コロナ禍の高校野球 球児と吹奏楽部員 結実した3年越しの約束

今月6日に甲子園球場で開幕する夏の全国高校野球。ことしの3年生は、入学当初から新型コロナウイルスによるさまざまな制限のなかで部活動に打ち込んできました。
こうした中、日本文理高校が12回目の夏の甲子園出場を決め、幕を下ろした新潟大会では、3年ぶりにスタンドでの吹奏楽の演奏が認められ、7月9日に行われた開会式でも、選手の入場行進と吹奏楽部による演奏が行われました。
担当したのは人気野球漫画「ドカベン」のモデルとしても知られる新潟明訓高校の吹奏楽部。球場に響き渡った演奏には、感染拡大で一度は諦めかけた、ある吹奏楽部員と球児の約束が込められていました。

野球漫画のモデルにもなった高校の「伝統の音色」

新潟市の郊外にある新潟明訓高校。
野球部は甲子園への出場が春夏合わせて8回の強豪で、人気野球漫画「ドカベン」のモデルになったことでも知られています。
吹奏楽部も県大会上位の常連で全国高校野球新潟大会の開会式の演奏も10年以上前から務めてきました。
毎年スタンドで球児たちの夏の幕開けを彩ってきた、伝統の音色。
この演奏に憧れて新潟明訓の吹奏楽部の門をたたいた部員も少なくありません。

3年生「中学校の時に開会式の演奏をテレビの中継で見て、自分もこの中に入りたいと思いました」
2年生「野球が大好きで、球場で演奏するのが夢でした」
齊藤由莉 部長「開会式の演奏を一度もできないまま卒業するのかと」

球児と吹奏楽部員のとある約束

開会式での演奏にひときわ強い思いを持つ部員がいました。
約束を交わしたその人、3年生の荒木奏洋さんです。
荒木さんの約束の相手は野球部の高橋侑汰さんです。
2人は中学校からの同級生で同じ中学校から新潟明訓へ進学したのは2人だけです。
中学校卒業を控えた3年前、ある約束を交わしていました。

高橋さん
「『新潟大会の開会式で奏洋が演奏して、自分が入場行進したいね』という話をしました。部活は違うけど、同じ舞台に立てるように頑張ろうと」

この約束を果たそうと2人は新潟明訓に入学。
それぞれが夢に向かって進み始めましたが、時を同じくするように国内でも新型コロナウイルスの感染が拡大。約束の舞台は2年続けて実現しませんでした。
荒木さん
「できないのは悲しかったんですけど、だんだん新潟明訓のスイ部(吹奏楽部)に入ってるだけで、すごいことなのかなと思い始めて、もう開会式の演奏はやったことにしようって心の中で諦めてました」

ことしも約束は果たせそうにない…。

諦めかけていた荒木さんのもとに、朗報は突然届きました。
開会式を1か月後に控えた6月、部活後のミーティングでのことでした。

荒木さん
「今後の部活の予定表が配られて、7月の予定のところに『開会式』って書いてあったんです。本当にうれしくて喜びました。やっとできるんだって」

最初で最後の「約束の夏」

3年生でようやく実現することになった2人の約束の舞台。荒木さんは、パードリーダーとしてトランペットを引っ張ります。

課題は慣れない屋外での演奏でどれだけ一つ一つの音を響かせることができるか。自分なりにイメージをふくらませ、卒業生にもアドバイスをもらいながらわずか1か月後に迫った本番へ練習に励みました。

荒木さん
「階段を上る感じで、一歩一歩進む感じで吹けたらいいなと思います。2年間応援できなかった分の思いを込めてゴージャスな演奏をしたいです」
高橋さんも強豪の厳しい競争の中、内野手としてメンバー入りし、約束通り入場行進を歩くことになりました。

高橋さん
「やっと夢をかなえられると思うと、うれしいです。迫力のある演奏に期待していますし、それに恥じないようなプレーをしたいと思っています」

3年越しの約束が実現

迎えた開会式当日。夏の開幕を告げる荒木さんのファンファーレが、スタジアムに響きます。

そして始まった入場行進。吹奏楽部のメロディーに乗って参加全チーム81校71チームが球場で歩みを進めました。その中にはもちろん高橋さんの姿もありました。伝統の音色が高橋さん、そしてすべての球児たちの背中を押します。
高橋さん
「行進しながら吹奏楽部が見えてたんですけど迫力がすごかったです。こういう形で最後の大会を始められたというのは運命なんじゃないかと思います」
荒木さん
「今までで、いちばんいい演奏ができたと思います。気持ちを込めて演奏したので、しっかり届いていたことがうれしいです。もうかなえられないんじゃないかと思ってたので、最後の年で、かなえられてとてもうれしいです」
3年越しにやってきた2人の約束の夏。感染対策のため、吹奏楽による試合の応援は準決勝からでした。新潟明訓の野球部は準々決勝で敗れたため、この夏2人が再び同じ舞台に立つことはありませんでした。

しかし約束のために走り続け、たどりついたこの夏は、2人の心の中で輝き続ける何物にも代えがたい宝物となりました。

取材担当

現所属:スポーツニュース部(7月末まで新潟放送局)
記者 本間祥生
平成27年入局 水戸局→新潟局を経て8月から現所属。
高校までバスケットボールに熱中。

あとがき

ことしの高校3年生は、入学当初から新型コロナウイルスの感染が拡大し、部活動を含めた学校生活は思い描いていたものと異なり、やりたいこともできなかったという生徒も多くいます。
今回の取材で2人を追う中で、ことしの夏にはそんな全国の3年生たちの思いが詰まっているのだと感じました。
私は2年前の夏、同じ新潟明訓の吹奏楽部を取材しました。
この時は感染拡大の影響で中止された開会式での演奏に代わり、吹奏楽部が野球部を招いて開いた演奏会でした。
あれから2年。「ことし3年ぶりに開会式の演奏をする」と聞き、いても立ってもいられず取材を申し込みました。
こうした形で再び吹奏楽部と野球部の絆を取材する機会を得られたことをとてもうれしく思っています。

いまだ新型コロナウイルスの猛威はやみませんが、その中でも生徒たちが自分の力を出し切り、悔いのない夏になることを願ってやみません。