“男性なら”いいの? 男性脱衣所に防犯カメラ設置7割

“男性なら”いいの? 男性脱衣所に防犯カメラ設置7割
先日、男湯や男子トイレに女性従業員が清掃に入ることへの違和感を訴えた男子高校生の声を紹介したところ、「実は気になっていた!」といったさまざまな反響が寄せられました。
その中に新たにこんな1通が。
「男性の脱衣所に防犯カメラが設置されているのは問題じゃないの?」
女性の脱衣所では見たことがなかったのですが、データや銭湯への取材から現状が見えてきました。脱衣所へのカメラ設置、どう思いますか?
(社会部 記者 勝又千重子)

ほかにもある?“男性だから”我慢していること

NHKの情報提供窓口「ニュースポスト」に寄せられた「男湯、男子トイレに女性従業員が入ることはなぜ許されるのでしょうか」という投稿から、女性従業員が男湯を清掃している施設のデータや新たな取り組みを以下の記事で配信したところ、男性からも女性からもさまざまな反響がありました。
「ニュースポスト」への投稿
70代男性

「昔から『何でだろう』と思いつつ特に苦情も言わなかったが『やはり違うんではないか』と思う人も多くいるのでは?」
10代男性
「男だけ理不尽というか、もやもやしたものがずっとありました」
そんな声の中で、これまで感じていた別の違和感をニュースポストに投稿してくれたのは、京都に住む30代の男性です。
30代男性
「今やほとんどのスーパー銭湯の男湯の脱衣場にはカメラがあります。いくら防犯のためとはいえ全裸になる所を電子媒体に残されるのは不快だし、顔認証など技術が進むなかでどう動画が処理されているのかわからないのは嫌です。新しいスーパー銭湯ほどカメラの数は多く、ドーム型であって、四方八方から撮られてる状態です。海外ではありえないと言われました。また女湯にあったら大問題になるんじゃないでしょうか。男だから我慢するのはおかしいと思います」
女性の私(記者)自身、女湯の脱衣所に防犯カメラがついているのは見たことがなかったので、男湯の脱衣所にカメラが付いていることを初めて知りました。

男性の中にも裸を撮影されるのは嫌だという人はいると思いますが、どのくらい設置されているのでしょうか。

男性脱衣所に防犯カメラ 7割の施設で設置

全国のスーパー銭湯でつくる「温浴振興協会」が、ことし7月下旬にアンケート調査を実施したところ、134の施設から回答があり、次のような結果が明らかになりました。
7割余りの施設が、男湯の脱衣所に防犯カメラをつけていました。

スーパー銭湯には貴重品ボックスや鍵のかかるロッカーもあるはずですが、脱衣所にまでカメラが必要なのでしょうか。
温浴振興協会 諸星敏博理事長
「盗難がとにかく多いんです。利用者からのクレームを受けて脱衣所でのカメラの設置をやめた店もありますが、窃盗があると警察がきて『画像がありますか?』と聞かれ『ない』と答えると『今後は撮っておいてください』と言われることもあるんです。女性の脱衣所にはつけていない結果、女性の脱衣所での盗難被害のほうが多いという声もあります」

脱衣所での盗難被害の実態は?

「温浴振興協会」では盗難被害の現状についても聞きました。
「男性・女性脱衣所両方で被害」…71%
「女性脱衣所でのみ被害」…8%
「男性脱衣所でのみ被害」…6%
「盗難被害にあったことがない」…15%

何らかの盗難被害があったのは全体の8割以上と、かなり多くの施設が経験していました。

防犯カメラ60個以上設置 容疑者100%逮捕の施設も

実際にカメラを取り付けている関東地方のスーパー銭湯の支配人が、匿名を条件に話を聞かせてくれました。
そのスーパー銭湯を訪れると、受け付けの上や廊下の天井の隅にカメラが設置されているのが目に入りました。

