漫画やアニメ 目指すはサウジアラビア?!

漫画やアニメ 目指すはサウジアラビア?!
世界中で人気を集める日本の漫画やアニメ。欧米や中国でのビジネスが成熟しつつある中、次の市場はどこなのか?日本企業が熱い視線を送るのが、世界有数の産油国、サウジアラビアです。現地ではいま、日本企業が次々と新たなビジネスに挑んでいます。(政経国際番組部ディレクター 新野高史 経済部記者 保井美聡)

日本の人気作品が集結 アニメイベント大盛況

サウジアラビア西部の都市・ジッダ。

5月から約2か月間、サウジアラビアでは史上最大規模とされる日本アニメのイベント「アニメビレッジ」が開催されました。
広さ1万平方メートルの敷地に「機動戦士ガンダム」「鬼滅の刃」「進撃の巨人」といった人気の12作品が集結。

模型の展示や物販をはじめ、VRを使ったアトラクション、アニメソングのライブなどが行われました。
チケットは連日完売、数十万人が来場しました。

サウジアラビアでは、イスラム教の厳格な解釈に基づく統治のもと、長年、映画などの娯楽が制限されてきましたが、石油依存からの脱却を目指す経済改革を進めるなか、海外のエンターテインメントの受け入れが進んでいます。
とりわけ、日本のアニメは大人から子どもまで人気が高く、来場者の中にはアニメがきっかけで日本語を勉強したという女性もいました。
日本語を勉強したという女性
「好きな作品は『NARUTO』。アニメも好きだし、日本の文化にもとても興味がある」
サウジアラビアの娯楽産業の市場は、2020年の時点で30億円程度と見られていますが、2030年までに1400億円を超えるという予測もあります。

音楽会社がなぜサウジアラビアで?

このアニメイベントをプロデュースしたのが、大手音楽会社「エイベックス」です。コロナ禍で音楽ライブが中止になるなどして、売り上げが大幅に減少する中、音楽だのみのビジネスから脱却を図るため、経営の柱の1つに据えたのが、アニメでした。
サウジアラビアに進出する足がかりとなったのは、3年前。建国記念日のイベントで、花火とパフォーマンスのショーを任されたことがきっかけでした。

これまで、日本アニメの海外進出といえば現地での放映や配信が主流でしたが、この会社ではライブなどのイベントで培ってきた企画力や集客力を武器に、アミューズメント施設の展開といった新しい事業を生み出したいと考えています。
高橋 執行役員
「映像の部分だけではなく、体験型のイベントやグッズの購入など、360度で楽しめるのがアニメの良さ。コンテンツとしてものすごく力を持っている」
「アニメ作品が単体で海外に乗り込むよりも、たくさん集まった方がパワーとスケール感が出る。これからもサウジと日本の橋渡し役になって、アニメイベントを他の都市でも展開させていきたい」

マスコットも急きょサウジアラビアに

今回のイベントをきっかけに、日本でコンテンツビジネスを手がける企業も今後の成長に期待を膨らませています。
「ハローキティ」などのキャラクターを手がける「サンリオ」では、アニメイベントが盛況なことを受け、急きょ、マスコットを現地に送ってショーを行うことになりました。

キティちゃんがサウジアラビアでショーを行うのは、初めてです。
齋藤 常務執行役員
「自分の会社だけで、たくさんの作品を集めたイベントは難しい。日本のコンテンツ産業全体を底上げしていくため、アニメイベントというプラットフォームを活用して、今までにない形のエンターテインメントを提供していきたい」

サウジの“国産コンテンツ”日本企業も連携

一方、サウジアラビアでは、これまでほとんどなかった“国産”のコンテンツ制作にも力を入れていて、日本の企業と連携する動きが相次いでいます。
サウジアラビアの古代文明を舞台にしたアニメ映画「ザ・ジャーニー」。

現地のアニメ制作会社「マンガプロダクションズ」と、日本の「東映アニメーション」のアニメーターが共同で制作したもので、中東の10か国と日本やアメリカで上映されました。

マンガ家育成支援も

ことし3月には、日本の制作会社が協力して、マンガ家を育成するための教室が、首都・リヤドで開かれました。教えるのは、日本から招かれた講師です。

参加者は、2か月間にわたってキャラクターデザインやコマ割り、物語の構成などを学びました。そして、最後は自分で8ページのマンガを制作しました。
成績上位者は、今年度中に日本でのインターンシップを予定していて、将来的にはサウジアラビアで刊行されているマンガ雑誌でのデビューを目指しています。

マンガ教室に協力した日本の制作会社は、アニメやマンガに携わる人材の育成が急速に進むサウジアラビアでは、日本のエンタメ産業のノウハウを学びたい、というニーズが今後も高まるとみています。
古賀鉄也 社長
「日本のように、マンガの原作があり、アニメ化され、映画化され…という流れを早く成立させたい。産業を拡大させて、若者の雇用を生み出そうというねらいがある。今年度中には、アラビア語による声優の育成コースも始める予定だ。日本のことをリスペクトし、学ぼうという意欲が高いので、この国の成長に貢献したい」
日本のアニメやマンガの制作現場は、人手不足という問題も抱えています。

この会社では、将来的には日本で一緒に働いてもらうことも視野に入れて、サウジアラビアでの人材育成に取り組んでいるということです。

サウジ市場への期待値は?

新たな市場開拓をねらう日本と、娯楽産業を振興させたいサウジアラビア。

日本企業の進出をサポートしているJETRO(日本貿易振興機構)で、中東を担当する西浦克さんは、サウジアラビアは成長がますます期待される市場としたうえで、日本との親和性が高いと指摘します。
西浦 主幹
「テレビでは日本の昔のロボットアニメなどが放送されていて、潜在的にファンが多い。また、欧米の作品と比較して、主人公が負けたり、戦う相手を尊重したり、人間関係が濃かったり、少し特殊な日本のストーリーに共感しやすい国民性。エンタメの解禁が進んだことで、より最新のものに触れ、本物を体験したいというニーズが高まっている。イベント開催やグッズ販売、人材育成など、ビジネスチャンスは多岐にわたる。宗教や商習慣の違いで進出をためらう会社も多いが、親日でブルーオーシャンという有望な市場だと思う」
サウジアラビアに進出した日本企業は口をそろえて「数年前と文化が全く変わっている」と、娯楽産業の成長と国民の熱量に驚いていました。

日本のエンターテインメントは、現地でどのような成長を遂げるのか。これからも目が離せません。
政経・国際番組部ディレクター
新野 高史
2011年入局
京都局、首都圏局を経て、2021年から経済番組を担当
経済部記者
保井 美聡
2014年入局
仙台局、長崎局を経て、流通業界などを担当