ウクライナの医師らが都内で現地の医療態勢の被害など現状報告

ロシアによる軍事侵攻で学びの場を失ったウクライナの医師や学生らを受け入れている順天堂大学で、現地の医療の現状を伝えるシンポジウムが開かれました。

東京 文京区の順天堂大学は、ロシアによる軍事侵攻で安全に学べなくなったウクライナの医師や医師を目指す学生らを支援しようと、合わせて18人を受け入れています。

現地の医療機関が置かれている過酷な実態を日本の医療関係者にも知ってもらおうと、来日したウクライナの医師らが18日シンポジウムを開き、現地の医師とともに写真や動画で現状を伝えました。

このうちウクライナからオンラインで参加した医師はロシア軍の攻撃によって「これまでに100を超える医療施設が破壊され、18人の医療従事者が死亡し、300人以上が捕虜になっている」と述べ、医療の提供態勢に甚大な被害が出ていると報告しました。

また現在、日本で学んでいるウクライナの医師はロシアに占領された地域の病院や大学は、研修や講義が続行できなくなっているほか、研修の内容も、戦闘や空爆によるけがの治療に重点を置くようになるなど、医学教育にも大きな影響が出ていると訴えました。

シンポジウムを企画した医師のひとり、オレナ・ネステレンコさんは「平和の中で学べることは貴重な贈り物であることを日本の人にも知ってほしい。早くウクライナに戻り、日本で学んだ経験をいかして働きたい」と話していました。

企画したウクライナ人医師「学ぶ機会を与えてくれて感謝」

シンポジウムを企画した医師の1人で、内科医のオレナ・ネステレンコさんは、順天堂大学が医師や研究者などの受け入れをしていることをSNSで知り、ことし6月に来日しました。

大学では、病棟で医師の回診の様子を見学したり、専門医とがんの症例を検討したりしたほか、ウクライナではまだ導入されていない最先端の治療を学んでいます。

ネステレンコさんたちはウクライナの医療機関が置かれている状況を日本の医療従事者に知ってもらうとともに、医療用の物資の供給が滞ったり、輸血用の血液が不足したりといった、非常事態に対応した自分たちの経験が、日本で大規模な災害が起きた際に役立つと考えて、シンポジウムを企画したということです。

日本にいるネステレンコさんのスマートフォンには、ウクライナで防空警報が発表されたことを伝える通知が毎日のように入り、心が休まることはほとんどないといいます。

ネステレンコさんは「今もウクライナのどこかで爆弾が落とされているのではないかと心配しています。日本の皆さんが私たちに学ぶ機会を与えてくれていることに感謝を伝えたいです」と話していました。

ネステレンコさんは今月末にウクライナに帰国し、以前勤めていた病院で日本で学んだ医療技術をいかして患者の治療にあたるということです。