「最近 褒められてますか?」~AIで・写真で 最新「ほめ」事情

「きょうもわたし、よく頑張った…」
一日の終わり、そんな風に自分自身をねぎらっている人、いませんか?私もその一人ですが、ある日、気になる情報を耳にしました。
「自分のことを褒めまくってくれる空間があるらしい」
一体、どういうこと?取材してみました。
(福岡放送局記者 荒川 真帆)
一日の終わり、そんな風に自分自身をねぎらっている人、いませんか?私もその一人ですが、ある日、気になる情報を耳にしました。
「自分のことを褒めまくってくれる空間があるらしい」
一体、どういうこと?取材してみました。
(福岡放送局記者 荒川 真帆)
それは渋谷にあった
話を聞きつけて訪ねたのは、東京・渋谷にある企業です。
担当者に案内してもらって目にしたのは、高さ2メートルほどの箱形の装置。
担当者に案内してもらって目にしたのは、高さ2メートルほどの箱形の装置。

ドアには「ベタ褒め」と書かれています。内側には、等身大の液晶モニターが設置。そしてヘッドホンがついていました。
これは一体…?
「実はこれ、中に入った人をべた褒めしてくれる装置なんです」と説明してくれた担当者。
どういうことなのか、実際に体験者の様子を見せてもらいました。
まずは用意されたタブレットに、職業や年齢を入力します。
続いて「新しいものが好きか」、「完璧が好きか」など5つの質問に回答。
そして、中に入ると…。
これは一体…?
「実はこれ、中に入った人をべた褒めしてくれる装置なんです」と説明してくれた担当者。
どういうことなのか、実際に体験者の様子を見せてもらいました。
まずは用意されたタブレットに、職業や年齢を入力します。
続いて「新しいものが好きか」、「完璧が好きか」など5つの質問に回答。
そして、中に入ると…。
「いつも友達に自慢しています」
「あなたの笑顔はナンバーワン!」
「先輩の出す優しい空気が好きです」
「あなたの笑顔はナンバーワン!」
「先輩の出す優しい空気が好きです」

目の前のモニターに映し出されたのは、なんと「褒め言葉」の数々。
言葉は一文ずつ、3秒ほどの間隔で、次々表示されていきます。なかには、少し具体的なこんな内容も。
言葉は一文ずつ、3秒ほどの間隔で、次々表示されていきます。なかには、少し具体的なこんな内容も。
「レジ打ち、いちばん早くて尊敬します」
「常連さんの名前を覚えていてすごいです」
「常連さんの名前を覚えていてすごいです」

実はこの体験者の女性、飲食店に勤めているといいます。どうやら、その職種にあった言葉が表示されているようです。
そしておよそ3分後。出てきた女性の目には涙が光っていました。
そしておよそ3分後。出てきた女性の目には涙が光っていました。

体験した女性
「途中で泣きそうになっちゃって。嬉しい気持ちがぐあーっと押し寄せました。常連さんの名前を覚えるようにしていることとか、ふだん私が気を付けていることって周りは別に気にしていないと思うんです。でもそこをわざわざ褒めてもらったので、すごく嬉しかったです。心が温まりました」
「途中で泣きそうになっちゃって。嬉しい気持ちがぐあーっと押し寄せました。常連さんの名前を覚えるようにしていることとか、ふだん私が気を付けていることって周りは別に気にしていないと思うんです。でもそこをわざわざ褒めてもらったので、すごく嬉しかったです。心が温まりました」
実はこの装置、AIが内蔵されています。全国およそ3000人に行った調査に基づいた「嬉しい褒め言葉」が、職種や性格診断に応じて、抽出される仕組みだというのです。
…しかし、AIに褒められてそんなに嬉しいものなのか?
早速、わたしも体験させてもらいました。
やや緊張して中に入り、ヘッドホンを装着。耳に心地よい音楽が流れてきました。
そしてまもなく、目の前には私に向けた「褒め言葉」の波が。
…しかし、AIに褒められてそんなに嬉しいものなのか?
早速、わたしも体験させてもらいました。
やや緊張して中に入り、ヘッドホンを装着。耳に心地よい音楽が流れてきました。
そしてまもなく、目の前には私に向けた「褒め言葉」の波が。
「何から何まで任せても、安心感しかないです」
「いちばん、光ってます」
「間違いなく、一番頼れる存在です」
「いちばん、光ってます」
「間違いなく、一番頼れる存在です」
30代の私も日常生活で褒められることはほとんどありません。
次々押し寄せる褒め言葉に、当初は半信半疑だった自分も次第に目頭が熱くなり始め…。
次々押し寄せる褒め言葉に、当初は半信半疑だった自分も次第に目頭が熱くなり始め…。

