鉄道の自動運転導入 国土交通省が初の指針まとめ公表

地方鉄道を中心に運転士の確保が難しくなっているとして、国土交通省は鉄道で自動運転を導入する際の指針を初めてまとめました。踏切のある一般的な路線も想定し、運転士ではない係員が車両先頭部に乗務する日本独自の規格や技術的要件を示しています。

国土交通省は、人口減少などを背景に運転士の確保が難しくなり、経営が厳しい地方鉄道で深刻な問題となっているとして、一般的な路線への自動運転の導入を視野に検討会で議論してきました。

その結果、運転士が乗務する時と同等以上の安全性の確保を基本とした上で、鉄道での自動運転の導入に必要な技術的な要件を盛り込んだ初めての指針をまとめ、13日に公表しました。

この中では、運転士が乗務しない自動運転のレベルの高いものから順に、
▼係員が誰も乗らない段階、
▼避難誘導などのための係員が乗務する段階、
▼係員が列車の先頭部に乗務する段階の3つを示しています。

3つ目は日本独自の規格で、踏切などがあり侵入対策が必要な路線でも大規模な設備投資をせずに自動化することを想定し、▽列車先頭部の係員が出発時の安全確認や、緊急停止操作なども行うとしているほか、▽技術面では自動列車停止装置の高度化などが必要だとしています。

一方、▼無人運転や▼係員が列車の先頭部にいない自動運転では、▽ホームドアや▽異常を検知する車両のセンサー、▽線路への立ち入り防止柵の設置などを例に、路線の状況に応じた総合的な安全確保が必要だとしています。

国土交通省は、今回の指針をもとに今後、鉄道会社などと、具体的なルール作りを進めることにしています。

自動化と日本独自規格の背景

国が今回、一般の路線での自動運転の導入について検討を進めた背景には、鉄道業界が直面している課題があります。

国土交通省や専門家によりますと、人口減少や高齢化により運転士や保守作業員などの確保や養成が困難になり、特に経営環境の厳しい地方鉄道で人材不足が問題になっていることや、新型コロナの感染拡大の影響で運転士が不足する事態となったことなどが背景にあるといいます。

運転士は国家資格の取得が必要で、1年近くかけ学科や実技を学んで資格試験に合格したあとも、先輩運転士による同乗指導を受ける必要があり養成に時間がかかります。

運転資格のない係員であれば短期間の講習などで養成が可能だといい、運転士以外を列車の先頭部に配置する日本独自の規格により、運転士の養成にかかるコストと時間の削減につなげたい狙いがあります。

一方で、検討会で議論が始まった翌年の2019年6月には、無人で自動運転をする新交通システム「横浜シーサイドライン」で、始発駅を出発しようとした車両が逆走して車止めに衝突し、乗客17人が重軽傷を負う事故が発生したことから、想定より時間をかけて自動運転の安全性などが議論されました。

自動化レベルと日本の事例

今回の指針では「GoA(ジーオーエー)」と呼ばれる自動化のレベルが、国際規格の5段階に日本独自の規格を加えた6段階で示されています。

このうち
▼「GoA0」は運転士が乗務する路面電車、
▼「GoA1」は踏切などがある一般的な路線で運転士と車掌が乗務します。

▼「GoA2」は車掌はおらず、運転士は運転席に座りますが、緊急停止や避難誘導など不測の事態に備える形で、一部の地下鉄などに導入されています。

日本独自の「GoA2.5」以上の3つの段階は、いずれも運転士は乗車しません。

▼「GoA2.5」は列車先頭部に運転資格がない係員が座り、出発時の安全確認やドアの開閉操作、緊急停止操作や避難誘導などを行うもので、日本ではまだ導入されていません。

▼「GoA3」は運転士ではない係員が避難誘導などのため列車内にいる形で、千葉のモノレール「舞浜リゾートライン」がこれにあたります。

▼「GoA4」は完全に無人運転で神戸の「ポートライナー」や東京の「ゆりかもめ」といった一部の新交通システムなどです。

日本独自の自動運転規格「GoA2.5」初導入 JR香椎線

福岡市など25キロの区間を走る在来線の香椎線では、2020年12月に実証運転を始め、現在は全線で、毎日上下合わせて77本、乗客を乗せて運行しています。

JR九州が目指しているのは、運転士の代わりに運転資格のない係員を列車の先頭部に配置する「ドライバーレス運転」です。

東京の「ゆりかもめ」などのように、▽踏切のない高架を走行し、
▽駅にはホームドアもある無人運転を前提に設計された路線とは異なり、香椎線には、▼踏切が46か所あり、▼16の駅すべてでホームドアは設置されていません。

こうした環境で自動運転に取り組むのは国内で初めてだということで、香椎線では地上に設置された自動停止装置と列車に搭載された速度や停止位置を制御する装置を組み合わせて実現しています。

実証運転では、まだ、免許を持った運転士が列車の先頭部に乗っていますが、ボタンを押して走り出したあとは加速や減速、停止などの操作はせず、緊急時に備えて非常停止用のボタンに手を添えるだけで、一部区間では時速80キロまで速度が上がっていました。

これまで緊急停止操作が行われたのは▽ドアが閉まったあとに駆け込み乗車をしようとした乗客が列車に近づいた時や、▽踏切の障害物検知装置が作動した時など20回ほどで、いずれも適切に対応出来たとしていて、2024年度末までに、運転士以外の係員が前方に乗務する自動運転の実現を目指しています。

JR九州鉄道事業本部自動運転プロジェクトの青柳孝彦課長代理は「取りまとめが出ることで後押しになるのはもちろんだが、運転士の免許を持たない係員が乗務する今までにない形なので、まずは係員の教育や態勢など社内の検討を重ね、最初の事例として緊張感を持ってやっていきたい」と話しています。

専門家「遅れを挽回するチャンス 議論加速を」

鉄道における自動運転の初めての指針がまとまったことについて、鉄道システムに詳しい工学院大学の高木亮教授は「日本は世界で最初に自動運転を実用化したが、順調に普及してきたとは言えないので、その遅れを挽回するチャンスとなるのではないか。ただ、運転士が必要なくなることだけをメリットとするのではなく、自動運転でなければ出来ない運転をしっかり進めることが大事で、最終的にはエンドユーザー、乗客になる私たち自身がメリットを感じられるよう議論を加速させて欲しい」と指摘しています。

その上で、日本独自の規格「GoA2.5」については「運転士ではない係員がどういう技量を持っているべきか、突きつけて検討されていないのではないか。ある程度は国が関与してどういう訓練をしたら列車の先頭に立てるようになるのか、スキルが認められたら免許を出すのかどうかなど検討する必要がある」と話しています。