ザポリージャ原発 元技術者 “ロシアはIAEA調査に協力しない”

IAEAの専門家チームが調査を行うザポリージャ原発でことし6月まで10年にわたって勤務していたウクライナ人の技術者、アンドリー・トゥーズさん(32)が31日、NHKの取材に応じました。

トゥーズさんはロシア軍が侵攻後まもない、ことし3月、ザポリージャ原発を掌握してからも勤務を続けていましたが、ロシア軍による脅迫などが強まったことを受けて職を離れ、いまはスイスで避難生活を送っています。

当時の状況についてトゥーズさんは「ロシア軍は初めの頃はある程度、優しかったが、時間とともに態度が悪くなり、圧力をかけられた。従業員を部屋に連れて行って尋問し、ロシア軍が行っていることを言わないように口封じしたり、森に従業員を連れて行って銃を向けて『従わないと、何をするかわからないぞ』と脅したりしていた。さらに、日中、本人が原発の敷地内で働いている間に家族のもとにロシア軍が押しかけ、連れ去られそうになったり脅迫されたりした同僚もいた」と話し、ロシア軍が圧力を強めていった状況を語りました。

そして、職を離れ、ロシアが一方的に併合したクリミア経由で避難する際に、ロシア軍から拷問を受け「ロシアは原発を支配していないし、攻撃もしていない」という発言を強要され、ビデオに録画されたと明らかにしました。

トゥーズさんはいまも原発で働き続けている同僚と連絡を取り合っているということで、同僚から聞いた話として「敷地内でロシア軍が支配する範囲がどんどん広くなり、いまは原発の制御室の中まで武器を持って入ってきている。今月、送電線が切られた時はまもなく原発が爆発するのではないかという状況にまで陥ったと聞いた」と話しました。

そのうえで「通常の運転ができないかぎり、事故が起こる可能性は常にある状況で、ロシア軍がいるかぎり、安全性は保たれない」と話し、ロシア軍が原発周辺から撤退することが欠かせないと繰り返し強調しました。

IAEAの専門家チームの調査については「ロシアは協力しないだろう。ミサイルを発射したり砲撃したりして、専門家チームも危険にさらされることになる。IAEAが常駐する必要があり、一時的な調査では意味がない。期待できるかどうかは正直わからない」と話しました。

その理由としてトゥーズさんは「同僚たちは銃を向けられ口封じをされている。IAEAの調査が入っても言えないことはたくさんあるだろう」と話しました。

そして「原発には、5000人くらいの同僚が残っているかもしれない」としたうえで「プレッシャーやストレスも大きいが、事故を起こさないようにという使命感で、彼らは原発で働き続けている」と話し、いまも残る同僚たちをたたえていました。