようです。
災害NGO結 前原土武 代表
「災害が起きて少し時間がたつと“喪失感”を感じる人が多いです。例えば、年配の方は特に昔の子どもの姿や結婚式の様子などを撮影したものをプリントした写真で保管していますが、水にぬれてしまうと、処分する人が多いです。そしてあとから、過去の思い出がなくなってしまったことに悲しさを訴えられます。でも今は、写真を修復するボランティア団体などもありますし、パソコンなどのデータも復元できる場合があります。焦って処分しなくても、大丈夫なんです」
最後に、冒頭の白石医師と同じように、前原さんも「助けを借りる」ことの重要性を指摘しました。

自分ひとりで片づけようとせず、周りの人やボランティアなどの手を借りることが何より大切だと強調していました。
災害NGO結 前原土武 代表
「大切なのは受援力(じゅえんりょく)とも言いますが、『助けて』と言える力です。自力で作業をして、けがをした高齢者の方をこれまでたくさん、見てきました。無理をしない範囲で復旧作業に取り組むのはとても重要で、知識や経験を持っている人に相談することが大切です。近所の人や親戚にでもいいので、声をあげてほしい」

電気・ガス・自動車などの安全な取り扱いは

台風で被災したあとの電気やガス、自動車の安全な取り扱いには注意が必要です。

最後にそうした時に役立つ、それぞれの代表的なサイトも紹介します。

台風が過ぎたあとも、気を付けて

台風は、このあともやってきます。

台風そのものへの備えはもちろん、過ぎたあとにけがをしなくてすむように、その“後”の危険についても覚えておいてほしいと思います。