自由研究も読書感想文も…夏休みの宿題どうする!?

自由研究も読書感想文も…夏休みの宿題どうする!?
待ちに待った夏休み。
何をして過ごそうか、どこに遊びに行こうかとわくわくする一方、子どもたちや親たちにとって頭の痛い問題も…。

そう、「夏休みの宿題」です。

夏休みってなんで宿題が出るの?
親の負担、重くない?
「夏休みの宿題」にまつわるあれこれ、取材してみました。

(ネットワーク報道部 記者 松本裕樹 野田麻里子 柳澤あゆみ)

目次

ある母親からの投稿“ちょっと大変すぎる!”

「子どもたちの夏休みの宿題はなぜ“子ども一人で取り組めない”のでしょうか?」。
先日、NHKの情報募集窓口、ニュースポストに大阪府在住の30代の母親から情報が寄せられました。

小学6年生の息子と、夫との3人暮らしだという女性。
毎年、息子の夏休みの宿題の多さに悩まされているといいます。
「1年生から6年間、夏休みの宿題に取り組んできました。ちょっと大変すぎる!と思って」
小学6年生になった息子のことしの夏休みの宿題は多岐にわたっています。
◎算数、国語、英語のプリント
◎なわとびトレーニング
◎夏休み新聞(自分のニュースを新聞にする)
◎読書感想文
◎リコーダーの練習
◎習字
◎自転車コンテスト(こんな自転車ほしい!というデザイン案)
◎平和ポスター
◎自由研究、貯金箱づくり、テーマが決まった絵から1つ
プリントならいつもの宿題と同じなので子ども1人でも進められますが、「やる気を出し(重要)、目あてを選定し、道具や材料を揃え、課題に取り組み、片付ける」とちょっと1人では手に負えないものも。

これらは親がお膳立てし、手助けすることありきで課されているのではないかと感じたといいます。
女性は共働き、1日中息子に付きっきりで宿題を見るのは限界があります。
「1、2年生の時は手伝う必要があるかなと思いましたが、6年生になってまで手伝わないといけないとは思いませんでした。せめて、子ども本人が得意なこと、好きなものに合わせた内容の宿題ならいいなと思います」

えっ、こんなにあるの?

投稿をきっかけに、取材班の子どもたちの夏休みの宿題を調べてみると。

休みに入る前日、わが家の小学生の2人の子どもたちが持ち帰った宿題リストはこちら。

例えば、1年生の娘の宿題。
1.絵日記(1枚)
2.復習ドリル(国語と算数)
3.音読(毎日)
4.足し算と引き算の計算カード(毎日)
5.学校から持ち帰った朝顔の観察
6.読書感想文を夏休み明けに学校で書くためのメモ
7.読書した記録
8.鍵盤ハーモニカの練習
9.自由研究か自由工作
あまりの量に見ていて目がくらくらしてきましたが、ふと裏返すと、何と宿題リストは裏面まで続いていたのです。

4年生になると、レベルはさらに上がります。
復習ドリルは2冊に増え、漢字練習や家庭で防災について話し合う課題も加わりました。

これを1人ですべてをこなすのはちょっと難しそう。
それでも姉は近所のおじいちゃんとおばあちゃんにも手伝ってもらいながら少しずつ取り組んでいます。
一方、1年生の妹。
通っている学童の学習の時間などを使って、ドリルや読書は完了しましたが、毎日家でやることになっている「音読と計算カード」は、記録が7月28日で止まったまま、8月に突入。

「やろうよ」と声をかけても、家に帰ってくると遊びたいことややりたいことがほかにあるので、聞こえていないふり。

見守っていればいいのかもしれませんが、大人のペースで考えてしまったり、もっといいものにしてあげたいとうっかり思ってしまったりして、ついつい口を出してしまうのです。

私たちが小学生だった頃はこんなに宿題ってあったっけ…?みんなはどうしてるんだろう?
悩みとギモンは深まるばかりです。

どれが負担?

