知られざる「ため池決壊」 全国5万か所以上 人的被害おそれも

9月1日は防災の日です。
住宅地に近く、決壊すれば人的な被害を与えるおそれがある農業用のため池は全国で5万か所以上に上っています。
このうち山形県のため池では、8月初めの記録的な大雨で近くの住民が池の決壊を知らないまま住宅が浸水し、避難できなくなっていたことが分かりました。

4年前の西日本豪雨ではため池の決壊が相次ぎ、当時3歳の女の子が亡くなるなど大きな被害をもたらしました。

これを受けて国では、住宅地に近く、決壊すれば人的な被害を与えるおそれがあるおよそ5万5000か所のため池について、池の周辺を補強する工事や、迅速な避難につなげるため水位を監視するシステムの導入を推進してきましたが、費用の面などから進んでいません。

山形 川西町 8月の記録的大雨でため池決壊 住宅浸水も

このうち山形県川西町では、8月3日からの記録的な大雨でため池が決壊し、少なくとも住宅80棟余りが浸水しました。

NHKが住民に取材したところ、越水や決壊などリスクが高まっていることを知らないまま避難できず、ボートで救助されたり、家族4人で自宅の2階に「垂直避難」を余儀なくされたりしたことが分かりました。

川西町の担当者は「ため池の危険性を住民と共有する必要があると感じたので、情報の周知やシステムの設置について考えていきたい」と話しています。

ため池の防災に詳しい農研機構の堀俊和研究領域長は「ため池の水位を監視するシステムの導入や決壊を想定した訓練で、住民が避難経路などを事前に検討することが重要だ」と指摘しています。

越水や決壊リスクを知らず避難できなかった住民も

ため池の近くに住む住民の中には越水や決壊のリスクが高まっていることを知らずに自宅の周辺が水に浸り、避難ができなかった人がいました。

川西町の上小松地区ではため池が決壊し、少なくとも住宅80棟余りが浸水しました。

この地区に住む大木初美さん(35)は8月3日の午後6時すぎ、避難所へ移動しようとしましたが、自宅の周辺が膝下まで水に浸り、敷地内に置いてある車へたどりつく手前で転びそうになったことから、避難を諦めました。

その時、「ゴゴーッ」という低い音が聞こえ、数分後には自宅の周辺の水の高さが2倍ほどになったということです。

町は、大木さんの住む地区に午後6時20分に避難指示を出し、ため池の近くにいた町の職員の報告で、ため池の越水を午後6時21分、決壊を午後6時47分に確認しました。

急激な増水に避難を断念した大木さんは、自宅の1階が床上まで水に浸ったため7歳の息子と母親、祖母の合わせて4人で自宅の2階で一晩を過ごしました。

大木さんは「子どもと高齢の家族を連れての避難は無理だと判断したが、逃げられるのであれば安全な場所に逃げたかった。雨が降った場合、どれくらいため池が危険なのか、どの程度水がたまったら避難をしたほうがいいのかを知りたかったです」と話していました。

専門家「決壊を想定した防災訓練などソフト対策を」

ため池の防災に詳しい専門家は「命を守るため、ため池の防災工事や監視のほか、決壊を想定した防災訓練などソフト対策を進めるべきだ」と指摘しています。

災害時のため池の危険性について、国の研究機関、農研機構の堀俊和研究領域長は「農地に水を供給するためにため池は山の上にあることが多く、万が一、決壊した場合には、住宅地から見えない上から突然、水が襲ってくることになり、非常に危険だ」と述べ、急激に浸水し、水位が上がる危険性を指摘しました。

そのうえで、今後の防災対策については「ため池の防災工事やリスクが高まっている場合にその状況を見えるようにするため、水位を測るセンサーなど監視システムを導入することが望ましい。ただ全国には住宅地などの近くに5万か所を超えるため池があることから、すべてにこうした対策を行うのは現実的ではない」としています。

そのうえで「頻繁に記録的な大雨が降っている状況で、行政の対策だけでは限界がある。ため池の決壊から命を守るため、決壊を想定した防災訓練などソフト対策を進め、住民が避難経路を考えたり、場合によっては自宅の2階に逃げたりすることを事前に検討しておくことが重要だ」と、ため池の近くの住民に対し、日頃の備えを呼びかけています。