オープン当初から男性の脱衣所にもなっているロッカールームにも防犯カメラを取り付けていて、施設内のカメラは全部で64個あるといいます。
スーパー銭湯の支配人
「犯罪件数が周辺よりも多い地域と聞き、取り付けることにしました。いちばん必要だと感じていたのは受付です。会計の時に5000円札を出したうえで『1万円出したのにお釣りが足りない』と言って差額をだまし取ろうとする利用者が出てきた時に確認できるようにしたかったのです。脱衣所になっているロッカールームも盗難があると困ると思い、男性の方は設置しました」
設置にかかった費用はおよそ500万円。
営業を始めてみると、ロッカーをこじあけるなどの想定していた盗難被害はなかった一方で、ロッカーを閉め忘れて財布の中身を盗まれたとか、休憩所で寝てしまい携帯ケースに入れていたクレジットカードを盗まれたといったケースが多いそうです。
その際に役に立っているのが、防犯カメラの映像だといいます。
この施設では映像はパスワードでセキュリティー保護されていて、幹部しか確認できないようになっていますが、被害にあった本人からの申し出があり、被害届が警察に出された場合に警察に映像を提供しているといいます。

捜査協力のため、容疑者と思われる人物の顔写真を受付のスタッフが全員で覚え、再び訪れたところを捕まえたこともあったそうです。

これまでおよそ20件の盗難などの被害がありましたが、防犯カメラの映像を元に、すべての容疑者を捕まえることができているといいます。
スーパー銭湯の支配人
「容疑者が捕まったあとお礼を言いに来る人もいました。安心して施設を使っていただきたいですし、お客様が犯罪に巻き込まれた時に助けになると思って設置していることを理解していただければと思うのですが…」

脱衣所にカメラ設置の妥当性は?

犯罪が起きた時には、証拠として大きな役割を果たす防犯カメラ。
裸になる場所に設置することについて2人の専門家に聞きました。
男性学などジェンダーの問題に詳しい京都産業大学の伊藤公雄教授は。
京都産業大学 伊藤公雄教授
「『男性だから裸を撮られても気にならないだろう』とか『犯罪の摘発を重視してもいいだろう』という意識が働いていると思いますが、男性の脱衣所にカメラがついていること自体が人権侵害だと思います。裸になる場所にカメラを設置されることを嫌だと感じる人がいる前提で運営をしていくべきで、犯罪を防いだり、摘発したりするという目的は、別の方法を考えるべきではないでしょうか」
防犯カメラとプライバシーの問題に詳しい、弁護士の小林正啓さんは。
小林正啓弁護士
「一般的な施設内の防犯カメラは施設の所有者の管理権で設置が可能ですが、スーパー銭湯などの不特定多数の入場者がいる場合、入場者のプライバシーと、カメラを設置する必要性とのバランスで設置が妥当かは判断されます。プライバシーの侵害であるか否かは一般の人の平均的な感覚に依存する部分があり、男性の脱衣所にこれだけ多く設置されているのは、現段階では“防犯上のメリットのほうがプライバシーより大きい”という“社会的な合意”があると思われているからだと考えられます。ただし、防犯カメラ自体を見える位置に設置したり、設置していることが分かるよう掲示したりすることが必要で、そうでない場合、違法となる可能性もあります」
そのうえで、男性の利用者の中に脱衣所への設置に違和感や不快感を持つ人もいることについて次のように話していました。
小林正啓弁護士
「プライバシーというのは新しい権利で、どこまでがプライバシーなのか境界がはっきりしていない権利なんです。結局、境界を定めるのは、社会に暮らす人々で、その時代の人たちが違法かどうか決めていくものです。女性は裸を見られたら恥ずかしいと言えるのに、男性は裸を見られても恥ずかしいと言えないという固定観念も少しずつ変わっていっている中で、実際の声が大きくなれば、現状は変わっていくのではないでしょうか」
今回、ニュースポストに寄せられた男性の投稿をきっかけに取材を進めていく中で、思った以上に多くのスーパー銭湯で男性の脱衣所に防犯カメラが取り付けられている実態が見えてきました。

その是非をどう判断していくべきか、皆さんは、どう思われたでしょうか?NHKの情報提供窓口「ニュースポスト」では身近な困りごとや違和感についても情報をお待ちしています。
社会部記者
勝又 千重子
2010年入局
山口局、仙台局を経て現所属
子ども、教育の問題を幅広く取材
山口局時代は温泉地に住み、泊まり明けの日は必ず温泉で疲れを癒やしていました