物価上昇に賃金の伸びが追いつかない…家庭も 企業も 悩み深き

物価が上がり続けています。
その一方で、賃金の伸びが追いついていません。

こうした事態に、家計を見直そうと相談窓口を訪ねる人が急増。
企業側もコストの上昇分を、簡単には価格に転嫁できないようで苦悩しています。

専門家は秋ごろには物価の上昇率はさらに高くなるとみていて、家計への負担はいっそう大きくなりそうです。

家庭で消費 モノ サービスの値動きが…

家庭で消費するモノやサービスの値動きをみる消費者物価指数。
7月は、天候による変動が大きい生鮮食品を除いた指数が、去年の同じ月を2.4%上回りました。
政府・日銀が目標としてきた2%を超えるのは4か月連続で、消費税率引き上げの影響を除けば13年11か月ぶりの水準です。

悩んだ末に…10%の値上げ 「ラムネ」の会社

炭酸飲料のラムネなどの製造・販売を行う静岡県にある会社は、従業員50人余りで生産コストなどが大幅に増えています。
原材料にあたる液糖はトウモロコシで作られていて、世界的な需要の増加を受けて仕入れ価格は去年と比べておよそ30%上昇しています。
また、炭酸飲料を生産するために必要な電気代や重油代も上がっていることから、会社ではことし4月からおよそ60種類の商品の価格を10%値上げしました。
ところが取引先の量販店や問屋などから「値上げするのであればほかの会社の商品に変える」などといった反発の声が寄せられ、従業員がその対応を追われたといいます。
さらに、なんとか値上げしたあとも、ロシアによるウクライナ侵攻や円安の影響で仕入れ先から原材料価格を再度値上げする連絡があったということです。
価格への転嫁ができなければ経営が圧迫されますが、会社では取引先から理解が得られるのかや、値上げの時期や金額について悩んでいるといいます。

会社では価格競争に巻き込まれない商品開発や販路拡大に力を入れていて土産物店に向けてご当地の特産品などを使ったサイダーを生産しているほか、円安を背景に、アメリカやヨーロッパなどに、日本の伝統的な飲み物であるラムネを輸出して、売り上げを伸ばそうとしています。

「木村飲料」の木村寿之専務は「中小企業は創意工夫をしないと生き残れない。価格転嫁ができずに利益が出にくい状況を続けるのではなくて適正な利益を出して、従業員の給料を上げていければと思っている」と話していました。

価格上昇の主要因は「エネルギー」秋にはさらに…

物価上昇の主な要因は、エネルギー価格の上昇で「エネルギー」全体では去年の同じ月と比べて16.2%増加しています。
個別にみると
▽電気代が19.6%▽ガス代が18.8%それぞれ上昇。

食料品の価格も上がっていて「生鮮食品を除く食料」は、3.7%の上昇となりました。
具体的には、
▽「食用油」が40.3%▽「調理カレー」が15%▽「食パン」が12.6%それぞれ上昇。

民間の信用調査会社「帝国データバンク」は国内の主な食品メーカーや飲料メーカー105社を対象に調査を行い、7月末時点での各社の値上げの動きをまとめました。
それによりますと、ことし10月に値上げする予定があるとした食品や飲料は6305品目となっています。
これは8月と比較するとおよそ2.5倍になっています。
調査会社によると、値上げの幅も拡大していて、物価上昇による家計への負担はさらに増えると見込まれています。

「ワークマン」過去の苦い経験から“値上げせず”

こうした中、「値上げをしない」選択をした企業があります。
カジュアルウエアや作業着などを展開する「ワークマン」は物価の上昇が進んできたことし2月「商品の値上げはしない」とあえてリリースを出しました。低価格であることに魅力を感じている客に安心して買い物をしてもらいたいと考えたためです。
しかしその後、半年がたっても円安や原材料価格の高騰はおさまらず、来年3月期の決算は13年ぶりに減益の見通しとなるなど経営環境は厳しさを増しています。
このため、定期的に会議を開き商品の価格について話し合っていますが、簡単には値上げできないといいます。
それは過去の苦い経験があるからです。

会社は2014年から15年にかけて、最も安い価格帯の商品を30%ほど値上げしたことがありました。
当時も円安が進んでいたためそれに対応した判断でしたが、値上げした商品の売り上げは70%ほどに落ち込みました。その後、価格は元に戻したものの低迷した売り上げが元に戻るのには2年ほどかかったということです。
こうした教訓も踏まえ、8月開いた会議でも値上げは当面見送ることを決めました。代わりに、商品の素材の見直しによるコスト削減を進めています。
例えば、新商品のキャンプ用の寝袋には、裏地にすでに販売されているフリースの素材を使っています。同じ素材を多く発注することで仕入れ価格を下げることができるということです。さらに、商品のタグをこれまでの半分ほどの大きさにしたり、個別に箱に入れていた靴は、ビニール袋で包んだりと、細かくコストの見直しを行うことにしています。
こうした取り組みで仕入れから販売までのコスト全体のうち、10%から20%程度を抑えることができる計算だということです。
「ワークマン」の土屋哲雄専務は「自分たちの努力でなんとか価格を据え置きたい。価格と機能にこだわる会社なので、困難はあるがそこだけはこだわり抜きたい」と話しています。

