なぜ共感?『青春って密』仙台育英 監督のことば

なぜ共感?『青春って密』仙台育英 監督のことば
高校野球 夏の甲子園で初優勝を果たした宮城の仙台育英高校。チームを指揮した須江航監督の優勝インタビューに感激したという声は多く聞かれます。
「青春は密というワンフレーズがすごく響いた」
「生徒のことを考えたメッセージに涙ぐんで感動した」
須江監督のことばは、なぜ、共感されたのでしょうか。専門家に分析してもらいながら、インタビューを掘り下げます。
(週刊まるわかりニュース 漆原輝リポーター/岡野宏美記者/中川丈士ディレクター)

優勝インタビューのことば

東北勢として初めての優勝を果たした仙台育英。
グラウンドで選手たちが見せた雄姿は、多くの人たちの感動を呼びました。
さらに人々の胸を打ったのが、須江航監督の優勝インタビューでした。
仙台育英 須江航監督
“青春って、すごく密”なので、でもそういうことは全部『だめだ、だめだ』と言われて、活動していても、どこかでストップがかかって、どこかでいつも止まってしまうような苦しい中で、でも本当に諦めないでやってくれた」

東北に寄せた思い

なぜ須江監督のインタビューは人々の心に刺さったのか。
「声に出して読みたい日本語」の著者で、大の野球好きだという明治大学教授の齋藤孝さんに聞きました。
まず、齋藤さんが注目したのは、インタビュー冒頭のことばです。
優勝を祝うことばを掛けられた須江監督は、こう返しました。
須江監督
「宮城の皆さん、東北の皆さん、おめでとうございます。100年開かなかった扉が開いたので、多くの人の顔が浮かびました」
東北の人たちに向けられた「おめでとうございます」という祝いのことば。
ここから、自分たちが主役なのではなく、一つ一つの試合が地域全体のものだったと捉えていることが伺えると指摘します。
齋藤孝さん
「最初の冒頭のことばは『ありがとうございます』が普通だと思います。『宮城の皆さん、東北の皆さん、おめでとうございます』というのが、自分たちが何を、誰のためにやっているのか、普通とは視点が違うと感じました。東北を背負って野球をさせてもらっている、そしてそれをみんなに恩返しするという思いや、応援してくれているすべての人たちや東北の人たちの今までの思いをかなえることができたんだという視点です」
2011年の東日本大震災。
そして、いまも感染拡大が続く新型コロナウイルス。
多くの人がつらい経験をしてきました。

さらに、夏の甲子園での優勝は、東北の人たちの悲願でした。
100年を超える歴史の中で、青森の三沢高校やダルビッシュ投手を擁した東北高校など、東北勢は9回、決勝に臨んでいます。しかし、いずれも優勝には届きませんでした。
須江監督のことばは、こうした背景を踏まえたものだったのです。

“青春ってすごく密”

とりわけ大きな反響を呼んだのが、記事の冒頭でも紹介した「青春って、すごく密」というくだりです。
コロナ禍によって、この2年間、各地では密の回避が求められました。
このため、学校生活を彩るはずの修学旅行や体育祭などは相次いで中止になりました。若者たちの多くが仲間と体験を分かち合う貴重な機会を奪われていることを、思い起こさせたのではないかと齋藤さんは言います。
齋藤孝さん
「青春は密と聞いた瞬間、日本中の人たちが『あぁそうだよな』と思って、さらに密を『だめだ、だめだって言われて』ということにも『確かに』と思ったんです。ひとつには自分の青春時代を思い返して、『あぁ密だったな』と、そして今の高校生を見て、『あぁ切ない、かわいそうだったな』と、その両方の思いで泣けることばだったと思います。ぼくもぐっときて、もらい泣きしちゃいました」
実際、街の人たちに聞いてみると「高校生のときにしかできないことはたくさんあって、そのときの密な気持ちを思い出した」とか「ことごとく中止になっているものがたくさんあり、本当にかわいそうだなと思った」と話していました。
また、密ということばを青春と結び付けることで、ことばの持つイメージさえも変えたことが、より大きな反響につながったと齋藤さんはみています。
齋藤孝さん
「『密』ということばが、否定的な、避けるものだというふうに使われてきたコロナ禍で、むしろプラスに『青春っていうのは密』なんだよと、密ということばの意味合いも一気に転換しました。そういうパワーのあるフレーズです」