次の言葉で、涙腺が崩壊してしまいました。
「しんどくてもいつも頑張ってるの、知ってます」
家庭と仕事の両立で悩むことも多い自分に、特に刺さる言葉でした。
体験が終わり、鼻をすすりつつ担当者に話を聞かせてもらいました。通常、この企業ではイベント体験などを手がけていますが、今回の開発のきっかけは、「コロナ禍」だったといいます。
体験が終わり、鼻をすすりつつ担当者に話を聞かせてもらいました。通常、この企業ではイベント体験などを手がけていますが、今回の開発のきっかけは、「コロナ禍」だったといいます。

フロンティアインターナショナル プロデューサー 熊倉彩乃さん
「コロナ禍に入り、なかなかポジティブな言葉が世の中で届きづらい、響きにくい時代になっているのではないかと内部で話をしていました。実際にコロナ禍前と比べて、ネガティブな思考が高くなっているという調査結果もあったんです」
「そこで注目したのが『褒める』行為。リモートワークなどが増えて実際に会わないとなると、褒め合うことも少なくなっているのではと。前向きになれる褒め言葉をシャワーのように浴びれる装置があったらいいのではと開発に至りました」
「コロナ禍に入り、なかなかポジティブな言葉が世の中で届きづらい、響きにくい時代になっているのではないかと内部で話をしていました。実際にコロナ禍前と比べて、ネガティブな思考が高くなっているという調査結果もあったんです」
「そこで注目したのが『褒める』行為。リモートワークなどが増えて実際に会わないとなると、褒め合うことも少なくなっているのではと。前向きになれる褒め言葉をシャワーのように浴びれる装置があったらいいのではと開発に至りました」
この企業では「褒める」についての意識調査も実施していました。
「褒められることがモチベーションの向上につながる」と回答した人は全体の8割。
一方、「職場で上司や同僚に十分褒められていない」と感じている人は約7割にも上ったそうです。
「褒められることがモチベーションの向上につながる」と回答した人は全体の8割。
一方、「職場で上司や同僚に十分褒められていない」と感じている人は約7割にも上ったそうです。

今後はこの「褒める」装置を生産性向上を目指す企業やスポーツ業界などで使ってほしいと話していました。
※調査詳細…開発企業が実施
「働く人のコミュニケーション実態調査」
10~60代以上の2718人から回答。
※調査詳細…開発企業が実施
「働く人のコミュニケーション実態調査」
10~60代以上の2718人から回答。
脳科学的『褒める』効果
とはいえ、本来なら「人」に褒められるにこしたことはない気はしますが…。
AIに褒められて効果はあるのでしょうか。脳科学者に尋ねてみました。
AIに褒められて効果はあるのでしょうか。脳科学者に尋ねてみました。

脳科学者 公立諏訪東京理科大学 篠原菊紀教授
「例えばディスプレイやロボットなど、そういう『人』ではないものを通した褒め言葉でも、対面で言われたのと同じような効果があるということは知られていますね」
「例えばディスプレイやロボットなど、そういう『人』ではないものを通した褒め言葉でも、対面で言われたのと同じような効果があるということは知られていますね」
こう教えてくれたのは、公立諏訪東京理科大学の篠原教授です。
教授の言う「褒めの効果」。脳内でこんなメカニズムだそうです。
褒められると、脳内では「快感」、「幸福感」を生み出す、ドーパミンの分泌が盛んになります。
教授の言う「褒めの効果」。脳内でこんなメカニズムだそうです。
褒められると、脳内では「快感」、「幸福感」を生み出す、ドーパミンの分泌が盛んになります。

