ロケット打ち上げは延期 半世紀ぶり有人月探査計画の第一歩

宇宙飛行士の月への着陸を目指す国際プロジェクト「アルテミス計画」で、月までの試験飛行を行う無人の宇宙船を搭載したNASA=アメリカ航空宇宙局の大型ロケットは日本時間の29日午後9時半すぎに打ち上げられる予定でしたが、NASAは29日の打ち上げを延期すると発表しました。

NASAによりますと燃料の注入作業を進めていたところ、コアステージと呼ばれるロケットの1段目のエンジンに問題が見つかったということで、対応を進めていました。新しい日程は改めて発表されることになります。

NASA=アメリカ航空宇宙局は日本やヨーロッパも参加する国際的な月探査計画「アルテミス計画」で2025年を目標に、アポロ計画以来となる宇宙飛行士による月面着陸を目指しています。

計画の第1段階としてアメリカ・フロリダ州のケネディ宇宙センターから大型ロケット「SLS」=「スペース・ローンチ・システム」の打ち上げが29日予定されていましたが、NASAは打ち上げを延期すると発表しました。

SLSは今回の計画にあわせて新たに開発されたロケットで、高さがおよそ98メートルあり、同じく新たに開発された宇宙船「オリオン」が無人の状態で搭載されています。

オリオンには今回、マネキンが3体載せられ、月を周回して再び地球に戻るおよそ40日間の試験飛行を行って衝撃や放射線の影響など、将来の有人飛行に向け必要なデータを集めます。

NASAは当初、2024年までに宇宙飛行士を月に降り立たせることを目指していましたが、ロケットの開発が遅れて目標がずれ込んでいて、今回の打ち上げで目標に向けた第一歩が踏み出せるか、注目が集まっています。

「アルテミス計画」とは

「アルテミス計画」は宇宙飛行士を再び月に送る計画で、アメリカが中心となって進め、日本やヨーロッパなども参加しています。

1960年代から70年代、人類を月面に送り込んだ「アポロ計画」と同様、ギリシャ神話にちなんで名付けられ、「アルテミス」は「アポロ」の双子の妹で、月の女神とされています。

計画ではまずは、3つの段階で月を目指します。
第1段階の今回は、新たに開発したロケットを使って同じく新たに開発した宇宙船「オリオン」を無人の状態で打ち上げ、月を周回する試験飛行を行います。

その後、▽第2段階として2024年を目標に実際に宇宙飛行士を乗せて月を周回する試験飛行を行い、▽第3段階として、2025年を目標に宇宙飛行士が月面に降り立つ計画です。

計画通りに実現すれば1972年にアポロ17号が宇宙飛行士を乗せて月面に着陸して以来、およそ半世紀ぶりのこととなります。
さらにその先には月を周回する新しい宇宙ステーション「ゲートウェイ」を建設し、宇宙飛行士を定期的に送り込んで滞在できるようにする計画です。

この計画では、月を拠点として、2030年代には火星に有人着陸することも見据えています。

NASAは当初、2024年までに宇宙飛行士を月に降り立たせることを目指していましたが、ロケットの開発が遅れて打ち上げがずれ込んでいました。

今回の計画でNASAは初めての女性飛行士の月面着陸を目指すほか、日本人宇宙飛行士が月面に降り立つことも検討されています。

大型ロケット「SLS」

今回の打ち上げに使われる大型ロケット「SLS」はアルテミス計画のために開発されました。

全長およそ98メートルの2段式で、月を回る軌道に最大で27トンを打ち上げる能力があります。

「コアステージ」と呼ばれる1段目のロケットはスペースシャトルで使われたエンジンを改良して作られた、液体水素と液体酸素を使ったメインエンジンを4基、搭載しています。

また、左右に2基ある補助ロケットは、スペースシャトルで使用された補助ロケットをもとに開発された固体燃料のロケットです。

そして「アッパーステージ」と呼ばれる2段目のロケットにはコアステージを切り離したあとのオリオンが宇宙空間で軌道を変えるエンジンが搭載されています。

NASAによりますと、SLSは打ち上げ時、アポロ計画で使われた大型ロケット「サターンV」よりも大きな推進力を出すことができるということで、「NASAが開発したロケットの中で最も力強い」としています。

SLSには複数のバリエーションが計画され、将来はさらに大きな推進力を持つロケットが使われる予定です。

宇宙船「オリオン」

今回打ち上げられる宇宙船「オリオン」は「アルテミス計画」にあわせてNASA=アメリカ航空宇宙局などが開発しました。

打ち上げられたあと、月へ向かう軌道に乗って飛行し、打ち上げから25日後に、およそ45万キロ離れた月の裏側付近を通過して、再び地球に向かい、42日後に、太平洋に着水する計画です。

今回の試験飛行は、オリオンが問題なく、月を往復することができるか確かめるとともに、有人飛行に必要なさまざまなデータの計測が行われます。

その1つが3体のマネキンを使った実験です。
マネキンにはそれぞれ名前がつけられ、そのうちの1体、「カンポス」は船長の席に設置され、振動や衝撃の大きさなどを計測します。