15%超の企業 “コスト上昇 価格に転嫁できず”

民間の信用調査会社「帝国データバンク」がことし6月、企業1600社余りに対して仕入れコストの上昇分を販売価格やサービス料金に転嫁できているか尋ねた調査では
▽「多少なりとも価格転嫁できている」と答えた割合が73.3%だった一方で、
▽15.3%が「全くできていない」と答えました。
また「価格転嫁できている」と回答した企業でも、負担が増えたコストのうち、販売価格に転嫁できた割合は平均で44.3%となり、実際に値上げした金額は半分以下にとどまっていることがわかりました。

信用調査会社によりますと、取引先の理解が得られなかったり価格競争の激化による客離れを懸念したりして企業の中には価格転嫁をできずに経営が圧迫されているケースがあるということです。

賃金の伸び “追いつかず” 実質賃金3か月連続↓

物価上昇に対して、賃金の伸びは追いついていません。

厚生労働省の「毎月勤労統計調査」によりますと、働く人1人当たりのことし6月の現金給与総額は速報値で平均45万2695円と、去年の同じ月と比べて2.2%増えました。
ただ、物価の変動を反映させたことし6月の実質賃金は去年の同じ月を0.4%下回り、3か月連続でマイナスとなりました。夏のボーナスが去年と比べて増えたことなどから、マイナス幅はことし5月と比べて小さくなりました。

家計見直しなどの相談急増 去年の2倍近くに

こうした中、家計の見直しや資産運用の相談を受け付ける会社では利用者が増えていて去年の同じ時期と比べて2倍近くに上っています。

この会社では全国に9つの店舗があり、窓口では家計の見直しや、住宅ローンや資産運用についての相談を受け付け、ファイナンシャルプランナーがアドバイスなどを行っています。
会社によりますと物価の上昇が続く中相談人数は増えていて、7月はおよそ900人と去年の同じ時期の2倍近くに増えました。

利用する人からは「増えた光熱費の支払いを抑えるにはどうすればいいか」といった相談や「将来に向けてお金の不安が増えた」などという声が聞かれるということです。
「投資信託相談プラザ」の尾口紘一代表は「物価高の中、少しでもなにかできることがないかと相談を受けるケースが増えている。オンライン相談なども増やしてしっかり対応したい」と話しています。
都内に住む40代の男性は、8月10日に妻と子ども2人の家族4人で相談に訪れました。
男性は自営業で自動車整備の仕事をしていますが、自動車部品の値上がりなどが利用客の減少につながる可能性もあり今後、収入が落ち込むのではないかと懸念しています。
さらに、5歳と4歳の子ども2人の教育費や食費が今後増えると見込まれることなどから、今回、相談したといいます。

担当のアドバイザーから今の物価の状況について講義を受けたあと、家族4人の1か月の支出額を書き出し、支出が多い項目を洗い出しました。
その結果、子ども2人がいる4人家族の平均と比較すると、1か月の支出額が5万円ほど多いことがわかり、固定費を見直すようアドバイスを受けていました。

相談をした増淵直人さん(47)は「子どものためにも貯蓄をしておきたいが、値上げのニュースを見るたび心配になります。支出を抑えることを考えないといけないです」と話していました。妻は「子どものための支出は減らしたくないです。むだなものは買わないようにしていてできるだけ安いスーパーを利用するようにしています」と話しています。

専門家「秋には消費者物価3%近くに」

ニッセイ基礎研究所の久我尚子上席研究員は「物価上昇の主な要因がこれまでのエネルギー価格から、食料品の値上がりに移ってきている。特に食用油やパン・麺類など、日頃、消費者が購入する商品の価格が上昇しているので、家計の負担が増している」と話しています。

そのうえで、今後の見通しについては「企業がまだ価格転嫁しきれていない部分もあるため、今後も消費者物価は上昇し、秋ごろには上昇率は2%台後半、3%に近くなってくるだろう」と分析しています。

消費者物価指数の上昇率に関して欧米との違いについて「欧米は日本をはるかに上回る上昇率だが、賃金もあがっている。日本も企業が付加価値の高い商品を生み出して適切に価格転嫁していき、賃金も上がるという循環をつくっていくことが重要だ」と話しています。

また、物価の上昇で家計への負担が増す中でできることについては「最近は必要なときに必要な量だけ利用できるサブスクリプション型のサービスも充実しているので、これを機会に利用するなど、家計の見直しを進めてほしい」と話しています。