視野の広さと配慮

さらに、今回のインタビューからは、指導者としての監督の姿も浮かびあがったといいます。
そのことばがこちら。
須江監督
「きょうは本当に斎藤(蓉)投手がよく投げてくれて、でも県大会は投げられない中で、本当にみんなでつないできて、つないできて、最後に投げた高橋投手も、そして、きょう投げなかった3人のピッチャーも、スタンドにいる控えのピッチャーも、みんながつないだ継投だと思います」
仙台育英は、5人の投手のリレーで勝ち上がってきましたが、選手一人一人に目を配り、采配を振るってきた監督の視野の広さがうかがえるというのです。
齋藤孝さん
「主役は1人じゃないんだと、みんながその役割を果たすことで、勝利につながるという考え方です。(選手の)気持ちがちゃんと報われるようにしてあげる、そういう配慮をする度量の大きさを感じます。『ちゃんと見てくれているんだ先生は』というのがあらわれているなと思います」
配慮は、仙台育英の選手たちだけではなく、全国の高校球児にも向けられていました。そのことを感じさせるのが、インタビューの締めくくりのことばです。
須江監督
「全国の高校生のみんなが本当によくやってくれて、例えば、きょうの下関国際さんもそうですけど、大阪桐蔭さんとか、そういう目標になるチームがあったから、どんなときでも諦めないで、暗い中でも走っていけたので、本当にすべての高校生の努力のたまものが、ただただ最後、僕たちがここに立ったというだけなので、ぜひ全国の高校生に拍手してもらえたらなと思います」
さまざまな環境のなかで白球を追いかけてきた、各地の高校球児たちのプレーや努力をたたえました。
焦点をすべての高校生たちにあてることで、全員を主役としていて「主役という観点から見ても見事なインタビューだった」と齋藤さんは語っていました。

【全文】仙台育英 須江航監督 優勝インタビュー

宮城の皆さん、東北の皆さん、おめでとうございます!100年開かなかった扉が開いたので、多くの人の顔が浮かびました。

準決勝、勝った段階で、本当に東北や宮城の皆さんから、たくさんのメッセージをいただいて、本当に熱い思いを感じていたので、それに応えられて何よりです。

前半は(相手の下関国際)古賀くんも、すごくいいピッチングしていたので、焦りはありませんでしたけど、本当に翻弄されている感じでした。

でも、ここまで宮城県大会の1回戦から培ってきた、ことしの選手のできること、自分たちが何をやってきたのか本当に立ち返って、選手自身がよくやってくれたと思います。

きょうは本当に斎藤(蓉)がよく投げてくれて、でも県大会は投げられない中で、本当にみんなでつないできて、つないできて、最後に投げた高橋も、そして、きょう投げなかった3人のピッチャーも、スタンドにいる控えのピッチャーも、みんながつないだ継投だと思います。

入学どころか、たぶん、おそらく、中学校の卒業式もちゃんとできなくて、高校生活っていうのは、僕たち大人が過ごしてきた高校生活とは全く違うんですね。

青春って、すごく密なので、でもそういうことは全部『だめだ、だめだ』と言われて、活動していても、どこかでストップがかかって、どこかでいつも止まってしまうような苦しい中で、でも本当に諦めないでやってくれたこと。

でも、それをさせてくれたのは僕たちだけじゃなくて、やっぱり全国の高校生のみんなが本当によくやってくれて、例えばきょうの下関国際さんもそうですけど、大阪桐蔭さんとか、そういう目標になるチームがあったから、どんなときでも諦めないで、暗い中でも走っていけたので、本当にすべての高校生の努力のたまものが、ただただ最後、僕たちがここに立ったというだけなので、ぜひ全国の高校生に拍手してもらえたらなと思います。
週刊まるわかりニュース リポーター
漆原 輝
2011年入局。
盛岡局では5年間、岩手県内の高校野球の取材・実況を担当。
ニュース制作部 記者
岡野 宏美
2011年入局。
高松局・札幌局ではスポーツを取材。
大の高校野球好き。
ニュース制作部 ディレクター
中川 丈士
前任地の松山局では真珠の取材を担当。