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ヌートリア各地で目撃!かつての“救世主”がいまや“害獣”に

最近、関西地方を中心に目撃が相次ぎ、SNSをにぎわせているヌートリア。実は農業などに被害及ぼす“害獣”として駆除の対象になっています。

もともと軍服の毛皮用に海外から連れてこられたにもかかわらず、野生化し増えすぎたとして特定外来生物に指定されるという気の毒な一面も。

私たちはヌートリアとどう向き合っていけばいいのでしょうか。

(ヌートリア取材班 森山睦雄 松本裕樹 清水阿喜子)

「ヌートリアたくさんいてます」

「大阪市内にはヌートリアがたくさんいてます」
「大阪の方にもヌートリア居てるんで」

ツイッターには大阪で目撃されたヌートリアの画像や動画の投稿が相次いでいます。
動画を投稿した男性
「ランニングしてたらおってん。その前の日も見かけててん。水辺注意しててん」
大阪市中心部を流れる大川沿いの遊歩道や、東大阪市の住宅街の長瀬川の川沿い。

その姿は大阪のシンボル、大阪城のお堀でも目撃されているといいます。
遊覧船の船頭さん
「ヌートリア、1週間前に見たよ。繁殖力すごくてねぇ。お堀の周辺で、大きいものや、小さいものなどいろいろ見かけるわ」

ヌートリア 大阪で勢力拡大中

大阪のあちこちで目撃されているヌートリア。
生息エリアは拡大を続けています。

大阪市立自然史博物館の動物研究室が、地元の人のヌートリアの目撃情報などをもとにまとめたマップがこちらです。
2000年代前半は北部に点在していた目撃情報ですが、2010年代後半には大阪府内各地に大きく広がっているのが分かります。

学芸員の和田岳さんは、ヌートリアは2000年ごろに大阪に定着し始め、今は大阪南部に広がりつつあるとみています。

淀川水系を中心に広がっていて、淀川には注意書きの看板が立っています。
「堤防などに穴を掘るため、堤防決壊の原因になります」
「在来生物などを食べ、生態系への影響が懸念されます」

2005年、ヌートリアは特定外来生物に指定されました。
年2、3回出産し、一度に平均5匹の子供を産むなど、爆発的に増加するのが特徴です。
大阪市立自然史博物館 和田岳学芸員
「この2、3年は住宅地にも姿がみられるようになり、家庭菜園が荒らされたという話も寄せられている。住宅地にいるということは人との接触の可能性が出てくる。触ろうとするとかまれるので気をつけてほしい。ヌートリアに餌をやるのはやめてほしい」

大阪以外でも目撃情報相次ぐ

ヌートリアはいったいどれくらい広がってるのでしょうか?
国立環境研究所がまとめた分布図では、ヌートリアは西日本を中心に定着しているとみられます。
例えば京都では鴨川沿いでヌートリアの目撃情報が相次ぎ、府が年間40回にわたりパトロールする事態になっています。
また、ヌートリアは泳ぐことができるため、瀬戸内海の島にも生息。

マップで色が塗られていない多くの県でも目撃情報があり、今後も広がっていくおそれがあります。

よく見るとカワイイ姿だけど

ヌートリアを飼育しているところもあります。
兵庫の姫路市立水族館です。

駆除のために捕獲された2匹が水族館にやってきたそうです。
尻尾を除いた体の大きさは約50センチ。
特徴は、後ろ足にある水かきです。

「大きいねー、しっぽも足も見えるよ」
「上手に泳いでるねー」

もこもこした体で水面に浮かぶ姿が、小さな子供を連れた家族連れの注目を集めていました。
餌はにんじん、サツマイモ、小松菜などですが、いちばんの好物はカボチャ。前足を伸ばして餌を受け取っていました。
姫路市立水族館 杉原直樹さん
「寝てる姿などを見てかわいいという声も聞ききます。でも、歯がするどいので、野外で見つけても近づかないようにしてください」

ヌートリアのせいで米作りやめた人も…

水族館ではかわいらしく野菜を食べていましたが、農作物被害は深刻です。
ヌートリアのせいで米作りをやめざるをえなかった人もいます。

島根県江津市で宮司をしている高橋晶彦さん。
4年前、収穫目前の田んぼがヌートリアの被害を受けました。
ヌートリア被害を受けた田んぼ
ヌートリアに稲をかじられたところが穴が空いたようになっています。
高橋晶彦さん
「あぜに直径30センチぐらいの穴が空いていて、体長50cm位の黒いヌートリアが稲の茎をかじっていました。茎をかみ切るので、一株がバサッと倒伏し、そこから枯れてしまいました」
田んぼを守ろうと、あぜにできた穴をコンクリートブロックで塞ぎましたが、ヌートリアは今度は別の穴を掘るなどイタチごっこが続きます。

