「国葬」何が問題になっているのか 論点を2人の識者に聞く

安倍元総理大臣の「国葬」をめぐっては、学者などの間でさまざまな議論が起きています。
2人の識者に聞くと、大きく4つの論点が浮かび上がりました。

意見を聴いたのは、
▽憲法学者で京都大学大学院法学研究科の曽我部真裕教授と、
▽行政法が専門の成蹊大学法学部、武田真一郎教授です。

1. 法的根拠

1つめは「法的根拠」です。

戦前、「国葬」は1926年に勅令として出された「国葬令」が法的根拠とされていましたが、日本国憲法の施行に伴ってその効力を失いました。

政府は今回の根拠として、「内閣府設置法に、内閣府の所掌事務として国の儀式の事務に関することが明記され、閣議決定を根拠として行うことができる」としています。
これについて曽我部教授は、「国民の権利を制限する場合には法律が必要だが、今回は必ずしも必要ではなく、政府の説明はそこまでおかしくはない。一方、国葬は広く追悼の意を示すことが求められるので、論争がある中で行われるとその意義が失われてしまう。そういう意味では手続きを定めた法律があるほうが望ましい」としています。
一方、武田教授は、「内閣府設置法は役所の基本的な仕事を例示しているだけで、具体的な権限を行使する根拠とは言えない。財務省設置法の国税庁の規定に基づき、国税庁が勝手に税率を変更することができないのと同じだ」と否定的です。

2. 予算決定のプロセス

2つめは、予算決定のプロセスです。

政府は、26日の閣議で今年度予算の予備費からおよそ2億5000万円を支出することを決めましたが、国会の議論を経ずに決めたことについて、さまざまな意見が出ています。
曽我部教授は、「憲法上は予備費を計上したうえで内閣の判断で支出し、事後的に国会の承諾を受けるとなっているため、法的には問題ない」と指摘しています。

武田教授は、「国民の税金が相当使われる。閣議決定で支出を決めてから国会で議論するのは、民主主義の原理から見れば本末転倒だ」としています。

3. 特定の政治家の葬儀を行うべきか

3つめは、特定の政治家の葬儀を行うべきかどうかです。

政府は安倍元総理大臣について「歴代最長の期間、総理大臣の重責を担い、内政・外交で大きな実績を残した」などとしていますが、特定の政治家の葬儀を行うことについて、さまざまな意見が出ています。
曽我部教授は「安倍氏が一国の総理大臣として長年にわたって貢献したと捉えた顕彰はありえる。ただ、顕彰する理由として十分なのか、議論はしないといけない」と指摘しました。

武田教授は「アベノミクスや安全保障関連法への評価が定まっていない段階なので、国葬をすべきかどうか、国会で十分に議論すべきだった」としています。

4. 国民への影響

最後に国民への影響です。

1967年に行われた吉田茂元総理大臣の「国葬」では、学校や会社なども哀悼の意を表すよう協力を求められました。
今回の影響について、曽我部教授は、「ただちに憲法が保障する思想・良心の自由が脅かされるということはないと思う」と指摘しました。

武田教授は、「国葬には政治利用の側面があり、弔意を強制する効果は避けられない」と懸念を示しています。

政府 弔意表明を各府省に求める閣議了解は見送り

今回の「国葬」について政府は、国民に弔意を強制していると誤解が生じるのは避けたいとして、弔旗の掲揚や黙とうなどを各府省に求める閣議了解を見送り、地方自治体や教育委員会などの関係機関にも弔意表明の協力は求めない方針です。