NPT再検討会議 ウクライナ情勢めぐり対立のまま最終日へ

世界の核軍縮の方向性を協議するNPT=核拡散防止条約の再検討会議は、会期の最終日を迎えましたが、ウクライナ情勢をめぐる各国の対立が続いています。議長がまとめた「最終文書」の草案は、ロシア軍が掌握するザポリージャ原子力発電所について、ウクライナ当局が管理する重要性を指摘していますが、ロシアは強く反発しており、最終的に合意できるのか予断を許さない情勢です。

4週間にわたってニューヨークの国連本部で開かれてきたNPTの再検討会議は25日、スラウビネン議長が全会一致での合意を目指す「最終文書」の草案を改めて示しました。

草案では、ロシア軍が掌握し砲撃が相次いでいるウクライナ南東部のザポリージャ原子力発電所について、周辺での軍事活動に重大な懸念を示すとしながらも、ロシアへの配慮からロシアを名指しで非難することは避け、「ウクライナ当局による管理の重要性を確認する」という表現にとどめられました。

しかし、外交筋によりますと、ロシアはなお反発しているほか、ウクライナやヨーロッパの一部の国は逆に表現が弱められたことに不満を示しているということです。

また、草案をめぐっては、NPTが本来議論すべき核軍縮に向けた措置への言及が不十分だと主張する国もあるということです。

このため最終文書が採択されるかどうかは最終日26日の交渉に委ねられることになり、日本時間の27日朝にかけて各国の激しい駆け引きが続きます。

NPT再検討会議は、前回7年前に最終文書を採択できず、今回も合意できなければ世界の核軍縮がさらに停滞するのは避けられないだけに、交渉の行方が注目されます。

ザポリージャ原発めぐり「最終文書」表現修正も

NPTの再検討会議では、ロシア軍が掌握するヨーロッパ最大規模のザポリージャ原子力発電所について、「最終文書」にどのような文言を盛り込むかをめぐり各国の対立が続いています。

ヨーロッパ各国などからは、原発の安全に強い懸念を示しロシアを非難する声が相次ぎ、このうちウクライナの代表は「現在起きているロシアの侵略による深刻な挑戦と脅威、原発を違法に掌握し攻撃し続けていることも草案に反映させるべきだ」と述べていました。

こうした意見を受けて草案は一度は表現が強められ、今月21日の草案では、原発周辺でのロシアによる軍事活動に重大な懸念を示し、ロシアの管理からウクライナ当局の管理下に戻すよう求めました。

しかしロシアは、こうした表現について猛烈に反発。
「断じて受け入れられない」と主張してきました。

「この文書で推進しようとしているのは一部の国の意見だけ
ロシアにとって受け入れがたいものだ」。

その結果、修正草案では、ロシアを名指しする下りは削除され、「ウクライナ当局による管理の重要性を確認する」という表現に弱められました。

しかし、外交筋によりますと、この修正草案に対してもロシアはなお反発しているうえ、ウクライナやヨーロッパの一部の国は表現が弱められたことに逆に不満を示していて、会期が残り一日となっても対立が続いています。

「核の先制不使用」の文言は

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻で核の脅威が高まる中、核兵器が使用されるリスクを減らす措置の一つとして、核保有国が核攻撃への反撃を除いて核兵器を使わない「核の先制不使用」の方針が「最終文書」に盛り込まれるかどうかが注目されていました。

国連のグテーレス事務総長もさまざまな機会で「先制不使用」について言及してきました。

再検討会議が終盤を迎えた今月22日には、国連安全保障理事会の会合で「核保有国は『核の先制不使用』を約束しなければならない。核の非保有国に対して、核兵器の使用や威嚇をしないと保証し、核の透明性を確保しなければならない」と訴えました。

再検討会議の議長が示した当初の草案には、核保有国に対して「先制不使用」の政策をとるよう求める内容が盛り込まれました。

これに対して、核保有国などが核抑止力が弱まることに懸念を表明したということです。

その結果、修正草案では、「核の先制不使用」の文言は削除されました。

一方、核兵器の非保有国からは、核兵器が使用されるリスクを減らす措置とともに、NPTが本来目指してきた核軍縮への取り組みが不十分だという指摘もあがっています。

先週の段階でオーストリアの代表は「核軍縮の進展が急務であるにもかかわらず、草案には明確な危機感も示されず、具体的な約束もスケジュールも目標も定められていない」と、強い不満を示しています。

専門家「核軍縮に向けた取り組みの議論不十分」

世界の核軍縮などに取り組む国際NGOのアリソン・ピットラックさんは、世界の核軍縮について研究し、今回のNPTの再検討会議も欠かさず傍聴してきました。

ピットラックさんは、核兵器が使用されるリスクを低減する措置について「これまでずっと議論されてきたテーマだが、ロシアのウクライナへの軍事侵攻をきっかけに喫緊の課題となった」と指摘します。

そのうえで再検討会議がザポリージャ原子力発電所をめぐる議論に追われていることについて、「各国の代表らがここにいる間にもザポリージャ原発などウクライナの状況は悪化していて、それが会議を緊迫させている。会議の議論は、核のリスク軽減への道筋や核軍縮に向けたステップを示す方向に進んでいない」と述べ、本来の核軍縮に向けた取り組みについて十分な議論が行われていないと、懸念を示しました。