幼い兄弟放置しパチンコ 被告に執行猶予付き有罪判決 釧路地裁

北海道釧路市で幼い子ども2人を自宅に残したままパチンコに出かけ、半日以上放置したとして保護責任者遺棄の罪に問われた35歳の被告について、釧路地方裁判所は執行猶予の付いた有罪判決を言い渡しました。

阿部光浩被告(35)はことし6月、当時住んでいた釧路市で、パチンコをするために外出し、生後4か月と2歳の幼い兄弟をおよそ13時間半にわたって放置したとして、保護責任者遺棄の罪に問われました。

兄弟のうち4か月の赤ちゃんはその後、搬送先の病院で死亡しましたが、捜査段階では放置と死亡との関係は認められなかったということです。

12日の判決で釧路地方裁判所の石川貴司裁判官は「わずか2歳の子どもと首もすわっていない生後4か月の赤ちゃんを置き去りにした危険な行動だ。居間に見守りカメラを設置したり赤ちゃんの口元に哺乳瓶を置いたりしていたが、保護につながり得る措置とは認められない」と指摘しました。

そのうえで「パチンコをしたいという動機に酌むべき事情はない。事件の前にも子どもを置き去りにしてパチンコに行くことを繰り返していて、規範意識が低下していた」と指摘し、懲役1年6か月、執行猶予3年を言い渡しました。

この事件では、当時一緒にパチンコに出かけた未成年の母親については、家庭裁判所がことし7月の少年審判で保護処分の決定をしています。

「見守りカメラ」確認し「命の危険はないだろうと」

今回の事件で注目されたのが「見守りカメラ」です。

阿部被告は、スマートフォンから遠隔操作が可能な見守りカメラを自宅の居間に設置していました。

2歳の長男がカメラの前を通り過ぎるとセンサーで検知し、スマートフォンに通知が届く仕組みになっていたということで、被告はパチンコをしている間、長男がごはんを食べたり、おもちゃで遊んだりしている様子などを確認していたということです。

裁判の中で、阿部被告は「見守りカメラを確認することで『命の危険はないだろう』と判断してしまった」と話しました。

一方、カメラが設置されていたのは居間のみで、別の部屋で寝ていた生後4か月の次男の様子を確認することはできなかったということで、これまでの裁判で検察は「カメラの存在によって保護が十分になされていたとは到底いえない」と指摘しました。

また、12日の判決で釧路地方裁判所の石川貴司裁判官も「見守りカメラを設置して、通知が被告に送られる状態にあったものの、そもそも自宅から離れていて保護できない状態に変わりはなかった」と指摘しました。

“外出先から見守りカメラで確認” ほかにも

北海道内では、子どもを家や車に放置したとして保護者が逮捕されるケースが相次いでいます。

今回判決があった釧路市の事件以外にも札幌市や旭川市で起きていて、今年度、警察が発表しただけで合わせて5件に上っています。

このうち2件では、外出先から子どもの様子を確認するため見守り用のカメラが使われていたことが分かっています。

ことし7月、札幌市白石区で会社員と内縁の妻が生後7か月の息子を自宅におよそ8時間放置したとして逮捕されたケースでも、こうしたカメラが使われていました。

警察によりますと当時、2人は居酒屋などに出かけていて、調べに対し、「カメラで様子を確認していれば問題ないと考えて2人で外出した。これまでも子どもを自宅に残して飲みに出かけたことがある」などと話しているということです。

「見守りカメラ」の売り上げ伸びる

札幌市北区にある家電量販店では1年ほど前から「見守りカメラ」の売り上げが伸びていて、店内には特設コーナーも設けられています。

炊事や洗濯の音で赤ちゃんの泣き声などが聞こえなくなるのを心配したり、新型コロナの影響で子どもを親族などに預けづらくなったりした親が購入することが多いということです。

売り場の担当者によりますと、離れた場所から遠隔操作でき、子どもの様子を手持ちのスマートフォンに映し出して確認できるタイプの商品が人気だということです。

ヨドバシカメラマルチメディア札幌店の関口雄大さんは「最近は子守歌が流れるカメラも販売されるなど商品の種類が増えました。保護者の方には安定した通信環境の確保や倒れにくい場所にカメラを設置することなど、子どもの様子が常に確認できるような正しい使い方をしてほしい」と話していました。

育児の女性「家にいながら少し離れるときに使う」

この「見守りカメラ」を育児に活用しているという女性に話を聞きました。

札幌市に住む中里里子さん(33)は、夫と共働きで1歳の長男を育てていますが、現在は育児休暇中の中里さんが主に自宅で世話に当たっています。

インスタグラムで紹介されているのを見て見守りカメラの存在を知り、長男を産んで2か月ほどたったころに購入したということです。

子どもから一時的に目を離したときでも安心できるよう、ベビーベッドに向けてカメラを設置しています。

子どもを寝かしつけたあと、皿洗いをしたり、居間で過ごしたりする間でも子どもの様子を専用のモニターで確認するようにしているということです。

中里さんは「リビングと子どもの寝室が離れているので、モニターがあることで子どもが泣いているのに気付くことができ、すぐに駆けつけられるのでとても助かっています。寝返りを始めたときはうつ伏せになってしまうこともあり、モニターで確認してすぐに戻してあげることができました」と話していました。

一方、見守りカメラを過信するあまり、自宅に子どもを放置して外出するケースが社会問題となっていることについては「見守りカメラは、家にいながら子どもから少し離れるときに安全を確認するために使うものだと思うので、誤った使い方はしてほしくないと思います。小さい子は自分では何もできないので、便利なツールに頼りすぎないことが大切だと思います」と話していました。

専門家「近くにいてすぐに駆けつけられる状況なら利用も」

新生児医療や家族支援を専門に扱う北海道大学病院周産母子センターの古瀬優太助教は、「特に赤ちゃんなどの幼い子どもは寝返りをしてうつ伏せになると戻れなくなったり、ミルクを吐いて窒息したりする危険性があるので、すぐに助けられる環境が必要です」と指摘しています。

そのうえで、見守りカメラを使うことについては「例えば、夜間に寝室にいる赤ちゃんを隣の部屋から観察するなど、近くにいて緊急時でもすぐに駆けつけられる状況なら利用するのはいいと思います」と話していました。

また、子育ての大変さにも触れ、「親がずっと赤ちゃんを見守るというのはとても大変なことです。育児を楽しむくらいの余裕が持てるよう、保育園やベビーシッターといった支援を充実させるなど、子育てしやすい環境を整えることも大切です」と話していました。