異例の事態 レンタカー争奪戦!?浮き彫りになった沖縄の弱点

異例の事態 レンタカー争奪戦!?浮き彫りになった沖縄の弱点
国内旅行先の人気ナンバー1の沖縄。この夏、深刻なレンタカー不足に直面しました。

なぜ、レンタカーの数が30%以上も減ってしまったのか?
レンタカーの次に不足するものとは?

異例の事態となった争奪戦、そして浮き彫りとなった沖縄の弱点とは何か、取材しました。
(NHK沖縄放送局記者 小手森千紗)

押し寄せる観光客の波も…「レンタカーで苦労した」

国による行動制限がない3年ぶりの夏。

先月下旬、那覇空港の到着ロビーには、スーツケース片手に歩く人の姿が途切れませんでした。
こんな光景を見るのは、いったい、いつ以来でしょうか。沖縄には確実に観光客が戻ってきました。

その観光客たちが、みな口をそろえて語ったのが、「レンタカーで苦労した」という話です。
「レンタカー会社5社ぐらいに電話しましたがどこも空きがなく、なんとかネットで予約が取れて滑り込みセーフです」

「どこのサイトを探してもレンタカーの予約は全くできませんでした。空いていたのは2人乗りのスポーツカーで10万円とかめちゃくちゃ高い値段」
この夏、国内有数のリゾート地・沖縄を訪れた観光客の間では“レンタカー争奪戦”が起きていました。大手から中小まで多数のレンタカー業者がありますが、那覇空港の案内所をのぞくとどこも「満車」の表示となっていました。

レンタカー争奪戦、満車状態は1か月近くも続いた

“レンタカー争奪戦”はどれくらい続いたのか。

沖縄県内に8店舗を構えるレンタカー会社によると、夏休み前の7月半ばごろから需要が高まって、8月上旬まではほとんど空車がなく常に満車状態でした。

それでも1台でも空きがないかと観光客からの電話はひっきりなしで1日に100件も。このような状況が1か月近くも続きました。

その後は、新型コロナの感染拡大の影響か、いくぶんか、キャンセルが出るようになったそうです。

コロナ禍で30%以上減少 減らしたレンタカーは簡単に増やせない

なぜ、争奪戦となったのでしょうか。

その原因はレンタカー不足。新型コロナの影響による台数の削減です。

コロナ禍前には2万2000台あった沖縄県内のレンタカーは、一時、1万5000台にまで減少しました。2年間で30%以上も減ってしまったのです。
業者にとって、レンタカーは保有しているだけでも整備費用や保険料などのコストがかかります。国の緊急事態宣言などで観光客数が激減したことを受けて、各社はコスト削減のために次々と車を手放しました。

その後、ことし3月にまん延防止等重点措置が解除されると観光需要は回復傾向に転じました。

しかし、この回復基調にレンタカー業者は対応できませんでした。その事情について、沖縄県レンタカー協会の白石武博会長は次のように話します。
白石会長
「中小・大手事業者ともに共通して直面する課題が、サプライチェーンへの打撃による自動車の生産減です。新車の納期は8か月ほどと言われていて、中古車の価格も高騰しています。さらに中小に関しては、増車にあてる資金を得るためのクレジット(信用)がない。一時的な資金繰りのための国の融資政策はありますが、銀行は、財務状況が真っ赤になっている中小に、事業拡大のための融資はできません」

「一方で、資金力がある大手は人手不足に直面しています。感染対策が長引いたことで『先が見通せない』と業界から人材が流出しました。営業所や駐車場を縮小した企業もあります。いざ車を発注できるとなっても、受け入れるだけの人的なキャパシティがないのです」
観光業界に長年、携わってきた白石会長は、移動手段が確保できないことは観光の質の低下につながると危機感をあらわにしました。
白石会長
「レンタカーはいわば沖縄の個人旅行の『インフラ』です。約60%の個人旅行客がレンタカーで移動するというデータもあります。レンタカーが確保できないことが、観光のボトルネックになってしまっているのです」

浮き彫りにした観光地・沖縄の弱点

レンタカー不足が改めて浮き彫りにした観光地・沖縄の弱点が、公共交通です。

そもそも、沖縄県の公共交通は観光客にとって不便と言わざるをえません。全国で唯一鉄軌道がなく、モノレールが走るのは那覇市とその隣の浦添市のみ。交通渋滞もあり、路線バスはお世辞にも定時運行とは言えない状況です。

