備えない防災 “フェーズフリー”

備えない防災 “フェーズフリー”
地震や台風などの脅威にたびたびさらされてきた日本。災害対策として、最近、新しいアプローチが注目されています。それは、備えない防災「フェーズフリー」です。身のまわりにあるものやサービスなどを、日常生活でも、災害のときでも、役立てられるようにしようという考え方で、さまざまな分野に取り入れられています。

求められる災害対策

はじめに、身近な災害対策について考えてみましょう。
学校や職場での避難訓練や、家庭で用意する非常用の持ち出し袋など、いろいろあります。こうした備えについての知識は、中学入試でも問われています。
では、知識をもとに実際に災害に備えられていますか?意外と難しいこともありますよね。そこで注目されているのが「フェーズフリー」なんです。

フェーズフリーって何?

フェーズフリーのフェーズとは「局面」という意味です。私たちは「災害」という局面に備えて、防災用品を用意してきました。そして、「日常生活」という局面で使うものとは分けて考えてきました。
これに対してフェーズフリーとは、災害と日常生活という局面の垣根を取り払い、つまり「フリー」にして、どちらの局面でも役立つものをつくっていこうという考え方です。

災害時にも役立つあれこれ

具体的な例を見てみましょう。
例えば、東京・豊島区の公園にある「ベンチ」がそうです。座面の下には収納スペースがあり、中には「かまど」が入れられています。災害時に取り出して、炊き出しに使えるようになっているんです。
フェーズフリーの考え方を取り入れた「ジャケット」も開発されています。

“備える”提案をやめる

このように、日常で使うものを災害時にも活用できるようにしようと提唱しているのが、フェーズフリー協会の代表理事、佐藤唯行さんです。
防災工学が専門で、災害被害を未然に防ぐために地域の防災に取り組んできましたが、各地で被害を食い止めることができない現実に心を痛めてきました。
佐藤さん
「災害の情報を聞くたびに『また多くの人たちが亡くなってしまった。生活を失ってしまった。自分たちは今まで、いったい何をやっていたんだろう』とすごく苦しくなるんです」
とりわけ課題に感じてきたのが、先ほども触れた「災害に備える難しさ」です。ワークショップなどを開いても、一時的に災害への意識を高めるにとどまってしまい、フェーズフリーにたどりついたそうです。
佐藤さん
「備えることが難しいのであれば、備えるという提案をやめてみようと。ふだん使っているものが非常時に役立ってくれればいいですよね。そのほうが取り組みやすいし、多くの人たちの生活、命を守れるのではないかと思いました」

停電で役立った“フェーズフリー”

実際、日常で使っているものが災害時に役立つケースも出てきています。その1つが、2019年に台風19号の影響で千葉県で停電が起きた際のことでした。
非常用発電機を持っていなかった人たちが、ハイブリッド車などから電気を引っ張ることで電源を確保できたそうです。これもフェーズフリーだと佐藤さんは言います。

“はかれる”紙コップ

そして今、ちょっとしたアイデアで身近なものをフェーズフリーに変えていく動きが広がっています。佐藤さんが見せてくれたのは、ある紙コップです。
50ミリリットルごとなどに色分けされていて、「計量カップ」のように利用できるんです。
佐藤さん
「非常時にどんなことが困るかというと、例えば、赤ちゃんを抱えたお母さんが避難所で粉ミルクをあげようと思ったら、『何を使って量をはかるんだろう』と、はかることがいきなり不便になってしまうんです」
目盛りがついた紙コップがあれば、避難所にはかる道具がなくても安心ですよね。

保育園もフェーズフリー

さらにフェーズフリーの考えは、建物の設計にも取り入れられています。
東京・葛飾区にある保育園がその例です。海抜0メートルの住宅密集地に建てられています。3階建ての屋上は、ふだんは子どもたちの遊び場になっていますが、災害時には近所の人たちが避難してくることができます。
屋上に続く階段は緩やかで、小さな子どもやお年寄りでも安心して移動できます。最大300人が座れるスペースも確保されていて、ヘリコプターの救助を待つことができるんです。

算数で津波について学ぶ

驚いたことに、学校の授業をフェーズフリーにしている例もあります。南海トラフの巨大地震で大津波による被害が想定されている徳島県鳴門市の小学校です。
去年行われた算数の授業では、ダチョウやキリンなどが走る速さと津波の速さを比較しました。速さの求め方を学びながら、津波についても意識できる内容でした。
この授業を体験した児童は、「津波は私たちよりだいぶ速いと思いました」と話していました。ふだんの学習に災害の視点を取り入れることで、子どもたちが災害をより自分ごととして捉えられる効果が期待されています。
佐藤さん
「災害を解決するためには、多くの人たちに備えが届く方法を考えないといけません。ありとあらゆるものがフェーズフリーになることによって、結果として多くの人たちが参加でき、災害が解決できればいいなと思っています」
フェーズフリーのアイデアは、いろんなところに秘められていると思います。今後の可能性を考えながら、防災の意識を高めていきたいですね。
「週刊まるわかりニュース」(日曜日午前8時25分放送)の「ミガケ、好奇心!」では、毎週、入学試験で出された時事問題などを題材にニュースを掘り下げます。
「なぜ?」、実は知りたい「そもそも」を一緒に考えていきましょう。

コーナーのホームページでは、これまでのおさらいもできます。
下のリンクからぜひご覧ください。