なんだ?これは!タローマンである!

なんだ?これは!タローマンである!
「ばくはつだ!ばくはつだ!ばくはつだ!げいじゅつだ!」

耳に残るテーマソング。
そして、必殺技は「芸術は爆発だ!」
べらぼうな特撮ヒーロー「タローマン」に注目が集まっています。

芸術家、岡本太郎の言葉を体現したタローマン。
なぜ今、人々の心に響いているのでしょうか?

芸術の巨人、そうタローマンである

タローマンは今年7月、NHKのEテレで深夜に放送された特撮ヒーローです。太陽のマスクをかぶった独特の顔が印象的です。
「でたらめをやってごらん」
「好かれるヤツほどダメになる」

1話5分で全10話。各話のタイトルには、それぞれ岡本太郎が残した名言が使われています。

戦う相手の“奇獣”は、岡本太郎の作品がモチーフになっています。
ただ、タローマンは正義の味方ではありません。
奇妙な踊りを踊ったり、ビルの屋上のタンクをちぎって水を飲んだり。
シュールででたらめなやり取りで戦います。
放送終了後も、SNSでは盛り上がりをみせていて、ツイッターではタローマンについて最大、1日6万件の言及がありました。
「なんだこれは!おもしろかった」
「紅白に出てほしい」
反響を受け、繰り返し再放送されています。

タローマンはどうやって誕生したの?

タローマンはどうやって誕生したのか。
それを探るため制作者のもとを訪れると、奇獣が出迎えてくれました。
マスクの中身は、タローマンの監督を務めた藤井亮さんです。
展覧会が開かれるのに合わせて、岡本太郎の言葉をテーマにした映像作品を作ってほしいと依頼された藤井さん。

若い人に知ってもらうためにはどうすればいいか考え、特撮ドラマを思いついたといいます。
藤井亮さん
「やっぱり岡本太郎の作品って、怪獣的とか怪物的とかべらぼうなものって言われるので、そのイメージに近い、そのまま怪獣にしてしまうというのが映像としておもしろいんじゃないかと思って」

1970年代の設定で…

タローマンは岡本太郎が活躍していた1970年代のヒーローという設定です。世界観を大切にするため、小道具は細部にまでこだわりました。

例えば、当時、タローマンが人気で作られたというグッズも、丁寧に作られています。
雑誌の付録でよく見かけた、薄いレコード「ソノシート」を見ると、主題歌の「爆発だッ!タローマン」だけでなく「好かれるヤツほどダメになる」という曲も収録されていました。

当時の子どもたちがよく遊んでいたような雰囲気の「タローマンかるた」や「大はくりょくの180ミリ」と書かれた「デラックスジャンボタローマン」などのおもちゃも。
あまりのリアルさに、実際にかつてタローマンが放送されていたと信じている人もいるといいます。
藤井亮さん
「映画とかドラマを見ていて、小道具がウソっぽいと冷めちゃうし盛り下がっちゃうので、本気を出して、なるべく自分で作りました。当時、本当にやっていたんじゃないかってみんなが錯覚してくれるようなものができたらと、ずっと考えてやっていましたね」
タローマンは深夜の5分番組。藤井さんはどんな人が見てくれるか、放送される前はずっと不安だったそうです。
そんな時に、支えになったのは岡本太郎の言葉でした。

「うまくあるな」「きれいであるな」「ここちよくあるな」

藤井さんが映像を作る時に心がけていることとも重なったと言います。
藤井亮さん
「上手に撮ればいいっていうものではないし、とても共感しました。本人が身をもって語っているので、言葉が強いです。タローマンも、岡本太郎的な美術の考え方、芸術の考え方を伝えていくようなキャラクターになったらうれしいですね」