夏休みの宿題、親の負担になっているのはどんなものなのでしょうか。

PTAや部活動などの団体活動に必要なスケジュール調整ができるアプリの開発を手がける会社が小学生の子どもを持つ利用者651人に夏休みの宿題について聞いたアンケート結果です。

「夏休みの宿題で最後まで残りがちな宿題は?」という質問に対しては。
読書感想文 43.3%
自由研究 40.1%
夏休みの日記 21.0%
やはり、単に問題を解くタイプの宿題は早めに片付けられるようです。

また「夏休みの宿題で親が手伝う宿題は何ですか」という問いに対する回答は。
自由研究 44.4%
工作 29.6%
読書感想文 29.3%
そして、そもそも直球の質問、「夏休みの宿題は子どもにとって必要だと思いますか」の結果は。
必要だと思う 65.7%
必要だとは思うが内容は変えた方がいいと思う 30.1%
不必要だと思う 4.1%
夏休みの宿題は必要と考える保護者が大多数を占めていました。

いつから始まった?

では、そもそも「夏休みの宿題」じたい、いつから始まったのでしょうか。
文部科学省の担当者に聞いてみました。
文部科学省 教育課程課
「私たちも調べてみたのですが、いつから夏休みの宿題が始まったのかは、はっきり分かりません。さらに言えば、夏休み自体もいつから始まったのかというのは明確にわかっていないんです。今から141年前の1881年、明治14年の小学校教則綱領のなかで『夏季休業日』という言葉が見つかっているので、これが今で言う夏休みにあたるのではないかと考えております」
何と、夏休みの宿題は、いつ、だれが始めたのかはっきりと分からないというのです。
ただ、ものすごく古いことは確かなようです。
こちらは112年前の明治43年の宮崎県の夏休みの宿題。
算数や漢字の書き取りのほか、日記などが書けるようになっていて、今とそれほど変わりはなさそう。
どうやら明治時代の子どもたちも、遊びたい気持ちを抑えて宿題に取り組んでいたようです。

夏休みは「休み」じゃない!?

昔も今も、親も子も、悩ましい夏休みの宿題。

47年間、名古屋市の小学校で教壇に立った元教員で、育児雑誌の編集も行う岡崎勝さんに夏休みの宿題についての疑問をぶつけてみました。

すると、いきなり衝撃の発言が。
岡崎勝さん
「夏休みはそもそも、子どもにとって『休み』ではないんです」
えっ・・・そうなんですか?

岡崎さんによると、一般的に「夏休み」と言われているのは学校教育法施行令第29条にある「夏期休業日」のこと。

休業日とはあくまで「学校で授業を行わない日」であって、「休暇」とは違うのだといいます。
岡崎勝さん
「夏期休業日という概念は明治時代に取り入れられたようです。9月が進学のタイミングの欧米などは、夏休みは日本の春休みのように宿題がない“バケーション”になりますが、日本では学期と学期の間の休業日という位置づけなので伝統的に宿題というかたちで勉強を続けるスタイルになったのです」
小学生のころには「どうして『休み』なのに宿題が出るんだ!」と真剣に考えていた取材班。
そもそもの夏休みの成り立ちと宿題には深い関係があったことが分かりました。
では、なぜ保護者が手伝わないとできないような複雑な宿題が増えたのか?さらに疑問をぶつけてみました。

岡崎さんも最近は「一人一人の創造力を生かして取り組む宿題」が増えてきていると感じるといいます。
その背景には、教育改革の流れの中で「子どもの個性を重視し、創造性や自ら考えて学ぶ力」を養うことが学校に求められるようになってきたことがあるようです。

