全数把握見直し 29日夕方まで4県申請 10都県は見直さない方針

政府は新型コロナウイルスの患者の全数把握を見直し、詳しい報告の対象を高齢者などに限定できる方針を示しましたが、29日夕方までに見直しの申請を行ったのは4つの県にとどまることが、NHKのまとめで明らかになりました。現時点で33道府県は検討中とする一方、10都県は見直しを行わない方針を示しています。

新型コロナ患者の全数把握をめぐり、厚生労働省は医療機関や保健所の負担を軽減するため、緊急の措置として、都道府県の判断で患者の「発生届」を高齢者など重症化リスクのある人に限定できるよう見直しました。

そして、31日の運用開始から見直しを希望する場合は、29日夕方までに申請を行うよう都道府県に求めていました。

これについてNHKが全国の都道府県に問い合わせたところ、見直しの申請を行ったと回答したのは宮城県、茨城県、鳥取県、佐賀県の4県でした。

見直しの理由について聞いたところ「発熱外来の業務ひっ迫を回避することを優先した」や「重症化リスクの高い患者への対応に集中するため」などと答えました。

また、33道府県が現時点で検討中と回答していて、その理由について「今後、政府が示す全国一律の指針を見て判断したい」といった声が多く聞かれたほか「医師を配置した健康フォローアップセンターの準備ができていない」といった声もありました。

一方、東京都や神奈川県など10都県が現時点で見直しは行わないと答え、その理由について「重症化リスクの低い人でも症状が悪化することがあり、その対応ができなくなる」や「患者を正確にフォローできないので、自宅療養が徹底されなくなるおそれがある」などと回答しました。

政府が示した内容は 北海道 きょうは届け出見送る

先週、政府が北海道に示した見直しの内容です。

日ごとの年代別の感染者数の総数を毎日公表することを前提に、届け出の対象を、
▽65歳以上、
▽入院を要する人、
▽重症化リスクがあり治療薬の投与や酸素投与が必要と医師が判断する人、
▽妊婦に、
限定できるようにするとしています。

見直しは、現時点では都道府県の判断で行うとされていますが、政府は、いずれは全国一律の措置に移行する方針を示しています。

この全数把握の見直しについて、道は、29日の届け出は見送ったということです。

札幌市など保健所を設置する自治体や医師会などへの聞き取りなど調整を進めていることに加え、詳しい報告の対象外となった人の健康観察の取り扱いなどについて検討すべき点が残っていることを理由に挙げています。

政府は、対象外となった人が、体調が悪化した場合に相談できる「健康フォローアップセンター」などの連絡先を周知するよう求めていますが、これを、いまある道の健康相談窓口で行うか、新たな窓口を設ける必要があるか、結論は出ていません。

また、道によりますと、対象外になる人は全体のおよそ7割から8割に上る見込みだということですが、これらの人たちについて、公表が求められる日ごとの年代別の総数を医療機関からどのように報告してもらうかや、保健所でどう集計するかなど具体的な方法も決まっていません。

全数把握の見直しをめぐって、札幌市は、見直しが医療機関の負担軽減につながる一方「保健所の業務負担が大幅に軽減されることにはならない」としています。

鈴木知事は「各自治体や医療関係者の十分な理解を得る必要がある」としていて、ほかの都府県の動向なども踏まえ、慎重に対応を判断する考えです。

東京都 見直しを当面行わない背景は

東京都は感染者の全数把握の見直しを当面、行わないことを決めています。

その背景にあるのが、軽症や中等症だった患者の容体が急変して、死亡するケースが目立っていることです。

新型コロナの患者を必要な医療につなげるためには、発生届の対象を重症化リスクが高い人などに限定するのではなく、患者1人1人の健康状態を把握することが必要だと都は考えているのです。

また、ここ最近になって新規感染者の数が減ってきていることも理由の1つです。

都の幹部は「報告や作業のしかたを変えると逆に事務負担が増えると考えた。ピークの時に言われれば違ったかもしれないが、感染者数も減っている」と話しています。

都は感染者のデータを管理する国のシステム「HER-SYS」で発生届の作成から健康観察までを行う医療機関には1件につき3万1200円の協力金を支給しています。

こうした取り組みを通じて都は患者の健康観察の実施を促進したい考えです。

小池都知事 全国一律への移行「現場の声聞き混乱ないよう」

新型コロナ感染者の全数把握の見直しをめぐり、岸田総理大臣がいずれは全国一律の措置に移行する方針を示したことについて、東京都の小池知事は、見直しにあたっては現場の声を聞き混乱がないようにするべきだという考えを強調しました。

小池知事は29日、都庁で記者団に対し「1人1人の命をしっかり見ていくことは大きな務めだ。国がどういう形で進めていくのか、現場の声も聞いてもらいながら混乱のないようにしていくことが求められている」と述べました。

そのうえで「個人のカルテと『HER-SYS』が連携してないので入力が二度手間になっているのが現場の声であり、システム上の課題もある」と指摘しました。

神奈川県 黒岩知事「矛盾抱えた制度のままではできない」

神奈川県の黒岩知事は29日の定例会見で「政府は把握の対象外の人も宿泊療養施設を使いたい場合は利用してよいとしているが、全数把握をしないで、どうやってその人が宿泊療養施設の利用の対象だと見極めればいいのか。矛盾を抱えた制度のままでは、全国一律といわれてもできないものはできない」と述べ、まずは運用上の問題点を改善すべきだという考えを改めて示しました。

そのうえで黒岩知事は「いちばん大事なのは、全国統一で行うことではなく、制度の整合性だと思うので、早く修正してほしい」と話していました。

小児科の医師「子どもの病状を保健所が把握する仕組み必要」

札幌市中央区の「円山ため小児科」では、29日も「子どもが発熱した」といった相談や問い合わせが相次いでいました。

院長は、PCR検査を行う建物の1階と診察室がある3階を行き来しながら、診断にあたっていました。

患者の氏名や年齢、連絡先などの情報を「発生届」として提出するための「HER-SYS」と呼ばれるシステムへの入力は、順調に行えた場合でも患者1人当たりおよそ10分かかるということです。

多くて1日に10人、平均でおよそ6人分の入力を行っていますが、電話への対応などで入力だけを集中して行える状況にはなく、多米淳院長は、全数把握の見直しで事務的な業務負担の軽減につながるとしています。

一方、全数把握が見直され、詳しい報告の対象が高齢者など重症化リスクが高い人に限定された場合、子どもたちの病状を保健所が把握するための仕組みが必要だと指摘しています。

多米院長は「小児の場合、基礎疾患がないお子さんは届け出をしなくてもよくなることになるが、全国の報告を見ていると、何も基礎疾患がないお子さんが重症化したり、死亡したりということが報告されている。特に小さいお子さんを持つ親御さんは心配に思うし、そうした問い合わせも多く寄せられており、現状として、行政機関と医療機関という2つの窓口があるということが安心につながっている面はあると思う」と話しています。

そのうえで「届け出の対象外のお子さんが悪化した場合に、名前から年齢から、いつ発症し、どんな症状があるかを、全部ゼロから情報共有しなければならなくなるので、悪化した場合の行政としての受け皿をきちんと作ってもらわなければならない。きちんとルートを確保してから方向転換するということでないと、不安感も出てくる」と指摘しています。