【詳しく】NY市場 1ドル=140円台まで下落 24年ぶりの円安水準

1日のニューヨーク外国為替市場、円相場は1ドル=140円台まで値下がりし、1998年8月以来、24年ぶりの円安水準を更新しました。アメリカが大幅な利上げを続けるという見方が広がり、円安が一段と加速しています。

1日のニューヨーク外国為替市場では朝方から円を売ってドルを買う動きが強まり、円相場は1ドル=140円台まで値下がりしました。140円台をつけるのは1998年8月以来、24年ぶりです。

1日発表された製造業の景況感に関する経済指標が市場の予想を上回ったことから、アメリカの景気は底堅く、中央銀行にあたるFRB=連邦準備制度理事会が大幅な利上げを続けるという見方が広がりました。

このため、アメリカの長期金利が上昇し、日米の金利差の拡大が意識されて円を売ってより利回りの見込めるドルを買う動きが強まりました。

市場関係者は「FRBのパウエル議長が先週の講演で利上げを続ける姿勢を鮮明にして以降、金融引き締めの長期化に警戒感が強まっていることも円相場の下落につながっている。円安がどこまで進むか見通せない状況だ」と話しています。

円相場は、この1か月でおよそ7円値下がりしていて円安が一段と加速しています。

なぜこれほどの急変動?

円相場は7月中旬に1ドル=139円台まで急速に円安が進んだあと、8月はじめには一気に1ドル=130円台まで値上がりし、その後、再び140円台まで円安が進みました。

円相場がこれだけの短い期間に10円近い変動を繰り返すのは異例のことで、背景にはアメリカの記録的なインフレの先行きや金融引き締めについて投資家の見方がめまぐるしく変わったことがあります。
アメリカの中央銀行にあたるFRB=連邦準備制度理事会は、記録的なインフレを抑え込むため6月と7月の金融政策を決める会合で、連続で0.75%の大幅な利上げを決めました。

これだけの大幅な利上げを連続で行うのは1980年代に当時のFRBのボルカー議長がインフレを封じ込めたとき以来、およそ40年ぶりの金融引き締めだと言われています。
これに対して、日銀は長期金利を0.25%以内に抑え込み今の大規模な金融緩和を続ける姿勢を鮮明にしています。

こうした日米の違いが強く意識されて金利が上昇するドルを買って円を売る動きが強まり、円相場は7月14日には1ドル=139円38銭まで値下がりしました。

その後は、FRBの急速な金融引き締めでアメリカで景気後退が進むという警戒感が強まり、一転して円が買い戻され8月2日には1ドル=130円台前半まで円高ドル安が進みました。

また投資家の間ではアメリカのインフレはピークをすぎ、金融引き締めのペースも落ちるという見方も出ていました。
ただ、そうした投資家の見方をけん制するようにFRBの高官からはインフレ抑制のために大幅な利上げの継続が必要だという発言も相次ぎ、円相場は再び円安方向に動き出します。
さらにFRBのパウエル議長がアメリカ西部・ジャクソンホールで行われた先週末の講演で利上げを継続する姿勢を鮮明にしたことで日米の金利差の拡大が改めて意識され、円を売ってドルを買う動きが強まり、およそ24年ぶりに1ドル=140円台まで値下がりしました。

この1年の円相場は

円相場はさまざまな経済情勢を反映して変動しますが、今回の円安の背景には日本とアメリカの金融政策の動向が大きく影響しています。

1年前の去年9月。円相場は1ドル=110円前後。新型コロナウイルスの感染状況などをにらみながら、一進一退の動きが続いていました。
しかし、去年10月以降、原油高に伴うインフレへの懸念からアメリカが金融引き締めに向かうという見方が広がって、円安ドル高が進み始めました。
ことし2月下旬のロシアによるウクライナへの軍事侵攻を受け、原油をはじめとする資源価格が一段と高騰。インフレを抑え込むため、アメリカの中央銀行にあたるFRB=連邦準備制度理事会が利上げを急ぐ一方、日銀は金融緩和を続ける姿勢を堅持し日米の金利差の拡大が強く意識されるようになりました。

3月に日銀が長期金利の上昇を抑えるため、一定期間、指定した利回りで国債を無制限に買い入れる措置に踏み切って金融緩和を続ける強い姿勢を示したことで円安ドル高は一気に加速。
円相場はおよそ20年ぶりの円安ドル高水準となる1ドル=126円台をつけました。

その後もアメリカが大幅な利上げを続け日米の金利差はさらに拡大。円相場は4月には1ドル=130円台、6月には1998年10月以来およそ24年ぶりの円安水準となる135円台前半をつけ、7月には一時、139円台前半まで値下がりしました。

円相場はいったん130円台まで戻したものの、1日のニューヨーク市場で1ドル=140台をつけました。

「金融危機」以来の円安

24年前の平成10年・1998年、日本経済は「金融危機」に直面していました。
前の年の1997年に北海道拓殖銀行や山一証券などが相次いで経営破綻したことを受けて、市場では金融システムに対する不安から「日本売り」が強まり、急速な円売りで円安ドル高が進行。1997年1月に1ドル=115円から120円程度だった円相場は、1998年1月には130円台に値下がりしました。

政府・日銀は円安に歯止めをかけるため、4月と6月に「円買い・ドル売り」の市場介入に踏み切りましたが円安の流れは止まらず、8月には1ドル=147円台をつけました。円安を阻止するための「円買い・ドル売り」の市場介入は、このときを最後に実施されていません。

ただ、その後、ロシアの経済危機を受けてアメリカのヘッジファンドが経営破綻。アメリカ経済の先行きに悲観的な見方が急速に広がったことなどから円高ドル安に転じ、10月には1ドル=110円前後まで一気に円高が進みました。

この年は日本長期信用銀行や日本債券信用銀行も経営破綻し、不良債権処理を迫られた金融機関がみずからの経営を優先して企業への融資を控える「貸し渋り」ということばが流行語にもなりました。

円安のメリット・デメリットは

円安は、海外に製品を輸出する企業や海外で事業を展開する企業にとっては利益を押し上げるメリットがあります。海外で稼いだドルなどの外貨をより多くの円に換えることができるためです。
SMBC日興証券によりますと、円安の進行などを背景に旧東証1部に上場していた3月期決算の企業のうち、製造業を中心に107社が今年度1年間の最終的な利益の見通しを上方修正しました。

ただ、日本企業は長く続いた円高の影響を軽減させるため生産拠点の海外移転を進めてきたことから、かつてほど輸出によるメリットは大きくないという指摘があります。
また、円安には外国人観光客を呼び込むプラスの面もありますが、新型コロナウイルスの感染拡大でそのメリットも薄らいでいます。
一方、デメリットとしてはロシアのウクライナ侵攻以降、原油などのエネルギーや穀物などの価格が高止まりする中、原材料を輸入する際のコストが一段とかさむことが挙げられます。

民間の信用調査会社、帝国データバンクが7月に全国の企業2万5000社余りを対象に実施した調査では、業績への影響について「マイナス」と答えた企業が全体の61%に上りました。原材料価格の上昇によるコスト負担の増加に加えて、コストの上昇を販売価格に転嫁できず収益が悪化したことなども理由として挙げられています。

このため、今の円安はデメリットのほうが大きい「悪い円安」だという指摘も出ています。