岡崎さんは「地域によって事情は異なりますが」と前置きしたうえで、宿題に対する学校側の受け止めや子どもたちが学ぶ環境の変化もあるのではないかと指摘します。
岡崎勝さん
「『夏休みも子どもが勉強できるようたくさん宿題を出してほしい』という一部の保護者からの要請で宿題をしっかり出さないと不熱心だと思われてしまう。それでたくさん宿題を出すという先生もいますし、逆に中学受験が盛んな地域では塾があるから宿題はできるだけ少なく、という学校もあるでしょう。
また小学生は本来、周囲のまねをしたり同じことをして遊んだりしながら“自分らしさ”を培っていく時期ですが、創造力につながる基本的な力を身につける環境が減っているのに、『一人で自由にやれ』と言われても難しい。だから家庭で一緒に手伝ってくれる人が必要になってしまうんです」

夏休みの宿題を廃止 決断の背景は

画一的な「夏休みの宿題」を廃止した小学校もあります。

千葉県柏市の柏の葉小学校では、保護者から寄せられたある相談が夏休みの宿題について考えるきっかけになったといいます。
柏の葉小学校 樫村雅子校長
「この地域では受験する子どもが多く、塾の宿題と学校の宿題の2つをこなしている子どもの保護者から学校の宿題が負担になっているという相談が寄せられたといいます」
夏休みは子どもたちが伸び伸びとやりたいことに取り組める大切な時間で、地域の行事やボランティアにも参加して、机の上の学習では得られない経験をたくさん積んでほしい。

学校は、保護者や地域との話し合いを重ね、5年ほど前から夏休みの宿題を廃止することを決めたといいます。

ただ、学校側も何もしないわけではありません。
夏休みを利用して子どもたちが完成させた作文や図工の作品については、展示会などの案内を紹介して積極的な応募を促しているほか、休みに入る前の7月に行う保護者との面談で、1学期で苦手だった分野について情報を共有し、夏休みに家庭で力を入れて取り組んでもらうようケアも欠かさずに行っています。

取り組みを進めておよそ5年。
保護者や地域から好意的に受け止められているほか、教員の負担軽減にもつながっているとして好評です。
柏の葉小学校 樫村雅子校長
「塾に専念できる子どももいれば、地域イベントに参加できるようになった子どももいるし、自分のやりたい調査や研究に力を入れる子どもなど、各家庭の状況に応じた夏休みを過ごせるようになった。保護者や地域の理解や協力が欠かせませんが、夏休みの宿題を廃止して見えたことも多いと思います」

大変だけど、意義も

「夏休みの宿題は親の宿題だ!」と嘆く声はSNSにもあふれていますが、一方で、夏休みの宿題に付き合うことで親側も学ぶことがあるという意見も…。
「娘の夏休みの宿題チェックをしていて『3問間違えてる』と伝えた時に、妻が『3問しか間違いがないなんてすごい!』と言った。妻の一言で娘はすっと机に向かった。結果は同じでも、伝え方の違いで相手のやる気を引き出せることを身をもって実感」
取材のきっかけとなった、「子どもの宿題が大変すぎる!」という投稿を寄せてくれた女性も、夏休みの宿題を見ることで新たな発見があったといいます。
投稿を寄せた女性
「リコーダーを演奏する宿題がありました。男の子だし、手先も器用じゃないし・・・と思っていましたが、こちらの想像より吹けていて、結構できるじゃん!という喜びは感じました。そこは、ありがたかったですね」

