今注目!“海の脱炭素” ブルーカーボン

今注目!“海の脱炭素” ブルーカーボン
ことしの夏も暑い日が続いていますがその原因の1つといわれるのが地球温暖化です。地球規模の大きな問題について世界ではさまざまな対策が取られています。

コンブが地球温暖化を防ぐ!?

中学入試でもこんな問題が出されました。
問題
現在 空気中に存在している二酸化炭素を減らすにはどのような方法が考えられますか。
あなたの考えを述べなさい。

(頌栄女子学院中学校 2010年)
解答例としては山に木を植えて二酸化炭素の吸収量を増やしていくことなどがあげられます。
ただ、森林を増やすのは簡単ではありませんし、燃やすと大気に二酸化炭素が戻ってしまいます。そこで、二酸化炭素の吸収源として近年、期待されているところがあります。

それが・・・「海」。
コンブなどの海藻やマングローブなど海の生態系が二酸化炭素を吸収するのです。こうして吸収された二酸化炭素は“ブルーカーボン”と呼ばれ地球温暖化対策として注目されています。

“ブルーカーボン”なぜいま注目?

この「ブルーカーボン」について教えてくれるのは、海藻類の研究が専門の神戸大学、川井浩史特命教授です。
川井さん
「ノリやコンブといった浅い海にいる海藻や海草のアマモなどは水の中に溶け込んでいる二酸化炭素を吸収して自分の体を作る。このように海の中の生物が光合成をして固定した二酸化炭素を“ブルーカーボン”といいます」
私たちがよく知っている森林などが吸収する二酸化炭素を“グリーンカーボン”と呼ぶのに対し、海の生態系を活用するのが“ブルーカーボン”。大気中の二酸化炭素が、光合成によって海の中の海藻などに吸収され、炭素として蓄えられます。
国土交通省の資料によると、その吸収量は陸上では世界で年間19億トンなのに対し海では年間25億トンにのぼるともいわれています。
川井さん
「実際には陸上と同じかあるいは海のほうが陸上よりたくさん二酸化炭素を固定して貯留しているということがわかってきた。そこで近年、ブルーカーボンというのが非常に大事なものだといわれるようになった」
2019年の国連の会議では、温暖化対策の有効な選択肢としてこのブルーカーボンの取り組みを進めていくことが提唱されました。
COP25議長国 チリ シュミット環境相(当時)
「地球の3分の2は海なのに気象変動の対策に海が組み込まれていない状況を変えなくてはならない」

各地で進む“ブルーカーボン”の取り組み

日本の海岸線は岩場が多く海藻などが生えやすい環境にあるのでブルーカーボンを利用するには非常に有利な状況にあると期待されています。政府が2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにする目標を掲げる中、海の環境を整え二酸化炭素の吸収につなげようという動きが進んでいます。
瀬戸内海の日生湾では地元の高校生たちが漁業者と協力して海草の一種、アマモを育てる活動を30年以上続け、当初の20倍にまで面積を増やすなど成果をあげています。

課題は「磯焼け」減っていく“藻場”

一方で課題もあります。それが「磯焼け」と呼ばれる現象です。海水温の上昇や環境の変化により海藻が育ちにくくなるもので、近年、日本では海藻が生える場所「藻場」の減少を引き起こしています。
川井さん
「日本の周りの海水温はこの数十年で1、2度上がっていて海藻を食べる魚やウニ、貝などの活動がより活発になるので、海藻が食べ尽くされてしまう。海藻が増えてくれないことには二酸化炭素を吸収できず炭素を固定することができない。磯焼けを解消しないことには先に進めない」

「磯焼け」対策で藻場の再生を

避けては通れない「磯焼け」の対策。新たな動きも出始めています。北海道の釧路港でことし3月から始まったのが藻場を再生するための実証実験です。
実験では海中の環境を整え、3年かけてコンブが育ちやすい藻場の条件などを検証することにしています。北海道開発局が行った研究では藻場は二酸化炭素の吸収効果が森林の2.4倍あることが分かったということです。
さらに最新技術で藻場を再生しようという取り組みも始まっています。手がけたのは港湾などの開発を行ってきた大手建設会社です。
7月、コンブの仲間の海藻を大量に培養する新たな技術を開発したと発表しました。
この技術を使えば、これまでと違い、季節を問わず一年中いつでも海藻の苗を作ることができるといいます。
鹿島建設 山木克則 上席研究員
「大きな建設の場合はやはり海の仕事もある。そのときに藻場を壊してしまってはいけない。低炭素社会に向けてなんとか海藻を増やして復活させていきたい」

脱炭素へ海には大きな可能性が

各地で進むブルーカーボンの取り組み。川井さんは、世界で脱炭素の動きが進む中、海にはまだまだ大きな可能性が残されているといいます。
川井さん
「ブルーカーボンについてはこれまでほとんど皆さん理解していないし、興味を持っていないので陸と同じくらい大事だということをまず理解してもらいたい。そこからさらにポジティブに、二酸化炭素をより吸収できる方法を考えていくということが大事だと思う」
このブルーカーボン。今後は藻場が増えることによってそこで吸収される二酸化炭素の量を「炭素クレジット」という形で売買することが想定されるなど、新たな事業や地域活性化にも一役買うと期待されています。四方を海に囲まれた日本で暮らす私たちだからこそこのブルーカーボンの可能性について考えていくことが地球温暖化を防ぐ大きなきっかけにつながるかもしれませんね。
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