さらに路線バスは地域住民が通勤・通学や買い物などに利用する生活路線なので、観光地などはまわるルートにはなっていないためレンタカーがないと「隠れ家ビーチ」も「絶景スポット」もとたんにアクセス困難になってしまいます。

観光の危機がもたらした副産物 課題に向き合う動き

今回のレンタカー不足の副産物とも言えそうなのが、こうした長年の課題に向き合おうという動きが出てきたことです。
那覇空港から直接、リゾートエリアまで行くことができたり、リゾートエリアを周遊したりするバスの運行が各地で相次いで始まりました。

例えば、「沖縄美ら海水族館」のある本部町は、観光スポットやホテルをめぐる周遊バスを町の予算で独自に導入しました。

運行ダイヤは那覇からの高速バスや高速船の到着時間に合わせ、既存の公共交通との接続の利便性も高めました。
さらに周遊バスを降りたあとの「2次交通」の確保にも取り組んでいます。レンタサイクルや電動キックボードの貸し出しも始めたのです。

地元の観光協会の会長は、レンタカーがなくても、観光を楽しむことができるしくみづくりが大切だと話します。
本部町観光協会 當山清博会長
「『レンタカーがないから、本部町のような遠いところまでいけない』という観光客に、『そうであれば、空港からはバスが走っています』と。そのバスで来てもらって、無料の周遊バスを利用していただいて、本部を楽しんでいただきたい。反響は非常にいいですね」

広がるカーシェアサービス 利用申し込み8.5倍に

レンタカー不足で新たな動きも広がっています。

レンタカーが借りられない人たちの間で広がりを見せているのが、個人が所有する車のカーシェアサービスです。
自家用車をシェアしたい人は、いつ、どのような車をシェアできるかをサービスに登録。利用者は都道府県名などで場所を選択すると、利用することのできる車の一覧が表示されます。

利用したい期間など、条件のあう車が見つかれば、車のオーナーと連絡をとり、車を利用することができます。

維持費として1日1万円程度をオーナーに支払います。
那覇市に住む金城昌之さん(41)は所有しているオープンカーを、1日9800円で利用者にシェアしています。

5年ほど前から車のオーナーとして登録していますが、この夏、観光客などからの申し込みが急増したそうです。
金城昌之さん
「ことし6月末からの問い合わせの増え方はものすごい。僕としては何が起こってるんだって感じです。僕の車はオープンカーなので、『オープンカーに乗りたかったです』ってすごく喜んでくれます。それだけじゃなくて、この時期にこの値段で車が利用できたっていうことで、いままでよりもドライバーの反応がよくて、やっててよかったです」
サービスを運営する企業によると、金城さんのような沖縄県の自家用車オーナーが7月に受け取った金額は平均で11万7000円。

7月の利用申し込み数は去年の同じ時期と比べても8.5倍となり、全国1の伸び率になっているといいます。

傷ついた観光インフラを戻せるか

交通アクセスの向上から、新たなビジネスの広がりまで、幅広く波及した沖縄のレンタカー問題。

前述のレンタカー協会の白石会長は、今回のレンタカー不足を、ポストコロナの沖縄の観光の根幹に関わる問題として捉えるべきだと指摘します。

そして、観光業界は引き続き、困難に直面するとの予測を示しました。
沖縄県レンタカー協会 白石武博会長
「われわれと同じく打撃を受けているのが観光バス業界です。10月、11月になって修学旅行などの団体旅行客が戻ってきたときに、インタビューを受けているのは私ではなくバス会社の代表になるでしょう。バスガイドやドライバーなど流出したソフトパワーは車のように買って増やすことはできないです。だから今回のレンタカー不足も、レンタカーだけの問題だけ捉えるんじゃなくて観光インフラ問題として捉えてほしいです」
観光需要は確実に回復しつつあります。

そのとき、コロナ禍で傷ついた観光インフラが回復の足かせにならないよう、自治体や観光業界では試行錯誤が続くことになりそうです。
沖縄局記者
小手森 千紗
2017年入局
岐阜局を経て2020年から現所属