答えは難しい

すべて子どもだけでやるのは難しいし、親が手伝うのも限界がある。
思い切って全面廃止した学校もある一方、ネット上には宿題から学ぶこともあると評価する声も。

夏休みの宿題は一筋縄ではいかないようです。

では、宿題を出し続けてきた側はどう思っているのか。
公立中学校の教師を30年以上つとめた取材班の記者の1人の母親に聞いてみました。
「夏休みの宿題、本来は、夏休みの生活を規則正しくするためのものだと思う。今は、スマホやテレビ、ゲームなどの誘惑はたくさんあって、課題がないと何もしない子どももいるから。
ただ、個人的には夏休みの宿題は、何かひとつ自由研究みたいなものがあればいいと思っている。ふだんの学校生活でできないことが、できればいいなと。
夏休みの宿題って、教師にとっても大変。夏が明けたら宿題をチェックしなくちゃいけないから。
夏休みの宿題の答えは難しい」
47年間、名古屋市の小学校で教壇に立った元教員で、育児雑誌の編集も行う岡崎勝さんもこんなメッセージをくれました。
岡崎さん
「夏休みとはいえ保護者の忙しさは変わらない。宿題をいいものに仕上げようとがんばると大変なので、とにかく本当に宿題で困ったら家庭で抱え込まず外に助けを求めてもいいと思います。あるいは、一点豪華主義でどうせやるなら、子どもが喜ぶことや一緒に楽しい時間を過ごせることをやってみてもいいと思います。
夏休みに親子で泣きながら宿題をやるということは避けてほしいなと思いますね」
親も子も夏休みの宿題と向き合う熱い夏はまだまだ続きます。
宿題を通じて子どもたちが成長できるような夏休みになってほしいと願って取材を終えました。

付録・雲の研究者が作った「すごすぎる自由研究ガイド」

ここまで読んでいただきありがとうございました。

最後に付録として、数ある夏休みの宿題の中でも“ラスボス”とも言える「自由研究」に立ち向かう上で頼りになる情報を紹介します。

去年の夏、1人の研究者が「科学的な自由研究」の取り組み方をまとめた投稿がSNSで話題になりました。

その名も、「すごすぎる自由研究ガイド」。
(ガイドはこの記事の最後に付けています)

まとめたのは雲の専門家で、気象庁気象研究所の研究官、荒木健太郎さんです。

荒木さんは去年4月、天気や気象にまつわる子ども向けの本を出版。

それを読んだ子どもたちから「天気や雲についての自由研究をしたいのですが、どうすればいいですか」と相談を受けたため、取り組み方を体系的にまとめた子ども向けのガイドを作ることにしたそうです。
荒木健太郎さん
「自由研究というと、何かを作ったり集めたりして終わりということが多いと思います。それはそれでおもしろいですが、自分が興味を持ったことについて、自分で仮説を立て実験や観察を通じて実際にどうなのか検証していくという科学的な研究はとても楽しいということを知ってもらいたいと制作しました」。
ガイドでは、プロの研究者も使うステップを紹介。
この手順を踏めば、「めちゃくちゃおもしろい」科学の研究ができるといいます。
(1)興味のある分野を選ぶ
(2)「疑問」を見つける
(3)疑問について調べて「仮説」を立てる
(4)写真をたくさん撮りながら研究を進める
(5)データを分析する
(6)自由研究をまとめる
さらに、それぞれのステップごとに疑問の見つけ方や仮説の立て方、研究の進め方など詳しい取り組み方も載っていて、直接、書き込むことのできるメモ欄もあるというきめ細かさ。

研究を進めるうえで荒木さんが大切だと考えているのは「過程」で、たとえうまくいかなかったとしてもそれを失敗だと捉える必要はないと言います。
荒木健太郎さん
「実験や観察がうまくいかなかったり、仮説のとおりにならなかったとしても、それは失敗ではないんです。どうしてうまくいかなかったのかを考えることも立派な自由研究。『できなかった』と落ち込むのではなく、次につながるステップだととらえることは大人になってからも大事なことだと思います。そうした過程をぜひ体験してもらいたいですね」
夏休みの自由研究で悩んでいる人には、こんなメッセージも。
荒木さん
「テーマは身近なことでも興味のあることでも何でもいいんです。実験や観察はやっていて楽しいのでおすすめです。データを取ってみるというのもいいと思います。例えば『虫』を集めるというテーマでも、その虫を採った場所に着目して生態系を調べてみるとか、虫の体の構造に着目してみるとか、やり方はいろいろありますよね。私自身も、新たに『雲の自由研究ガイド』を作ってSNSに投稿したり、夏休みの自由研究の手助けになればと天気や気象の知識を紹介する企画展にも関わっています。ぜひ夏休みの自由研究として活用してもらえたらいいなと思います」。