脳はその快感をもっと得ようとするため、もう一度同じ行動をとろうと働きます。
これがいわゆる「やる気」のもとに。記憶力の向上や仕事のスキルを高める効果もあるといいます。
これがいわゆる「やる気」のもとに。記憶力の向上や仕事のスキルを高める効果もあるといいます。

さらに篠原教授は褒める方法についてはこうも指摘します。
脳科学者 公立諏訪東京理科大学 篠原菊紀教授
「『文字』や『映像』を伴って褒められると、より視覚に強い刺激が与えられるという点で言葉だけで言われるより『褒め』の効果が出るんです」
「『文字』や『映像』を伴って褒められると、より視覚に強い刺激が与えられるという点で言葉だけで言われるより『褒め』の効果が出るんです」
ほかにも色々 「褒め」を子育てにも
この「褒め」の効果。
取材を進めると、ふだんの生活でうまく取り入れている人もいました。北九州市に住む藤村かおりさんです。
取材を進めると、ふだんの生活でうまく取り入れている人もいました。北九州市に住む藤村かおりさんです。

藤村さんは5歳になる息子のゆうとくんの日常を、写真に収めることを心がけています。
自宅の廊下を案内してもらうと、そこにはゆうとくんの写真がずらり。
この写真、ただ飾りとして貼っているのではありません。
自宅の廊下を案内してもらうと、そこにはゆうとくんの写真がずらり。
この写真、ただ飾りとして貼っているのではありません。

例えば「初めて動物園でロバに乗った」という、ゆうとくんが2歳のころの写真。
藤村さんはこれをゆうとくんと一緒に見ながら、「褒める」といいます。
藤村さんはこれをゆうとくんと一緒に見ながら、「褒める」といいます。
藤村かおりさん
「私たち両親は、初めて乗るロバなので泣くのかなと思っていたのですが、ひとりでしっかり乗って楽しんでいたんです。息子の初めての挑戦を『すごいね、このとき乗れたね』って、声をかけたりしています」
「私たち両親は、初めて乗るロバなので泣くのかなと思っていたのですが、ひとりでしっかり乗って楽しんでいたんです。息子の初めての挑戦を『すごいね、このとき乗れたね』って、声をかけたりしています」
こうした写真を使って褒める取り組みは「ほめ写」と呼ばれ、この数年、全国の子育て世帯に広がっています。
写真をきっかけに、ふだんは言わない褒め言葉でも親が言いやすくなるほか、子どもの視覚に訴えることで、より「褒め」効果が期待されるのだといいます。
褒める際のコツを聞いてみると、藤村さんは、「特に大事にしているのは、息子が目標に向かって努力する姿です」と教えてくれました。
例えばこちらは2年前、ゆうとくんがはじめて補助輪つきの自転車に乗った写真。
写真をきっかけに、ふだんは言わない褒め言葉でも親が言いやすくなるほか、子どもの視覚に訴えることで、より「褒め」効果が期待されるのだといいます。
褒める際のコツを聞いてみると、藤村さんは、「特に大事にしているのは、息子が目標に向かって努力する姿です」と教えてくれました。
例えばこちらは2年前、ゆうとくんがはじめて補助輪つきの自転車に乗った写真。