結局、稲は食い荒らされ、ほとんど収穫できませんでした。
ショックを受けた高橋さんは、翌年からその水田で米を作るのをやめました。

近くの大学の留学生たちと一緒に米作りを続けてきた大切な場所でした。
高橋晶彦さん
「イノシシなら柵で囲えば水田に入ってこないが、ヌートリアは穴を掘って侵入してくるから止めようがない。みんなで一緒になって作ってきた米作りを諦めることになって本当に悔しい。行政はもっと真剣にヌートリアの駆除に力を入れてほしいと思います」
ヌートリアによる農業被害額は、全国で4847万円(令和2年度)
米だけでなくレンコンなどの野菜も被害を受けているそうです。

かつては日本の“救世主”とされたけど…

やっかいもののヌートリアですが、かつて日本の“救世主”とされていました。

ヌートリアが日本に来たのは1907年。
上野動物園でオスメスのつがいが輸入されたのが始まりといいます。

大量に入ってきたのは太平洋戦争が始まる前の1939年。
目的は毛皮を軍服の材料に利用するためだったといいます。
ヌートリアの生態や歴史に詳しい岡山理科大学 小林秀司教授
「毛皮用に150頭が輸入されていますが大規模な輸入は後にも先にもこれだけで、軍や民間業者に納入されました。その後、太平洋戦争が始まると、高度1万メートルくらいでも凍らないヌートリアの毛皮は飛行機乗りに重宝され、1944年に軍が大号令をかけてヌートリアの増産に踏み切ったそうです」
その後、終戦を迎え軍服としての需要がなくなると、今度はヌートリアの“肉”の部分に注目が集まります。

終戦直後は、厳しい食糧難だった時代。
飼育しやすく、繁殖力が強いヌートリアは重要なタンパク源になると国をあげて養殖に力を入れることになったといいます。

しかし食料事情が改善されていくと、ヌートリアの飼育は下火に…

飼育していた人たちが買い手の見つからないヌートリアを野や川に放ったことで、増えていったと小林さんは指摘します。
小林秀司教授
「ヌートリアはかつて、日本を救う『救荒動物』と位置づけられたときもあったのに、危機が過ぎたら捨てられ、今は“害獣”扱い。まさに国の政策に振り回された点で言えば他の外来種と違う、同情すべき点が多い動物ともいえると、私は感じています」

ヌートリアとどう向き合えばいいの?

ヌートリアに私たちはどう向き合えばよいのでしょうか。
小林さんはまずは、そっとしてあげてほしいと伝えています。
小林秀司教授
「基本的に争いを好まず人を襲う動物ではありませんが、追っかけられたり生命の危険を感じたりすると、かんだりするおそれはあります。その場をそっと離れてください」
そして、農作物などの被害を減らすためには、ヌートリアの性格を理解した対応がポイントだといいます。
小林秀司教授
「ヌートリアは基本的に相当な“面倒くさがり”です。農地をこまめに見回り、農地への侵入ルートに木の板を置いたり、深い柵を設置したりすると、ヌートリアは“面倒”と思って侵入しなくなることがあります」
京都 鴨川のヌートリア
かつて“救世主”として日本に連れてこられたヌートリア。
駆除の対象となるのは少し気の毒な気もしますが、農業被害や生態系に与える影響も深刻です。

かわいらしい見た目に気を許しすぎることなく、餌などをあげないように気をつけましょう。

付録:ヌートリアから農業被害を防ぐポイント

農業従事者の皆さんへ。
小林教授がヌートリアから作物を守るための対策としてあげたのが次の3ステップです。

1 田畑への定期的な見回り
ヌートリアは用水路や川などから田畑に向かいます。
水辺の近くで穴を見つけたら塞ぐなど侵入防止策が大切です。

2 くぐらせない柵を設置
ヌートリアの通り道に侵入防止の柵を設置。柵については工夫が必要です。掘ってくぐることができないように、L字型の板を作って地面に板をかぶせたり、ネットをしっかりと敷いて地面を掘っても侵入できないようにして、ヌートリアに諦めさせましょう。

3 猟友会などに相談
それでも、被害が収まらない場合は地元の猟友会などに相談して、捕獲してもらいましょう。“害獣”だからといって、勝手に捕獲すると、罰せられることもあります。

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