ウクライナ原発 IAEA事務局長 現地入りの意向 事故回避なるか

ウクライナの原子力発電所で砲撃が相次ぐ中、IAEA=国際原子力機関のグロッシ事務局長は、近く現地入りする意向を示しています。一方、原発はロシア軍が掌握し、敷地内に部隊を増強させているとも指摘されていて、IAEAの調査によって大規模な事故の回避につなげられるかが焦点となっています。

ウクライナ南東部にあり、ヨーロッパ最大級のザポリージャ原子力発電所では砲撃が相次ぎ、25日も、ウクライナの原子力発電公社「エネルゴアトム」が原発付近で発生した火災により原発への送電線が切断されたことを明らかにしました。

ゼレンスキー大統領は「IAEAなどの国際機関は、より迅速に行動すべきだ。ロシア軍が原発にとどまる1分1秒が、世界的な原子力災害のリスクになるからだ」と述べ、ロシアに圧力をかけることを国際社会に呼びかけました。

IAEAのグロッシ事務局長は原発の状況を調査する専門家チームを率いて、数日以内に現地に向かう意向を明らかにしています。

原発はロシア軍が掌握し、敷地内に軍の部隊を増強させているとも指摘されていて、IAEAの調査によって、大規模な事故の回避につなげられるかが焦点となっています。

一方、ロシアのプーチン大統領は25日、ロシア軍の兵士の数を13万7000人増やし、兵士の総数をおよそ115万人にする大統領令に署名しました。

大統領令は来年1月1日に発効するとしています。

これについて、アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は25日、「ロシア軍が、ウクライナ侵攻による人的損失を埋める目的だ」と指摘しています。

そのうえで「近い将来に大規模な戦闘力を生み出す可能性は低い。また、プーチン大統領がすぐに大量動員を命じる可能性が低いことも示している」としていて、ロシア軍が実際にどのように兵力を増やしていくか、課題が残されているという見方を示しています。

また、イギリス国防省は26日、ロシアのショイグ国防相が「ロシア軍の進軍が遅くなっているのは、民間人の犠牲を防ぐためであり意図的にやっている」などと主張したことに対し「誤った主張だ。ロシア軍の攻勢が停滞しているのは、ロシア軍の戦果が乏しく、ウクライナ側の猛烈な抵抗によるものだ。前進が不十分だったため、ロシア軍の少なくとも6人の将校が解任された可能性が高い」と指摘しました。

そして、軍事侵攻から半年となった24日も東部の鉄道の駅などがロシア軍のミサイル攻撃を受け、子ども2人を含む多数の市民が殺害されたことについて「ロシア側が、巻き添え被害を引き起こす意図があることを浮き彫りにしている」として、市民を巻き込む無差別攻撃を意図的に続けていくおそれがあると警告しています。

IAEA グロッシ事務局長「福島の原発事故も冷却システム喪失」

IAEA=国際原子力機関のグロッシ事務局長は、フランスの有力紙「ルモンド」のインタビューに答え、火災による送電線の切断も伝えられているウクライナ南東部のザポリージャ原子力発電所について、東日本大震災での福島第一原子力発電所の事故も引き合いに出し、事態の深刻化に警鐘を鳴らしました。

IAEAのグロッシ事務局長は原発の状況を調査する専門家チームを率いて、数日以内に現地に向かう意向を明らかにしています。

26日に公開されたインタビューで、グロッシ事務局長は「現地では、使用済み核燃料プールを調査し原子炉の冷却に不可欠な電力供給の問題に取り組む。福島の原発事故も冷却システムの喪失によって起きた。事故のシナリオを排除できない」と述べ、東日本大震災での原発事故も引き合いに出し、事態への危機感をあらわにしました。

また「私のねらいは、調査の任務のあと、専門家がザポリージャに永久的にとどまることであり、そうした合意が結べるよう、取り組んでいる」とも述べ、IAEAの専門家をザポリージャ原発に常駐させたい考えも明らかにしました。

原発事故対応 専門家「発電所の内側も外側も不安定な状況」

ウクライナ南東部にあるザポリージャ原子力発電所では砲撃が相次ぎ、25日にはウクライナの原子力発電公社「エネルゴアトム」がザポリージャ原発付近での火災で原発への送電線が切断されたと明らかにするなど、安全性への懸念が高まっています。

この状況について、原子力規制庁の元幹部で、東京電力福島第一原発の事故対応にも携わった、長岡技術科学大学の山形浩史教授は「何らかの原因で原発が停止した場合、外から電気をもらって核燃料の冷却を続ける必要があるが、今回のように送電線が切れると外からはもらえない。非常用発電機があるが、日本でも要求しているのは、最低7日間の燃料で、ザポリージャ原発で復旧までの時間が長期になると発電機の燃料がもつか心配だ」と指摘しました。

また、今後の懸念については「原発の中に入ったロシア軍は原子力の専門家でもないし、発電所勤務の経験もなく、全く知識がない。ストレスを感じて銃を撃つとか上官の指示に従わないなど、突発的な事故が起こらないかがいちばん心配だ。また、原発の外では今後も攻撃によって偶発的に送電線が切れるおそれもあり、発電所の内側も外側も不安定な状況にある」と述べ、原発の安全性に対する懸念の高まりについて説明しました。

そのうえで、IAEA=国際原子力機関が専門家チームの派遣を検討していることについて、「設備や運転員の状況がIAEAを通じて分かるので情報が正確になる。原発を安全に運営するには、物品や燃料の供給、運転員の交代も必要なので、国連の組織であるIAEAができるだけ早く現地に行って状況を確かめて、サポートする方法を交渉で打ち立てていくことが必要だと思う」と指摘しました。