【動画】ウクライナ 学校再開で安全確保や心のケアが課題に

ウクライナでは1日から新学年が始まりました。
ロシアによる軍事侵攻が続く中で、子どもの安全の確保や心のケアが課題になっています。

ロシア軍の激しい攻撃を受けたキーウ近郊の街イルピンです。今も生々しい戦闘の傷痕が目につきます。

こうした中でも新学年が始まっています。取材した6歳から18歳の児童・生徒が通う公立学校では、軍事侵攻以来オンラインで授業を行ってきましたが、半年ぶりに学校が再開されました。

生徒は「やっとクラスメートに会えたのできっといい年になります」とか、
「さみしかったけど、きょうは友達にも先生にも会えたのでうれしいです」と話していました。

かつて1700人が通っていたこの学校も、この日集まったのは70人にとどまりました。

校長先生は「いま私たちの国で大変なことが起きていますが、ここに来てくれてうれしいです。充実した時間を過ごせるよう願っています」と話していました。

学校が再開しても子どもの安全をどう確保するかが課題となっています。
イルピンにある別の学校では、これまで課外活動のために使っていた地下室を整備しました。防空警報が出た場合はこの場所に子どもたちを避難させる予定です。

この学校のアリナ・バビッチ副校長は「薬、毛布、特に水など必要な物はすべて準備しています。シェルターになりうる地下室があって幸運でした」と話していました。

心のケアが課題に

多くの市民が殺害されているのが見つかった首都キーウ近郊のブチャでも、新学年が始まるのを前に、先月31日、子どもたちが保護者とともに健康診断のため久々に登校していました。

6歳から18歳までの1100人が通うブチャの公立学校では、対面での授業が再開されるのに先立って健康診断が行われました。

子どもたちは、保護者に付き添われ、血圧を測るなどしたあと、医師から生活上のアドバイスを受けていました。

問診を担当した小児科医は「子どもたちは心の傷を負ってストレスをより頻繁に経験している。嫌な気持ちを忘れるためにも勉強や友人との交流に打ち込んでほしい」と話していました。

ロシア軍の攻撃から逃れるため、1か月余りにわたって地下シェルターで子どもたちと過ごしたという51歳の母親は「食事もできない状態だったので子どもたちの健康に影響し、発育が止まりました」と話していました。

また、10歳の娘を連れた47歳の母親は「またいつ攻撃されるかと不安な気持ちはありますが、子どもたちが勉強や友達との交流を楽しんでくれることを期待します」と話していました。

軍事侵攻から半年がたち、一層の長期化が避けられない見通しとなるなか子どもたちの心のケアが課題となっています。

「ロシア化」への危機感

ロシアが掌握したとするウクライナ南部ヘルソン州の学校で校長を務めるセルヒー・ズデンコブさんは、NHKのオンラインインタビューに対し、学校でもいわゆる「ロシア化」が進むことへの危機感をあらわにしました。

ズデンコブ校長は、6歳から18歳の200人ほどが通う学校の校長を務めていますが、現地の親ロシア派がロシア式の教育に切り替えるよう求めてきたことに抗議し、ことし5月、南部オデーサに避難しました。

その後、学校の図書館にロシア兵が来て、ウクライナの歴史や軍に関する本を撤去していったほか、親ロシア派がSNSで、みずからの学区でロシア語やロシアの歴史の教科書を配付すると発表しています。

子どもたちの半数にあたる100人は、ヘルソンから避難していて、同じく避難している教員がオンラインで授業をすることにしています。

ただ、ズデンコブ校長は、ヘルソンに残る子どもたちについては対応が難しいとしていわゆる「ロシア化」が進むことへの危機感をあらわにしました。

ズデンコブ校長は「戦争が終わったら子どもたちを『ロシアの世界』から救出しなければならない」と話していました。

ロシアでは愛国教育強化 プーチン大統領も“特別授業”

ロシアのプーチン政権は愛国教育を強化しています。

ロシア政府は、新しい学年が始まった今月から愛国心を育むためだとして、毎週月曜日に学校での国旗の掲揚と国歌の斉唱を一斉に義務づけたほか「大切なことを話そう」という名の授業を新たに設け、ロシア独自の歴史観などを教えていくとしています。

今月1日、首都モスクワ市内の学校で行われた始業式では、国歌とともに国旗掲揚が行われ、新入生たちが真剣な表情で見つめていました。

生徒の1人は「今の時代に愛国心を育むことは、とても重要です。現状についてはさまざまな意見がありますが、祖国への忠誠心を持ち続けることが必要だ」と話していました。

プーチン大統領自身も1日、各地から集められた子どもたちを前に特別授業を開き、ウクライナ侵攻を重ねて正当化したあと、出席した子どもたちとともに、その場で国歌を斉唱しました。

プーチン政権としては、若者の間で軍事侵攻に否定的な意見が比較的多く聞かれる中、「愛国心を育む」という名目のもと、子どものころから政権側の主張を教え込むねらいがあるとみられます。