【詳しく】東工大と東京医科歯科大 統合協議へ ねらいや背景は

東京工業大学と東京医科歯科大学の2つの国立大学が、統合に向けた協議を開始することになりました。

2つの大学はいずれも、研究力が国内最高水準だとして国が指定している「指定国立大学」で、10の大学しかない「指定国立大学」どうしの統合は、実現すれば初めてになります。

前例がない、大規模な国立大学の統合構想がなぜ持ち上がったのか。

その背景や今後の展望について、教育担当の能州記者が詳しく解説します。

Q:突然の発表 なぜ統合構想が持ち上がったのか

A:統合に向けた協議の開始は、東京工業大学の益一哉学長と、東京医科歯科大学の田中雄二郎学長の間で議論を重ねたうえの判断だったようです。
2つの大学は統合のメリットについて「それぞれの大学の重点分野・戦略分野を強化することに加え、自然科学の様々な分野を自由な発想で掛け合わせ、新たな学術分野を生み出せる」としています。

2つの大学のねらいは研究力を高めることにあり、それぞれが専門性を磨いてきた理学や工学、それに医療や歯学などの研究領域が組み合わさり、幅広い研究が行われるようになることが考えられます。

関係者への取材では、早ければ2024年にも統合が実現する可能性があるということです。

Q:大学の統合 どんな形があるのか

A:主に2つ、あるようです。

(1)大学と運営法人の両方を統合させ、新たな1つの大学になる

(2)2つの大学は残し、運営する法人のみ統合する

関係者によりますと、今回の統合では、(1)のように新たな名前の大学となることも含めて検討が進められているようです。

(1)の場合、新たな大学が生まれるということで周囲に与えるインパクトが大きく、統合の相乗効果も生まれやすくなると考えられます。

2つの大学のうちの1つに、いわば吸収合併のように統合する方法や、2つの大学を廃止して新たに1つの大学をつくる方法があり、法改正や、大学の設置に関わる国のさまざまな手続きが必要になります。

(2)は、2019年の法改正以降に可能となりました。

「アンブレラ方式」とも呼ばれ、他の大学での実績も複数あります。

どちらの大学も、統合するかどうかも含めて「最終的な決定は今後の両法人における協議に委ねられている」としています。

Q:2つの大学はどんな特徴があるのか

A:どちらも研究力が国内最高水準だとして国から「指定国立大学」の指定を受けています。
東京工業大学は都内や横浜市に3つのキャンパスがあり、大学生や大学院生は合わせて1万人余りです。

現在は、学部と大学院を統一し、理学や工学など6つの「学院」があり、大学生の9割が大学院に進学する国内有数の理工系の大学で、140年余りの歴史があります。

研究成果に対する国際的な評価も高く、体の細胞の中で要らないたんぱく質などを分解して、再びエネルギーとして使う、「オートファジー」という仕組みを解明した大隅良典栄誉教授は、2016年にノーベル医学・生理学賞を受賞しました。
一方、東京医科歯科大学は都内や千葉県市川市国府台にキャンパスがあり、学生数は大学生や大学院生を合わせて3000人余りです。

