普段と違う? 夏休み明け 子どもの異変に気づくには

普段と違う? 夏休み明け 子どもの異変に気づくには
「先生も親も何も分かってない…」
「あーあ、学校行きたくないな」
「生きるのがつらい…」

心やからだの不調を訴えやすい新学期、子どもたちのSOS見逃していませんか?普段と違う様子に親はなんて声をかけたらいいのでしょうか?宿題を忘れた子に先生は…

相談の傾向、学校・行政の取り組み、声かけのポイントを解説します。

夏休みの宿題、提出するときに…

新学期直前の中学校の職員室で、宿題をめぐる先生どうしのやりとりが飛び交いました。

「宿題出さない生徒どうする?」
「昼休み空き教室に集めますか」
「忘れた子は?取りに帰らせる?」

話し合いが続く中、そこに割って入ったのは校長先生でした。

「あすから生徒が登校してきます。1つだけお願いです。宿題を出せない子を責めないで。先生方が怒る気持ちも理解できます。でも、提出する日を約束したら許してあげてほしい。初日は元気に来てくれただけで十分としませんか」

2学期早々、子どもと先生が互いに嫌な気持ちにならないよう配慮のある指示でした。

“責め立てるのは逆効果”

このエピソードを語ってくれたのは、中学校の元教員だという、関東在住の30代の男性“のぶさん”です。これをツイートしたところ、8万件近くの「いいね」がつき、大きな反響を呼びました。
のぶさんのツイートに対して

「こういう先生方がいる学校なら素敵だなあ」
「大人だって休み明け仕事行くの嫌」
「来られただけで100点満点」

などと称賛する声が多く見られました。

一方で「期日を守ることも大事」という意見もありました。のぶさんは、期日までに出した子は褒めて評価するとしても、出せなかった子をあえて追い込む必要はないと考えています。
のぶさん
「宿題を出すだけが目的化してはいけないし、学びにつなげるためにも教員も親御さんも責めたてるのは逆効果です。とくに夏休み明けは学校に行きたくないという子どもも多く、いろいろな事情の子もいます。宿題が理由で学校が苦しくなったら本末転倒です」

この時期ならではの悩みは

この時期、電話やチャットの相談に子どもたちが心に閉じ込めていた声が次々届きます。
「1学期に仲間はずれにされていて学校が始まってそれがまた続いたらどうしよう」

「2学期になっても友達ができないと、遠足や修学旅行などの行事でグループが作れないかもしれない」

「昼夜、逆転しちゃって、学校始まってもいける気がしない。死んじゃったほうがいいかも」

※電話・オンラインチャットに寄せられた声をプライバシーに配慮し再構成
18歳までの子どもたちからの声に耳を傾けているのは、認定NPO法人「チャイルドライン」です。自由に過ごしていた夏休みが終わり、新学期を迎えるこの時期ならではの声があると、チャイルドライン支援センターの高橋弘恵 常務理事は指摘します。
高橋弘恵 常務理事
「夏休みで学校での友人や先生との関係、部活などでの人間関係のストレスが1か月近くないところから、また再開して、そこで、また過ごさなければならないことにストレスが多いと思います」
さらにコロナ禍の影響として、マスクの着用や大声での会話が制限される環境が増えたことから、話しかけることに抵抗を感じる子どもたちの声があるというのです。「自分は(ひとり)ぼっちなんだ」と口にするなど、心にモヤモヤを抱えやすい状況になっているといいます。
高橋弘恵 常務理事
「チャイルドラインのホームページには気持ちを書き込める〈つぶやく〉というページがありますので、そこに書いてみてほしいです。まずはつぶやいてみて、文字にすることで、モヤモヤしていた気持ちが整理されることもあります。1人で抱えると考えがグルグルしてしまい、解決に向かうのが難しくなりやすいので、自分の中の困りごとをいったん自分の中から出してみてください」

学校公式サイトが語り場?

ちょっとしたことで不調を訴える子どもたちのSOSのサインをつかもうと、ユニークな取り組みを始めた学校があります。

「イライラして死にたくなる」
「リストカットで痛みを感じなくなった」
「生きるのがつらくなる…。助けてほしい…」

切実な投稿が並ぶウェブページ。とある中学校の公式ホームページです。
熊本市立帯山中学校では、去年夏からホームページ上に「帯中カタリバ」と名付けた悩み相談の場を開設しました。

ここで生徒たちは「友だちのこと」や「勉強や進路のこと」、「家族に関すること」など7つの項目から自由に選んで、24時間、いつでも好きな時に投稿することができ、悩みに答えるのも同じ中学校の生徒たちです。同じ年ごろの中学生がみずからの経験などをもとに、遠慮のない意見で答えていきます。
<相談>
「同じクラスに好きな子がいるけど話しかけられません」
<回答>
「勇気は一瞬、後悔は一生。ちょっとだけ勇気を出してみましょう。応援しています!」
<相談>
「親が第一志望校を認めてくれず、自分を否定されたようでとても嫌な気持ちです」
<回答>
「僕も同じ立場です。勝手に決められるの嫌ですよね!『自分の人生だから』と頼んでみてはどうでしょう。僕は成功しました」
これらの回答は、SNSに詳しい担当者が目を通してから公開される仕組みになっています。