ほかの2体は「ヘルガ」と「ゾーハ」という名前で、今回、計画されている女性飛行士の月面着陸に向けて女性の体が飛行中に受ける放射線の影響を5000個以上のセンサーを使って調べます。

「ゾーハ」には放射線から人体を保護するベストが着せられ、その効果も確かめます。

また、オリオンが地球に帰還する際には表面温度がおよそ2800度に達すると予想され、オリオンの耐熱シールドがこうした高温に耐えられるか確かめるということです。

打ち上げまでの手順は

NASAによりますと大型ロケットSLSはおおむね次のような手順で打ち上げられます。

▽打ち上げの9時間40分前から天候や準備の状況についてブリーフィングが行われ、8時間40分前に、この後の作業を進めるか判断を行います。

▽およそ7時間前からSLSに、燃料となる液体水素や液体酸素を注入する作業を行います。

▽50分前には担当者たちが最終ブリーフィングを行います。

▽15分前、打ち上げの責任者はチーム全体が打ち上げに賛成か、確認を行います。

▽10分前には最終的な打ち上げに向けたカウントダウンを始め、内部電源への切り替えなど最終調整を行います。

▽そして打ち上げの6秒前にコアステージのエンジンが点火されます。

そして、打ち上げられた後は、▽およそ2分後に補助ロケットが切り離され、▽打ち上げからおよそ8分30秒後にコアステージが切り離されます。

その後、打ち上げからおよそ1時間38分後にオリオンが月に向かう軌道に乗るよう、エンジンの噴射が行われ、およそ2時間6分にオリオンの下に設置されたロケットが分離されます。

打ち上げ後の宇宙船「オリオン」は

オリオンは月へ向かって飛行し、打ち上げから5日後には月に「最接近」します。

そして、月を周回したあと、打ち上げから34日後、地球に戻る軌道に乗ります。

最後は、打ち上げから42日後、アメリカ・サンディエゴ沖の太平洋に着水する計画です。

小型衛星 10機搭載のうち2機が日本の探査機

今回打ち上げられるNASAのロケット「SLS」は小型衛星を10機搭載する予定で、そのうち2機が日本の探査機です。

2機のサイズは1辺がそれぞれおよそ▽11センチ、▽24センチ、▽37センチといういわゆる“超小型”で、いずれも地球の近くで分離されたあと自力で月へ向かいます。

月面着陸目指す「OMOTENASHI」

このうち、「OMOTENASHI」(おもてなし)は今回の打ち上げで唯一、月面着陸を目指す探査機です。

日本はこれまで、月面に着陸した実績がなく、成功すれば、旧ソビエト(1966年)、アメリカ(1966年)、中国(2013年)に続く4番目となります。

「OMOTENASHI」は、ロケットから分離されたあと探査機が持つガスジェットを噴射して、月に向けて軌道を修正。

そして、月に降り立つ直前、着陸態勢に入るため、向きを変えるとともに、探査機そのものを回転させながら姿勢を安定させます。

大気のある地球と異なり、パラシュートを開いて減速することができないので速度を落とすための固体ロケットを進行方向に噴射。

時速をおよそ180キロまで落として月に衝突させます。

探査機にはあらかじめ、衝撃を吸収する緩衝材を入れるなど、複数の対策が施されていて、まさに月に「体当たり」で着陸する計画。
成功したかどうかは、地球に送られる電波で確認することにしています。

「OMOTENASHI」はミッションとして、▽月面着陸のほか、▽月に向かう軌道に入った後、被ばく線量を1分ごとに計測する予定で、有人での月探査活動に備えて、放射線環境に関するデータを集めることにしています。

月面に降り立つことができれば、世界最小の月面着陸機になるということで、注目されます。

月の裏側に回り込む「EQUULEUS」

もう1つの探査機「EQUULEUS」(エクレウス)は、JAXAや東京大学などが共同で開発。

地球からは見えない月の裏側に回り込む計画です。

そのエリアには、▽月と地球の引力に加えて▽探査機の遠心力が釣り合う「ラグランジュ点」と呼ばれる場所があり、この周辺にある軌道に入ると、最小限の燃料でとどまり続けることが可能です。

この特性を生かすことで、将来、▽月へのアクセスや▽火星探査の重要拠点となる「宇宙港」の建設場所になりうることから「ラグランジュ点」は宇宙開発上の重要な場所だと位置づけられています。

「EQUULEUS」は、この場所に効率よく到達することが目的で、ロケットからの分離後は、推進剤に水を使い、半年から1年ほどかけて月の重力を使うなどして軌道を変えながら目的地に向かう計画です。

そして、有人での月や周辺探査に重要な地球周辺の放射線環境や月にぶつかる隕石の撮影などに挑戦することになっています。

超小型の探査機は開発のコストやハードルが低く、今後も活用の機会が増えると期待されることからJAXAは月面着陸や航行に必要な技術を実証し、将来の科学探査の可能性を広げる狙いです。