「東京高等歯科医学校」として1928年に設置されたのが始まりで、こちらも歴史ある大学です。

新型コロナの重症患者を大学病院で受け入れるなど、臨床の現場で中心的な役割を担っているほか、オミクロン株など新たな変異ウイルスの研究でも成果を出しています。

どちらも理系トップクラスの大学というところに今回の大きな特徴があります。

これまでの大学の統合では、少子化が進む中、経営面での課題を改善するために行われるケースが多くありました。

今回は実績十分の大学どうしが一つになるかもしれないということで、関係者の間でも驚きの声が上がっていました。

こうした統合構想の背景には、大学の国際競争力を高めようという、国のプロジェクトが関わっているとみられています。

Q:国のプロジェクトとは

A:国が設立した「大学ファンド」です。

財政投融資などで確保した10兆円規模の資金を運用し、年間3000億円を目標とする運用益を大学の支援に充てるものです。

支援を受けられるのは「国際卓越研究大学」に認定される数校に絞られ、国際的に優れた研究成果を出すことや、年3%の事業規模の成長などが認定の要件とされています。

この「国際卓越研究大学」の公募が、年内に始まるのです。

選ばれれば、年間数百億円の支援を長期間受けることとなり、腰を据えた、質の高い研究をすることが可能になります。

2つの大学は統合構想を進めるとともに、公募を視野に入れて理工学や医学、歯学などの分野で研究力をさらに高めるねらいがあるとみられます。

Q:これまでの大学統合はどのようなものがあったのか

A:国立大学は、国の組織から切り離されて法人化された2004年の前後に統合が加速しました。
2003年には東京商船大学と東京水産大学が統合して東京海洋大学になったほか、2007年には、大阪大学と大阪外国語大学が大阪大学になるなど、2002年から7年までの6年間で29の大学が14の大学に統合されました。

2019年からは1つの法人で複数の大学を運営することが可能となり(アンブレラ方式)、大学は残したまま法人のみ統合するケースも相次いでいます。

2020年には名古屋大学と岐阜大学、2022年春には小樽商科大学と帯広畜産大学、それに北見工業大学の3つの大学、また、奈良女子大学と奈良教育大学がそれぞれ1つの法人に統合されています。

一方、私立大学では2008年に慶應義塾大学が共立薬科大学と合併して慶應義塾大学薬学部を設置し、現在は、東京歯科大学と統合の協議を進めています。

Q:国際的な研究力の低下 日本の大学の現在地は

A:ここ数年は「海外の大学に後れをとっている」という指摘が出ています。
イギリスの専門誌、「タイムズ・ハイヤー・エデュケーション」が研究内容や論文の引用回数などの指標をもとにまとめた世界の大学のランキングでは、
▽東京大学が35位、
▽京都大学が61位と日本からは100位以内の大学は2校にとどまっています。

▽201位から250位までに東北大学、
▽301位から350位までに大阪大学と東京工業大学、
▽501位から600位までに東京医科歯科大学などとなっています。

一方、▽1位は、イギリスのオックスフォード大学で、
▽2位は、アメリカのカリフォルニア工科大学と
▽アメリカのハーバード大学など13位までアメリカとイギリスの大学が占めています。
今月9日に公表された文部科学省の科学技術・学術政策研究所(NISTEP)の調査結果では、他の論文に多く引用され、注目度のより高い論文を示す指標「Top1%補正論文数」で中国が米国を抜いて初めて1位となり、日本は10位で過去最低になりました。

Q:研究力低下はどうして起きているのか

A:筑波大学大学研究センターの金子元久特命教授は次のように話しています。

「理由の1つは、研究費が足りていないことが大きくあり、改善すべき点の1つです。アメリカは政府が研究費の資金を積極的に投じるほか、大学が民間企業などに研究成果を売る仕組みもできていて、大学自体がお金を稼ぐシステムもあります。中国は経済成長し、大学への投資に資金を回しているので、その成果も明確に表れています。アメリカと中国から引き離されて、日本は相対的に低くなっている状況で、予算や投資を増やさないと解決できません。日本で行われる『大学ファンド』は財政投融資によって競争的資金を生み出すという、ある意味、苦肉の策ですが、そこまで追い込まれているのだと思います。また、大学という組織は閉鎖的な部分があり、若い優秀な研究者に良いポストと給料を出すことが難しい状況もあります。海外の研究者とのネットワークを築きにくいことも課題になっています」。

Q:今回の大学構想はこうした状況に一石を投じることはできるのか

A:金子特命教授は、「形として統合すれば何かできる、ということではなく、具体的なプランや何ができるようになるのかということに注目したい」と話していました。

「大学ファンド」を巡っては国内の大学間の競争が予想されますが、今回の統合構想でさらに激しさを増すことも考えられます。

統合構想がどのように具体化し、2つの大学にとってプラスとなるのか、またほかの大学にどのような影響を与えるのか、注視していきたいですね。