日々練習して頑張って乗れるようになったことを褒めると、補助輪なしでも乗れるようにと、自らさらに練習に励んだといいます。
藤村かおりさん
「(補助輪なしは)練習してもできないけど、この写真をみせると『僕こういうのはできたよ』と教えてくれました。やる気と自信が身についているような気がします。今では補助輪なしでも乗れるようになりました。いつもは私も『あれダメ、これもダメ』などと小言も多かったりするんですけど、写真を見ると、できていることに対してしっかり、心を込めて褒められるきっかけになるなと思います」
「(補助輪なしは)練習してもできないけど、この写真をみせると『僕こういうのはできたよ』と教えてくれました。やる気と自信が身についているような気がします。今では補助輪なしでも乗れるようになりました。いつもは私も『あれダメ、これもダメ』などと小言も多かったりするんですけど、写真を見ると、できていることに対してしっかり、心を込めて褒められるきっかけになるなと思います」
一方、ゆうとくんに話を聞いて見ると、少し恥ずかしそうに「写真を見ると、嬉しい気持ちになる」と答えてくれました。

この「ほめ写」、「ありのままの自分を受け入れる」という「自己肯定感」の向上にもつながる、との効果も期待されるそうです。
とはいえ、わかっていても、なかなか子育てで「褒める」だけでは難しい面もあるとは思いますが…。
篠原教授は子どもの発達に応じた「褒める」ポイントも教えてくれました。
とはいえ、わかっていても、なかなか子育てで「褒める」だけでは難しい面もあるとは思いますが…。
篠原教授は子どもの発達に応じた「褒める」ポイントも教えてくれました。
“褒め”ポイント
・幼少期はまず存在を認めて褒める
◎「産まれてきてくれてありがとう」
・『素質』よりも『努力』を褒める
△「あなたは賢いのよ」
◎「図書館でよく勉強して頑張ったね」
・幼少期はまず存在を認めて褒める
◎「産まれてきてくれてありがとう」
・『素質』よりも『努力』を褒める
△「あなたは賢いのよ」
◎「図書館でよく勉強して頑張ったね」
まず、褒めてみる!
篠原教授はコロナ禍でネガティブな感情を抱きやすい今だからこそ、褒める効果を再認識する必要があると指摘します。
脳科学者 公立諏訪東京理科大学 篠原菊紀教授
「日本はおそらく、謙遜が美徳とされてきた文化があることを考えると、お互い褒め合うということが少ないだろうと思います。もうちょっと『べた褒め』していいんじゃないかと」
「ちなみに、『褒めた側』にもプラスの効果があります。人の脳は相当だまされやすいので、自分が他人に対して発した言葉でも、耳に入ると自分の脳でもドーパミンが分泌されます。さらに、褒めた相手が良い状態になるのを見て、また脳が活性化します。褒めの良いループですね」
「日本はおそらく、謙遜が美徳とされてきた文化があることを考えると、お互い褒め合うということが少ないだろうと思います。もうちょっと『べた褒め』していいんじゃないかと」
「ちなみに、『褒めた側』にもプラスの効果があります。人の脳は相当だまされやすいので、自分が他人に対して発した言葉でも、耳に入ると自分の脳でもドーパミンが分泌されます。さらに、褒めた相手が良い状態になるのを見て、また脳が活性化します。褒めの良いループですね」
誰も褒めてくれる人が周りにいない場合、自分で自分を褒めることも効果はあるそうです。
何かで落ち込んだとき、「お前はすごい!」「あれは頑張ったぞ!」と、声に出して発したり、紙に書いて「文字」として見たりするのが良いのだとか。
篠原教授も実践しているそうです。
意外と深い、「褒め」の効果。
ぜひみなさんも生活にとりいれてみてはいかがでしょうか。
何かで落ち込んだとき、「お前はすごい!」「あれは頑張ったぞ!」と、声に出して発したり、紙に書いて「文字」として見たりするのが良いのだとか。
篠原教授も実践しているそうです。
意外と深い、「褒め」の効果。
ぜひみなさんも生活にとりいれてみてはいかがでしょうか。

福岡放送局 記者
荒川 真帆
長崎、大阪、東京・社会部を経て現在。
現在は遊軍記者として幅広いテーマを取材。
一児を子育て中 自分を褒めて鼓舞します
荒川 真帆
長崎、大阪、東京・社会部を経て現在。
現在は遊軍記者として幅広いテーマを取材。
一児を子育て中 自分を褒めて鼓舞します
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