新型コロナ「全数把握」見直しめぐる動き

新型コロナの感染者の「全数把握」をめぐって、全国知事会は早急に見直しを進め、地域の状況に応じて届け出の対象を柔軟に設定する仕組みの導入などを政府に求める緊急提言をまとめました。

政府や医療界の反応、それに医療現場の現状の受け止めです。

日本医師会 松本会長「全数把握の運用の見直し 早急に検討を」

日本医師会の松本会長は記者会見で、「加藤厚生労働大臣には、先週、高齢者や基礎疾患のある重症化リスクの高い人を把握しながら、さらに作業が効率化できる仕組みづくりを要望した。医療現場はひっ迫し、ある種の悲鳴が聞こえてくる。政府には、全数把握の運用の見直しを早急に検討してほしい」と述べました。

また釜萢常任理事は政府が重症化リスクの高い人に限定して、症状などの詳しい報告を求める方向で調整を進めていることについて、「仮に、若年で症状が重くない人などの詳しい情報を登録しなくてもよくなれば、医療機関の負担はかなり軽減する。ただ、今の全数把握をやめた場合には、感染状況をしっかりと把握できる新たな取り組みをしなければならない」と述べました。

加藤厚生労働相「全数把握の機能維持しながらやり方模索」

加藤厚生労働大臣は東京都内の視察先で「全数把握は、感染状況の把握とハイリスクの方を含めた感染者の健康管理を行うという2つの機能がある。この機能を維持しながら、発熱外来や保健所の事務負担の軽減という、現場からの要望に応えていくやり方を模索している。スピード感を持って進めていきたい」と述べました。

公明 山口代表「国民にわかりやすい方向性 早く打ち出して」

公明党の山口代表は、記者会見で「全数把握の負担によって、医療現場が疲弊し、患者の重症化を防ぐところに集中しきれないというゆがみを生じさせている。全数把握の持つ機能をどう評価し、緩和した場合にどこが損なわれ何を持って補うかといったことを、専門家の見地からよく議論し、国民にわかりやすい方向性を早く打ち出していただきたい」と述べました。

神奈川 黒岩知事 人数だけ把握の方法に変更したいと厚労相に伝達

神奈川県の黒岩知事は、23日午前に加藤厚生労働大臣とオンラインで会談したあと、記者団の取材に応じました。

それによりますと、黒岩知事は、神奈川県としては、全数把握の見直しに先駆けて、感染者全員に対する症状などの確認をやめて人数だけを把握する方法に変更したいと伝えたということです。

一方、県は今月から、軽症や無症状の人は健康観察の対象外としていますが、高齢者や基礎疾患がある人など、重症化リスクが高い人についても、具合が悪くなった場合は自分から医療機関や相談窓口に連絡してもらう体制に切り替えたいとしています。
黒岩知事は「神奈川県としては、具合が悪くなったら自分で連絡してもらうような形に変えて、一般の医療に近づける出口戦略を進めたい」と話していました。

現場の医師も「全数把握 負担大きい」

新型コロナの感染が過去最多のペースで推移する中、現場の医師は感染者の「全数把握」が行われている状況では負担が大きいと指摘しています。

発熱外来を設ける高松市の「牛山クリニック」はドライブスルー形式で抗原検査を行っています。

週明けの22日は、午前8時半の開院直後から次々と患者が車で訪れ、午前9時に検査が始まると、看護師が抗原検査を行うため、車とクリニックを何度も行き来していました。
また、クリニックの受け付けには、発熱した患者や検査を希望する人などから絶え間なく電話がかかり、スタッフが対応に追われていました。

クリニックの牛山貴文理事長は「第6波のときより明らかに患者は増えていて、検査したら片っ端から陽性になるという状態だ。オミクロン株の感染力の強さを実感している」と話していました。

こうした中、さらに、負担となっているのが「全数把握」への対応です。

クリニックによりますと、発熱外来では、1日におよそ70人の患者の予約を受け付けていて、およそ8割の患者が検査で陽性が確認されるということです。

現状では、感染者の「全数把握」が行われているため、牛山理事長は、診療後、「HER-SYS」と呼ばれる国のシステムに、陽性の患者の情報を登録しています。

1人当たり3分はかかるため作業には2時間以上を要するということで帰宅は深夜になることもあるということです。
国が「全数把握」を見直して「定点把握」とすることも検討していることについて、牛山理事長は、「全数把握は医療機関にとっては負担が大きく疲弊しています。全数把握をしなくなると課題も出てくると思うので難しさもあるだろうが、入力する情報のうち本当に要るのかという項目もあり、むだを削ってもらったらもう少し楽になると思う」と話していました。