花粉症に救世主? “エリート秋田杉”とは

花粉症に救世主? “エリート秋田杉”とは
花粉の飛散量が半分以下…。そんな夢のような杉を秋田県が開発しました。その名も「エリート秋田杉」。調べてみると、「エリート」に至るまでに、合格率わずか0.06%という狭き門をくぐり抜けていたことがわかりました。(秋田放送局記者 黒川明紘)

杉の“エリート”?

こちらが、「エリート秋田杉」の苗木です。
一見すると、どこが「エリート」なのかわかりませんが、通常の秋田杉と比べてみました。
この2つの苗木、同じ時期に植えて同じように育てたにもかかわらず、エリート秋田杉は1.5倍以上も早く成長するということです。

これによって、植林から伐採までの期間を短縮することができます。

また、木を植えたあとに周辺の雑草などを除く「下刈り」も減り、伐採・出荷までの費用が半分になると見込まれるそうです。

脱炭素の“切り札”にも

さらに、成長が早いことで、森林を活用した脱炭素の「切り札」としても期待されています。

開発の中心を担った秋田県林業研究研修センターの佐藤博文さんに聞きました。
佐藤博文さん
「木の二酸化炭素の吸収量は成長速度に比例します。つまり『エリート秋田杉』は二酸化炭素の吸収量も通常の秋田杉の1.5倍以上になります。二酸化炭素の吸収源としての木の重要性が高まっていることもあり、将来的にはカーボンニュートラルに貢献すると考えられます」

花粉飛散量は半分以下

そして、「エリート」たるゆえんは、もう1つあります。

それが花粉症対策です。
「エリート秋田杉」は、花粉を出す雄花が極めて少ないという特徴があることから、なんと花粉の飛散量が従来の半分以下。

花粉症の人にとっては悩ましいスギ花粉が大きく減る可能性を秘めているのです。

“候補生”から“エリート”に

まるで夢のような「エリート秋田杉」ですが、「エリート」と認定されるのは一握りだけです。

開発の舞台裏では、厳しい選抜審査が行われていました。
選抜が始まったのは6年前。

秋田県は、1万6000本の中から大きさや材質の優れた杉を選ぶところから始めました。

この時点で選ばれたのは、わずか47本。

いわば「エリート候補生」です。
ここからさらに2年間かけて選抜審査が行われます。

「エリート候補生」の枝を苗木にしたあと、佐藤さんたちが成長のスピードや花粉を出す雄花のつき具合を厳しくチェックして、「候補生」をふるいにかけていくのです。

最終的に「エリート秋田杉」として合格したのは10本。

1万6000本のうちの0.06%という狭き門です。
佐藤博文さん
「県内18か所にある試験林に何度も足を運び、選抜を繰り返しました。成長が早いだけでなく花粉の飛散量も少ない杉を見つけるのは非常に大変で、選抜をスタートして3年目ぐらいにようやく手応えを感じ始めました。『エリート』として認められた時は、本当に『やった』と思いましたね」

“エリートツリー”国も後押し

「エリート秋田杉」のような特徴を持つ木は、「エリートツリー」と呼ばれ、脱炭素社会の実現に役立つことから、国も後押ししています。

政府は、去年5月に策定した「みどり戦略」の中で、2030年までに林業用の苗木の3割、2050年までに9割以上をエリートツリーにする目標を掲げています。

国内の製紙メーカーの間でも脱炭素を進めようと標準的な品種よりも大気中の二酸化炭素を多く吸収する「エリートツリー」の生産に乗り出す動きが出ています。

花粉の量“100分の1”の品種開発も

秋田県は今後、「エリート秋田杉」が秋田の厳しい冬でも順調に成長できるかどうかなど、さらに検証を進めたうえで、3年後をめどに「エリート秋田杉」の種の販売を始めたいとしています。
佐藤博文さん
「次は、花粉の飛散量が100分の1という『少花粉杉』の開発にも取り組みたいです。秋田のオリジナリティーを、50年先、100年先にも残せるような品種を開発していきたいです」
秋田県全体の面積のうち、3分の1を占める秋田杉。

すべてを「エリート秋田杉」に置き換えるとなれば、多くの時間と費用がかかります。
課題を乗り越えて「エリート秋田杉」は花粉症の人にとって救世主となるのか。

「脱炭素」への貢献は。

さらに「ウッドショック」とも呼ばれる世界的な木材不足で、国産の木材価格も高騰するなか、林業に与える影響も注目されています。
秋田放送局記者
黒川明紘
2009年入局
津局、沖縄局、政治部を経て去年から秋田局
数年前、自分はならないだろうと勝手に思っていた花粉症に、ついになる