見えにくくなったSOS

「昔、少年非行が多かった時代は子どもたちのSOSが見えやすかったのですが、今の時代、より見えづらくなっています。本当につらくなったとき声を上げてくれるのか、見落とさずにいられるのか、そうした思いから始めました」

システムをつくった教頭の田中慎一朗さんです。
田中さんは以前は中学校の「生徒指導」を担当。いじめや不登校・非行に関わる子どもたちと向き合い続け、時には生徒と衝突することもあったそうです。

しかし、10年ほど前から子どもたちの表立っては問題行動が目立たなくなる一方、インターネット上でのトラブルが増えていったといいます。SNSをきっかけにして中高生が巻き込まれる性被害の事件、さらには殺人事件も県内では起きました。

子どものホンネはどこに…

田中さんは子どもたちからSNSの仕組みを学び、今の形を思いついたといいます。
田中慎一朗さん
「あるとき、子どもたちに『なんで相談できないの?』って聞いたら『助けてって言いたくても、いつも助けてもらう側だとつらくなってしまう』と言うのです。それならば同じような経験をした子たちが、助ける側にまわれる仕組みが必要なのではないかと考えました」

“気付いてほしい”を可視化する

しかし、子どもどうしでやりとりをしては、SNSでの炎上やいじめにつながったりはしないのでしょうか?

実はこうしたやりとりは、すべて熊本市から全校生徒に配布されている持ち帰り用のタブレット端末から行われ、匿名で投稿されています。その投稿は必ず一度は田中さんが目を通します。
攻撃的だったり個人の特定につながる表現がある場合には、田中さんが表現の一部を修正して公開することで、生徒たちの心理的安全性を確保しているといいます。

そして深刻なケースでは、直接、田中さんが回答を書き込み、実名でやりとりできる別の「ほっと相談」の場を促します。
田中慎一朗さん
「いちばん怖いのは、例えばリストカットしている子がその事実を言えずに苦しんでいることだと思います。やめなさいという前に、まず受け止める場がなければ、どんどん孤立してしまいます。逆に打ち明けることができたことで『やめられました』という子もいました。子どもたちは“すべてを分かってほしい”ではなく、まず“つらい、苦しいに気付いてほしい”と感じているようです」
仕組みを始めて今月で1年。全校生徒950人の帯山中学校で、これまでの相談の投稿はおよそ1200件、回答数も2200件ほどにのぼっています。

実名での相談になったケースでは、担任に伝えるなどして対応にあたっているということです。
田中慎一朗さん
「対面での相談はハードルが高く、子どもがSOSを出さないのは、それまでにSOSを出して失敗しているから。相談したりされたりでの成功経験が必要。自分の感情や本音を吐露できる場所がなかったら、子どもたちは私的で危険性のある場所に行ってしまいます。教員の業務負担も考えつつ、今後もよりよいシステムを作っていきたいです」

学校にいるけど、オンライン授業

学校に行きたがらない子どもたちの中には、教室に居場所がないケースが少なくありません。埼玉県戸田市は、この春から3つの小学校に新たな教室を設けました。「ぱれっとルーム」と名付けられた教室には、毎日、そうした児童などが5人ほど訪れています。
専門のスタッフなどが見守る中、児童からの希望があれば、同じ時間に通常の教室で行われている授業をオンラインで受けることもできます。
戸田市教育委員会 教室政策室主幹兼指導主事 菊地孝徳さん
「学校に行かなくなってしまう子は、学校そのものが嫌なのではなく、なかには本当は行きたいけど教室だけが苦手だというケースもあります。子どもの意思で足を運ぶことができる安心できる場所が、学校内に必要だと考えました」
設置から半年、長期で来られなかった児童がぱれっとルームに足を運ぶようになるなど、少しずつ効果が見え始めていて、戸田市では今後、すべての公立小学校に設置していきたいとしています。

“仮想空間の教室”!?

