ビジネス特集

外国人観光客 なぜ来ない?

ことし6月、新型コロナをめぐる日本の水際対策の方針が大きく変わりました。およそ2年ぶりに、外国人の観光目的の入国が再開されたのです。でも、いまだに観光地で外国人を見かけることは、ほとんどありません。外国人の観光客がいっこうに増えないのは、いったいなぜなんでしょうか?(経済部記者 樽野章 三好朋花)

「ようやく来ることができました!」

8月3日、21人のイタリア人観光客が、東京 原宿を訪れました。12日間の日程で東京や京都を観光する予定で、大手旅行会社が手配したツアーで来日しました。
この日は明治神宮や原宿の竹下通りを散策しました。

ツアー中、最も気を遣っていたのが感染対策です。イタリアでは、最近は街なかでもマスクを外す人が多いということですが、一行は添乗員の指示に従い、全員がマスクを着用。

大きな声で会話をするのも控えていました。
参加者
「イタリアでは公共交通機関に乗る時以外はマスクを着けないので、マスクを着けるのは久しぶりですが、他の国を訪れるときはすすんで着けるようにしています」
時間管理も厳格です。朝から晩まで添乗員が同行し、スケジュール通りの団体行動が求められます。

竹下通りでも添乗員が、自由に散策できる時間はおよそ1時間30分に限られていることを説明。参加者らは、決められた時間内で観光を楽しんでいました。
日本旅行 訪日旅行営業部 平野あやかさん
日本旅行 平野さん
「団体旅行をお迎えするのはおよそ2年ぶりで『ようやくだな』という思いです。国のガイドラインに従って当面は、おおおね20人単位で観光を楽しんでもらう形が多いと思います。感染者が出てしまった場合に備えて、検査や治療を受ける手順をあらかじめ決めるなど、慎重に準備をしてお出迎えをできるようにしていきます」

コロナ前の300分の1 外国人観光客なぜ来ない?

外国人観光客の受け入れ再開から2か月。実は、イタリア人の団体客のように日本を訪れる観光客は、コロナ前に比べるとごくわずかにとどまっています。
コロナ前・2019年の観光目的の入国者数は約2800万人を超えて過去最高でした。一日当たり約7万7000人が訪れていた計算です。

ところが、7月に観光目的で入国した人は7903人。一日当たりでは250人余りと、コロナ前の300分の1にとどまっています。

世界でも厳しい?! 入国めぐる日本の規制とは

なぜ、こんな水準にとどまっているのか。その理由の1つが「ビザ」です。
観光目的の入国の対象は感染リスクが最も低いとされるアメリカや韓国、中国など102の国と地域に限られているうえ(8/18時点)、コロナ前は観光ビザが不要だった国・地域も含めて、現在はすべての国の入国者がビザを取得しなければなりません。

イタリアからの入国者も以前は観光ビザは不要でしたが、先ほど紹介したツアー客も全員ビザを取っています。コロナ禍でのルールとは言え、その点では不満もあるようです。
20代の参加者
「他の国と比べると日本に来るための手続きは大変でした。ビザの必要がなくなれば、もっと簡単に日本に来ることができるし、観光客も増えると思います」
訪日にはビザ以外にもさまざまな制限があります。
日本入国をめぐる規制

・出国前72時間以内のコロナ検査での陰性証明。

・旅行スタイルも添乗員付きのツアーに限定。個人旅行は認めず。

・受け入れ上限は、観光以外の目的も含めて1日2万人まで。(※G7=主要7か国のなかで上限を決めているのは日本のみ)

訪日断念、他国に切り替えるケースも

取材を進めると、こうした厳しい制限を知って“訪日を断念するケース”も多いことが分かってきました。

アメリカで日本旅行を手配する会社には、この2か月、日本に複数回の旅行の経験がある“リピーター”を中心に数十件の問い合わせが入っています。

ところが、ビザ取得が必要なことや、添乗員付きの旅行に制限されていることなどを説明すると、行き先をヨーロッパや中南米などに切り替えるケースが大半だというのです。
NTAアメリカ サンフランシスコ・ベイ支店 奥裕子 支店長
奥裕子 支店長
「特に欧米では、個人旅行を好む人が多く、団体旅行と聞くとためらう声が聞かれます。円安が進んでいて、日本に行くのは良いチャンスだと思っている人は多いので、感染対策を進めながらも規制を緩和したり、ビザの取得手続きを簡素化したりするなど工夫することが大切だと思います」

“観光の競争力は高い”という結果も

このまま、日本は敬遠され続けるのではないか…。

そんな不安も感じてしまいますが、一方で「日本の人気は根強い」というデータもあります。
こちらは、ダボス会議の主催団体として知られる「世界経済フォーラム」が2年に1度行っている調査です。

各国の観光資源や交通インフラ、それに治安などを比較し、観光産業の競争力をランク付けしています。

ことし5月に発表された最新の調査結果で日本は初めて1位となりました。

観光客受け入れ 国民の理解を得ながら

専門家は、日本の観光の競争力が高いからこそ、観光受け入れの拡大は“時間をかけて行うべきだ”と指摘します。
日本総合研究所 高坂晶子 主任研究員
高坂晶子 主任研究員
「インバウンド(=外国人観光客による消費)は日本経済、特に地方にとって重要な活動のため、円滑に再開することは大変重要だ。しかし、あまり急ぎすぎると、地方の観光地などでは雇用や感染対策など、受け入れ側の準備が十分に整っていないところもあるので、あつれきが生じるおそれもある。国民が支持をして、歓迎するような観光でなければ長続きしない。外国人観光客を喜んで迎えられるような環境をいかに早く達成するかが政府に求められる」
地方の観光業にとってインバウンドは重要な柱の1つ。一方で、コロナの影響が長期化して観光業の従業員が減り、十分に受け入れ体制が整っていない面もあります。

また、感染が再び拡大する中、マスクの着用など日本の習慣に不慣れな外国人が訪れることを懸念する声があるのも事実です。

足元ではコロナ前と比べて大幅に円安が進み「より安く」日本を訪れることができる状況になってはいますが、長い目で見れば、ここで拙速に受け入れを拡大するよりも、地域の理解を得ながら慎重に進めていく必要性があるという指摘です。

“日本ファン” 再び日本に

「イタリアでもドラゴンボールや、ポケモンといった日本のアニメをよく見ていて、小さい時から日本に来るのが夢でした。日本に来ることができたのはすばらしい経験で、とても嬉しいです」
取材したイタリア人ツアー客のことばです。ビザ取得や、管理された団体旅行への不満もあるとは思いますが、それでも、日本にやってこられた喜びを語る彼らのことばからも、世界での日本人気の高さを感じることができました。

一方で、今回のツアー客のような外国人観光客はほんの一握り。

諦めてしまう「日本ファン」の外国人をどう引き留め、水際対策が緩和された時に再び日本を選んでもらうのか…。

コロナ前のように、インバウンド消費を受け入れる本格的な準備を進める時期にさしかかっているのだと感じました。
経済部記者
樽野 章
2012年入局
札幌局、福島局を経て現所属
現在、国土交通省を担当
経済部記者
三好朋花
2017年入局
初任地の名古屋局からこの夏に経済部へ
国土交通省を担当

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