高級腕時計 売り場拡大相次ぐ 現場を徹底取材

高級腕時計 売り場拡大相次ぐ 現場を徹底取材
金やダイヤモンドがあしらわれた、きらびやかな腕時計は1本数百万円というものも珍しくありません。いま名古屋で、こうした高級腕時計の人気が高まっています。デパート各社が繰り広げる顧客の獲得合戦。名古屋の消費者が高級腕時計に心をつかまれるのは、なぜなのでしょうか?(名古屋局記者 野口佑輔)。

デパートが次々と売り場を拡大

名古屋では高級腕時計が売れるー。

流通業界の関係者からそんな情報を耳にしたのは7月上旬でした。
調べてみると確かに名古屋市内のデパートが次々に「時計売り場」を拡大していることがわかりました。

「銀座や大阪ではなく、なぜ名古屋で?」背景に何があるのか気になった私は実際に売り場へ足を運んでみることにしました。

まるで空港の免税店

まず向かったのは「ジェイアール名古屋タカシマヤ」が去年の夏、名古屋駅近くのビルに移転オープンさせた時計売り場。

ラグジュアリーな雰囲気の中にロレックスやオメガなど、名だたる高級ブランドの店舗が連なり、空港などにある免税店のような印象を受けました。
売り場の面積は1200平方メートルで国内最大級だということです。

ショーケースに並ぶ腕時計の中には「数百万円」という値札も散見されました。

日ごろ縁遠い世界だけに「本当にこれが売れるのか」と半信半疑でしたが、待ち合わせていたタカシマヤの担当者に話を聞いてみると、移転後の売り上げは、前の年の同じ時期と比べて1.8倍に増加したと言います。

客の購入単価についても時計1つあたり15万円ほど増えていると言うことでした。

名古屋店が3年連続売り上げトップ

一方、「松坂屋名古屋店」は5階にある時計売り場を14年ぶりに改装。

ことしの7月にリニューアルオープンしましたが、秋にはさらに面積を2倍に拡大する計画だということです。
これだけ力を入れるのは当然「売れるから」。

名古屋店によると「大丸松坂屋グループ」の全国10の百貨店の中で、時計売り場の売り上げは、名古屋店が3年連続でトップだということです。

店では、これまであまり売り場を訪れることがなかった若い世代などの新たな客層の開拓も目指しています。

スマホのカメラ機能を使ってホームページに掲載された約2000種類の腕時計の装着イメージを確認できる「オンライン試着サービス」や、ショップの来店予約をオンラインでできるサービスを導入。
インスタグラムのアカウントも開設し、専門知識を持つ若手社員が同世代に響くような商品情報を発信しているということです。

機械式の高級腕時計には欠かせないオーバーホール=メンテナンスをオンラインで行うサービスも開始。

専用の梱包キットに入れて売り場宛てに発送すると、6~7週間ほどでメンテナンスされた時計が自宅に送り返される仕組みです。

支払いもカードや銀行振り込みで決済でき、来店不要で完了できるということです。

こうした戦略、早速効果を上げているのか、取材に訪れた日も比較的若い人たちが時計を品定めしていました。
売り場を訪れた男性客
「ステータス的な憧れがあって、時計を下見に来ました。社会人になってちゃんと給料をもらえるようになったんで、こういう趣味にお金を使うのもありかなと思って。親しみやすい売り場で、誰でも入れそうな感じでいいなと思います」
別の男性客
「本当は海外で買いたいのですが、いまコロナの第7波がきていて行くのが怖い。でもセイコーとか名が知られたいい時計があるのは知っているので、そういうものを買って気分転換しようかなと思っています」

なぜ売れる? 販売担当者の分析は

なぜ名古屋で高級時計が売れるのか。

専門家からよく聞かれる分析はこうです。

大規模な金融緩和が続き市場にあふれたマネーが、新型コロナの影響もあって高級品に向かう。

例えば、旅行、レジャー、外食などに使っていたお金の行き場がなくなってしまって、腕時計や個人の趣味などの買い物にあてる傾向が強まっている。

安定的な資産価値があるものとして、金と同様、腕時計にも資金が流れ込みやすくなっているのだ…。
しかし、こうしたことは全国的な傾向であり、名古屋でとりわけ高価な腕時計が売れる理由としては、納得感に乏しいと言えます。

腑に落ちる説明を披露してくれたのはタカシマヤの売り場担当者。

名古屋特有の2つの要因を指摘しました。
ジェイアール名古屋タカシマヤ時計グループ 赤堀健さん
「1つ目は、愛知県の特徴かもしれないですが、自動車産業などに関わって精密機械に大変お詳しい方が多い。そういう方々が、高級な機械式時計など複雑な時計に興味を持っていらっしゃると思います。
2つ目は、愛知県のお客さまはブランドのロゴが目立つものに、すごく興味を示されます。洋服で見られる傾向ですが、時計についてもそうで、ブランド志向が強いお客さまが多くいらっしゃるということだと思います」

「名古屋の人たちの気質に合っている」

“ものづくり”と“ブランド志向”

この2つのキーワードは、アナリストの口からも聞かれました。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング 林田充弘シニアマネージャー
「名古屋はものづくり文化が根づいた土地柄なので、モノに対する価値や確かなモノを高く評価する傾向があります。そのために自然と高級品に目が行くことになります。また、贈り物をするときには、確かなもの、お墨付きのあるものを贈って喜ばれたいという思いも強く、高価なモノを丁寧に手入れしながら使い続けることは名古屋の人たちの気質に合っていると言えます。新型コロナの影響で支出しなくなったお金を、確かなもの、いざというときに価値が目減りしない高級時計に向けておこうというのは、名古屋の人たちの考えに非常にマッチしています。
名古屋は3大都市圏でありながら、先祖代々の家を守り、受け継いでいくということがまだまだ残っている土地柄だと思います。一族で生きていくという考え方も根強いので、将来の財産形成について、ある程度見通しが立ちやすいのです。色々と受け継いで財力にも余裕が出てくるため、金融資産をとりあえず価値があるものに変えておこうという発想が出てくるのだと思います」

“強いこだわり”を商売につなげる“したたかさ”

「時間を知るだけならスマートフォンで十分」という人も少なくない現代。

あえて高級腕時計を購入するのは“強いこだわり”があるはず-。

そう考えて今回取材を始めると、名古屋で高級腕時計商戦が盛り上がる背景には、新型コロナウイルスなどの社会情勢に加えて、名古屋の土地柄や名古屋の人の気質が深く関係していることがわかってきました。

と同時に、そうした消費者のニーズに常にアンテナをはり、敏感に察知して商売につなげるデパート業界の“したたかさ”も感じられました。

名古屋ならではの地域性が、次にどんな消費行動やブームを生み出すのか。

名古屋局の経済担当記者として丹念にウオッチしていきます。
名古屋放送局記者
野口佑輔
2011年入局
経済部を経て2020年から名古屋局経済キャップ