さらに戸田市は不登校の支援を続けてきた認定NPO法人カタリバと連携し、学校に行けない子どもたち向けに、来月(9月)からオンライン上の“仮想空間の教室”での相談を始めます。
好きなアバターを設定してログインすると、ゲーム画面のようなページが。NPOのスタッフや子どもたちが画面上の教室やリビングルーム、職員室などを行き来して会話をしたり、曜日ごとのプログラムに参加したりできます。

戸田市は、通常の教室とは別に設けられた新たな教室だけでなく、自宅にいながら通うことができる仮想の“教室空間”も作って、子どもたちに選択肢を与えています。
戸田市教育委員会 菊地孝徳さん
今までだったら“嫌だったら行かない”だけだったと思います。選択肢が多ければ多いほど、子どもたちの安心感につながると思ってます。不安を抱えている子にとってみると選択肢があると思えることが大事。頭の中に選択肢が浮かぶように体制を作っていくことが重要だと思っています。
子どもたち一人一人にあまねく支援を目指した取り組みは続いています。

親はどう声をかけたら?【専門家Q&A】

子どもたちのSOSの把握や居場所づくりなどは広がりを見せている中、親は自分の子どもが「学校に行きたくない」と発した場合には、どのように声をかけたらいいのでしょうか?

北海道教育大学大学院・学校臨床心理専攻・齋藤暢一朗准教授にヒントを聞きました。

≪以下、齋藤准教授の話です≫

Q「学校行きたくない」 どう声かけたら?

子どもが学校に行かなくなるっていう状態になると、当然ですけれども親は不安になります。そのとき、ついつい正論であったりとか、時に叱ってしまうことが多くなります。

一方、子ども自身は、朝になると体が思うように動かなくなったり、おなかや頭が痛くなったりという症状になることもありますが、「具体的に何が嫌なのか」となると自分でも説明できないことが多いのです。

嫌な気持ちをことばで表現できるようになることが大切なのですが、そのためには、そうした気持ちを受け止めてもらうことが必要になります。

「(学校に)行きたくない」という気持ちをいったん、受け止めて「確かにこういう時って嫌だよね」とか「どうしてそんなに行きたくないのか、もう少しゆっくり考えて、わかったら聞かせてね」というくらいの余裕を持って声をかけられるといいかなと思います。

Q親もあせらず落ち着くことが必要?

不安になると、どうしても相手を責めたりとか、相手を動かして元に戻そうとしてしまうので、まず親も気持ちに余裕を持って、親自身も身近に相談できる場所を作っていただきたいと思います。

学校の先生やスクールカウンセラーに相談したり、最近では不登校をはじめ、若者の支援をしているNPOなどが多くあるので、身近な民間機関やNPOなども活用していただけるといいと思います。

Q子どものサインに気づくには?

何か嫌なことがあるといっても「かくかくしかじかで嫌なんだ」となかなか言えないと思います。

「あなたのことを見守っているよ」という事とともに、否定や批判をしないことが、子どもが安心して自分の気持ちや考えを伝えるために必要なことなので、自由に話せる関係を大事にしていただければと思います。
朝から夕方までずっと登校することが難しければ、放課後、少しの時間だけ行って、担任の先生や関係の先生と話してみるということから、少しずつ学校、新学期に慣れていくことを始めるのも1つの選択肢になりますね。

Q新型コロナで環境が変わる中、親が気をつけることは?

コロナの前までは、友人関係は言ってしまえば、不要不急のとりとめのないむだ話で成立していた関係かなと思います。そういった関係の中でですと、例えばちょっとした行き違いがあったとしても、何となくそうした気まずさとかも解消していくことができました。

一方で、今の状況は、そうしたコミュニケーションの冗長性がなくなってしまい、ちょっとした行き違いで、一瞬で友人関係が途切れてしまうリスクも起きています。大人は、子どもたちの世界観を想像して、彼らの声に耳を傾けていくことが大切ではないかと思います。

【相談先一覧】

何かモヤモヤするな…と思ったときに利用できる相談先を最後にご紹介します。
★チャットやLINEで相談★
《NPO法人あなたのいばしょ》
24時間、無料で365日、匿名でチャットで相談が可能。
《認定NPO法人「D×P」の「ユキサキチャット」》
LINEで相談が可能。平日午前10時から午後7時。相談は、13歳から19歳までの進路や就職。25歳までの若者の生活について。
《チャイルドライン》。
オンラインチャット午後4時から午後9時まで。

(1)木・金・土曜日は毎週。
(2)水曜日は第1と第3のみ。
※9月4日までは「全国キャンペーン」として、毎日午後4時から午後9時まで相談受け付け。

★以下は電話相談★
フリーダイヤル0120-99-7777
午後4時から午後9時まで、携帯電話からも無料です。
《日本いのちの電話連盟》
0120-783-556
午後4時から午後9時まで。毎月10日は午前8時から翌11日午前8時まで。
※無料。IP電話からの利用はできません。
《24時間子供SOSダイヤル》
0120-0-78310 ※無料
《子どもの人権110番》
0120-007-110
月曜日から金曜日の午前8時半から午後5時15分。
※8月26日から9月1日までは「強化週間」として、
平日は午前8時半から午後7時、土日は午前10時から午後5時まで相談受け付け。
(ネットワーク報道部 杉本宙矢 清水阿喜子 今井桃代 おはよう日本 山内沙紀)