タローマンを手作り

タローマンは小学生を中心に子どもたちにも大人気。
SNSには子どもたち手作りのタローマンが次々と投稿されています。

こちらは、小学5年生の女の子が段ボールで作ったタローマンのフィギュア。大きさは30センチほどで、特に表情にこだわったといいます。
母親がTwitterにあげたところ、1000を超えるいいねがつきました。
フィギュアを作った女の子
「タローマンが大好きでグッズがほしくて、段ボールに展開図を描いて、全部自分1人で一から作りました。目や口の部分など、タローマンに近づけて顔を描くのが難しかったです。作っている最中はタローマンをBGMとして流していました」

タローマンに励まされた

タローマンに励まされたという男の子もいました。

9月10日に7歳になった、小学1年生の男の子です。
誕生日ケーキにはタローマンが描いてありました。
必殺技の「芸術は爆発だ!」のポーズです。
男の子に実際に話を聞いてみると…
男の子
「ばくはつだー!ばくはつだー!」
すっかりはまっている様子でした。
実は、男の子がタローマンを好きになるきっかけは、新型コロナウイルスの感染でした。夏休みに家族3人で感染してしまい、外出ができない状況に。
そんなときに録画していたタローマンを見たら元気が出たそうです。
男の子の母親
「コロナの最中にタローマンを見ながらお絵かきをするのが子どもの楽しみになっていました。私もタローマンの自由な発想など一緒に見ていておもしろいです」

展覧会は10万人を突破

タローマン人気もあり、大阪中之島美術館で開かれている岡本太郎展の来館者は10万人を越えました。

実際に美術館に訪れていた人に聞いてみると…
母親
「タローマンのコーナーを見にきたんですけど、岡本太郎さんの展覧会も一緒に行きました。タローマンは、昔見ていた特撮を思い出すような懐かしさと、シュールさがたまらないです」
中学1年生の娘
「岡本太郎は美術の教科書に載っていたりして、名前だけは知ってるみたいな感じ。でもタローマンの動画がネットとかで流れてくるので、気になって。シュールなところ、よく分からないところが好き」
一方、もともと岡本太郎のファンだったという人もタローマンが気になるといいます。
東京から来た男性
「展覧会は東京でもやりますが、はやく見たくて大阪まで来ました。タローマンは、岡本太郎の作品が特撮でどうなっているのか気になって見始めました。結構いいかげんのノリなんだけど、最近そういう完全にふざけたやつとかなかったので、すごく楽しかったです。帰ったら録画を見直します」

芸術は大衆だ

大阪中之島美術館での「展覧会 岡本太郎」
実は、ほぼすべての作品が撮影可能になっています。
『芸術は大衆だ』という岡本太郎の考えを尊重したといいます。

館内では、タローマンに出てきた奇獣を作品から見つけて撮影する子どもたちもたくさんいて、手には「タローマンずかん」を持っています。
タローマンに登場する岡本太郎のキャラクターについて詳しく説明しています。
大阪中之島美術館 大下裕司 学芸員
「岡本太郎は若い世代にも人気ですが、それに輪をかけたように親子連れ、特に小学生が多いと感じます。子どもたちはタローマンの劇中に出てくるキャラクターを指差しながら楽しんでいるようです。後年、それが最初の絵画体験だったなんて思い出してもらえればいいなと思っています」

同じことをくりかえすくらいなら、死んでしまえ

タローマン人気を受けて、NHKが8月に「タローマンまつり」というイベントを美術館で開いたら、およそ4700人が来場しました。

反響を受けて、9月23日から3日間、第二弾を予定しています。
しかし、気になることがあります。

岡本太郎の言葉で「同じことをくりかえすくらいなら、死んでしまえ」という言葉があり、第4話のタイトルにもなっています。

タローマン祭りの責任者に聞いてみると…
記者
「岡本太郎さんは同じことをくりかえすくらいなら死んでしまえと…」

NHK大阪の事業部長
「うわー、これか。今、一生懸命頭を悩ませていますので、楽しみにしていてください」
「好かれるヤツほどダメになる」
今後のタローマンからも目が離せなそうです。
タローマン取材班
記者 武田麻里子

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