「イグ・ノーベル賞」に千葉工業大グループ “つまむ”を分析

ノーベル賞のパロディーで、ユニークな研究などに贈られる「イグ・ノーベル賞」の受賞者が発表され、ことしはペットボトルのキャップをあけるときなど、ものをつまんで回すときの指の使い方を詳細に分析した、千葉工業大学の研究グループが「工学賞」を受賞しました。
日本人の受賞は16年連続です。

「イグ・ノーベル賞」は、1991年にノーベル賞のパロディーとしてアメリカの科学雑誌が始めた賞で、人を笑わせつつ考えさせる研究に贈られます。

日本時間の16日、ことしの受賞者が発表され、このうち千葉工業大学の松崎元教授などの研究グループが「工学賞」を受賞しました。

この研究では、ペットボトルのキャップやオーディオの音量をあげるつまみなど、ものをつまんで回すとき指をどのように使うのか、つまみの太さを変えて調べる実験を行いました。

そして、つまみの太さと使う指の本数との関係や指の位置との関係を詳細に分析しました。

主催者は授賞理由について「人間がつまみを回す際、最も効率的になる指の使い方の解明に挑戦した」としています。

日本人が受賞するのは16年連続です。

ことしのイグ・ノーベル賞は10の分野で贈られました。

このうち、
▽人生で成功するのは、なぜ多くの場合、能力のある人ではなく、運がよかった人になるのか、数学的に説明したとして、イタリアの研究グループが「経済学賞」を、
▽法律関係の文書が不必要にわかりにくい原因を分析したとして、カナダなどの研究グループが「文学賞」をそれぞれ受賞しました。

▽「応用心臓病学賞」は、初めて出会ったパートナーどうしが互いに魅力を感じたとき、それぞれの心拍数が同調するという証拠を発見したとして、チェコなどの研究グループが選ばれました。

▽また「美術史賞」に、古代マヤ文明の陶器に描かれている、かん腸の儀式について、さまざまな学問の知識を使って分析したことに対して、オランダなどの研究グループが選ばれました。

▽「物理学賞」に、カモなどのひながどのようにして列をつくって泳ぐのか、解明しようとしたとして、中国などの2つの研究グループが、
▽「安全工学賞」に自動車の衝突実験用にヘラジカのダミー模型を開発したことに対して、スウェーデンの研究者がそれぞれ選ばれました。

松崎元教授「すばらしい賞をいただきとても光栄」

イグ・ノーベル賞の授賞式は、例年、ハーバード大学で行われてきましたが、新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、3年連続でオンラインで行われました。

式では、過去のノーベル賞受賞者から紹介を受けた受賞者たちが自分の研究のおもしろさをユーモアたっぷりに説明していました。

工学賞に選ばれた千葉工業大学の松崎元教授もオンラインで登場し、自分の鼻をつまむとき、自然と2本の指を使っていることを例に、太さの異なるつまみを回す際、無意識のうちに指の本数が決まってくるという研究の内容を紹介していました。

松崎教授は「このようなすばらしい賞をいただきとても光栄に思います。デザインの分野では多くの研究者がこのような人間の無意識の行動を研究しています。今後、より多くのデザイナーが受賞することを願っています」と受賞の喜びを語っていました。

ふだん意識しない“つまむ”動作の規則性に着目

水道の蛇口を開くとき、ペットボトルを開けるとき、オーディオの音量を上げるとき。

私たちは「取っ手」や「ふた」、「つまみ」などを指を使って回します。

こうした、指で「つまむ」行為。

ふだん「どの指とどの指を使って…」などと意識することなく動かしていることがほとんどでしょう。

今回、「イグ・ノーベル賞」を受賞した千葉工業大学の松崎元教授などのグループはこの“つまむ”という動作の規則性に着目しました。

きっかけは“水道の蛇口”

松崎さんは、デザイン工学が専門の大学院生だった当時、自宅や大学にある水道の蛇口を見て、ふと疑問に思います。

「すべて手のひらサイズで直径がほとんど同じなのに、それぞれ形状や溝の位置が異なる。デザインした人は何本の指で動かすことを想定したのだろうか」。

折りたたみ自転車など、形を変えられる日用品の設計を研究していた松崎さん。

デザイン工学の観点から、ある実験を思い立ちます。

男女32人の学生に太さの異なる「つまみ」を時計回りに回転させ、指の使い方を確認する実験でした。

「つまみ」は直径7ミリから13センチまで、45本を使用。
その結果、
▽直径が1センチ未満だと親指と人さし指の2本、
▽1.1センチを超えると3本、
▽2.6センチを超えると4本、
▽5センチを超えると5本の指すべてを使う人が多数となり、
▽直径が9センチ以上ではほぼ全員がすべての指を使って「つまみ」を回したということです。

また、太さに応じて、つまむ指の位置も詳細に確認して修士論文にまとめました。

その後も「つまみ」の位置が真正面や側面の場合についても詳細に調べ、改めて論文にまとめ、学会誌に発表しました。

松崎さんは「日ごろ意識しないで使うものに昔から興味があり、規則性がないかを調べたくなった。当時は、何かの参考になればいいと思っていた」と振り返りました。

タッチパネルではなく あくまでも“つまみ”

実験から四半世紀。(実験は1997年)

スマートフォンやタブレット端末などの普及に伴いタッチパネルの操作性に関する研究が増えているということですが、松崎さんの研究テーマはあくまでも“つまむ”動作だと言います。

現在ではさらに研究の幅を広げ、傘やカバンの持ち手など、つかんだり握ったりする部分のデザインを探求し、企業と共同でより使いやすい製品づくりに取り組んでいます。

松崎さんは「デザイン工学は、人とモノの関係を探っていい製品をつくり、社会に役立てようとする研究分野だ。今回の受賞をきっかけにほかの研究者も注目されるとうれしい」と語っていました。