コロナ自宅療養で“入院保険”これからどうなる?

コロナ自宅療養で“入院保険”これからどうなる?
単身赴任中の私(記者)の夫が6月中旬、新型コロナウイルスに感染し自宅療養に。発熱やのどの痛みがありましたが、幸い軽症で済んだということです。

上司に夫のコロナ感染を伝えると、返ってきたことばは「自宅療養でも入院保険がでるみたいだよ」「えっ、自宅で療養しているのに、入院?」2つのことばがかみ合わないので調べました。
そしてその給付の対象は9月26日から大きく変わりました。

(7月26日の記事に新しい情報を加えました)

9月26日から“入院保険”対象見直し

新型コロナウイルスに感染して自宅療養や宿泊療養の場合は原則として医療機関から陽性の診断を受け、“みなし入院”を証明できれば、保険の契約によって入院給付金を受け取ることができました。しかし、この対象が見直されました。

生命保険協会よりますと加盟している生命保険会社のうち取り扱いのある39社すべてで9月26日から対象が▽65歳以上の人▽入院を要する人▽重症化リスクがありコロナの治療薬の投与や酸素投与が必要と医師が判断する人▽妊婦といった重症化のリスクが高い人に限定されました。

“入院保険”対象変更で戸惑いの声も

“第7波”による感染急拡大で自宅療養者は過去最多を記録しました。

SNS上では「うちの従業員が、子供からの連鎖で3週間休んだ後に30万円貰ってました」とか「陽性と判定されたら入院給付金が出るタイプの医療保険に加入してから、即PCRを受けに行く契約者が激増しとるらしい」といった投稿も。

一方で対象の変更を受けた投稿では「私は7月だったからもらえたけど、これからはそうもいかなくなる」「もらえないなら絶対なりたくない」という声が。

急増している入院給付金の支払い

生命保険協会に加盟している約40社が自宅療養や宿泊療養で支払った昨年度の入院給付金は、91万3685件で約889億7000万円。

それが今年度は6月末までのわずか3か月間で186万7550件で約1691億2121万円。

すでに昨年度の件数と額を上回っています。

なぜこのタイミングで対象見直し?

対象の変更は、政府の新型コロナウイルス感染者の「全数把握」見直しのタイミングで行われました。

これまで政府は無症状者や軽症者も含めてすべての感染者の報告を医療機関に求めていましたが、これが現場の負担になっているという声を受けて9月26日から全国一律でこれを見直しました。

引き続き詳しい報告を求める対象になっているのは▽65歳以上の人▽入院を要する人▽重症化リスクがありコロナの治療薬の投与や酸素投与が必要と医師が判断する人▽妊婦という4つの類型を指定。
この動きに合わせて変更することになったのです。

ただ、25日までに新型コロナウイルスに感染したという診断が出ている場合は、加入している医療保険の契約内容によってこれまで通り入院給付金を受け取ることができます。

給付を受ける場合の手続きは?

生命保険協会などによりますと、保険会社によって必要な書類は若干異なりますが、協会や国が周知しているのは患者がスマートフォンやパソコンで自身の健康状態を入力する国のシステム「My HERーSYS」(マイ ハーシス)の活用です。

自宅療養などをした時に保健所や医療機関からの連絡で登録し、体調を報告するために使います。
各保険会社から送られてくる療養期間などを記載する用紙への記入とこのスクリーンショットの印刷の計2枚で入院給付金が支給されるケースもあります。

医療機関や保健所などが発行する「宿泊・自宅療養証明書」で代用することができますが、現場の事務手続きの負担が重くなります。このため、協会はこの「My HERーSYS」が使用できない場合は代替書類で対応するよう周知しています。
代替書類の例
▽医療機関等で実施のPCR検査・抗原検査の結果がわかるもの
▽診療明細書
▽コロナ治療薬が記載された処方箋・服用説明書
▽自治体設置の健康フォローアップセンター受付結果(LINE等)
▽保健所と陽性者がやり取りしたメールの写し
▽保健所から陽性者への案内文(健康観察や生活支援の留意点が記載)
▽PCR・抗原検査実施の検査センターの結果(市販検査キット除く)
協会は扱う代替書類について「各保険会社で異なるため確認してほしい」としています。

また、9月25日に申請が殺到することが予想されることから「25日までに手続きを済ませなければならないということではないので、急がず申請をしてもらいたい」としています。

専門家“背景に社会情勢の変化と誤算”

保険に詳しい福岡大学の植村信保教授は政府の全数把握の見直しと合わせて、入院保険の対象見直しを行うことは妥当だと考えています。
「保険の取り決めについて拡大解釈をしてあえて支払っていたものをふつうの状態に近づける話だと考えています。コロナは未知の病気で、どうなってしまうか分からないという当初の状況とは社会情勢がずいぶん変わってきています。見直しをすること自体は必要なのではないかと思っていました」
加えて今回の背景には、保険会社側の誤算があったとも指摘します。
「保険会社にとって誤算は2つあります。1つは陽性者がこれほど増えると思わなかった。もう1つは『みなし入院』の保険金の請求がこれほど来ると思わなかったということです」
一方で対象の年齢を65歳以上としたことについては「政府の方針通りということだと思うが、65歳以上だから重症化リスクが高いという割り切りがそれでいいのか、公平性という観点からやや疑問がある」と述べました。

そして今後混乱が予想されるとして保険会社には丁寧な説明が求められるとしています。
「お客さんは情報が錯そうしているので、それを念頭に接してほしいです。問い合わせが相当あると思うので、最新情報を分かりやすく伝えるきめ細かな対応をしてもらいたいです」
生命保険協会に取材をすると各社で対象を見直す時期や必要な書類については異なるということです。

加入している保険会社のホームページなどでこまめに確認する必要がありそうです。

(取材記者:金澤志江、鈴木 有、伊藤 奨、矢野裕一朗)