茶畑でもスマホが欠かせないって?

茶畑でもスマホが欠かせないって?
全国2位のお茶の生産量を誇る鹿児島県。テレビのCMやコンビニ・スーパーで見かける大手飲料メーカーのブランド品にも鹿児島のお茶が使われています。生産や収穫の様子を取材しようと茶畑に行くと驚いたことがありました。いまや、茶畑でも「スマホ」が欠かせないというのです。
(鹿児島放送局記者 猪俣康太郎)

ベテランからAIに 茶畑で起きている“変化”

鹿児島県曽於市の茶畑です。

取材したのはことし5月。茶畑は収穫の時期を迎えていました。

重要なのはいつ茶葉を摘むのか、その時期を判断することです。

地元の農家などに取材すると摘み時がわかるようになるには、10年以上かかるともいわれ、特に経験豊富なベテランがその役割を担ってきたといいます。
しかし、大手飲料メーカーの担当者が手にしたのは「スマホ」と「タブレット」。

これで、その摘み時の判断ができるといいます。
大手飲料メーカー 吉田光さん
「アミノ酸量というのはお茶のうまみの指標のひとつで、繊維量は芽の成熟度というか固さをあらわしています。これを推定しながら実際の収穫の時期を決めています」。
タブレットで茶葉を撮影すると、収穫時期の判断で参考となるデータが出てきました。
アミノ酸や繊維の量です。
撮影した画像からAI=人工知能が推定値を割り出しました。

お茶は収穫時期を遅くすると、収穫量は増えるもののアミノ酸の量などが減少し、品質が低下してしまいます。

スマホやタブレットを使って簡単に推定できるというこのシステムを開発したのは、大手飲料メーカーの「伊藤園」と「富士通」です。

ことしの春から鹿児島や宮崎など九州を中心とした5県7地区の茶畑で試験的に導入を始めています。

8500枚の画像をAIが学習 スマホ診断の仕組みは…

どうして画像だけで「うまみ=アミノ酸」や「固さ=繊維量」がわかるのか? そこには膨大なデータの蓄積がありました。

もともと茶葉に含まれる繊維量が増えると、アミノ酸の量が減ることは知られています。
そのためおととしから茶葉の撮影を開始。
撮影した茶葉のアミノ酸と繊維量を調べて画像と成分データを分析してきました。

集めた茶葉の画像はおよそ8500枚。
日時や場所、生育段階といった情報を元に整理し、「AI」に学習させました。
「茶葉」の画像と成分との関係性が導き出され、茶葉の画像から「アミノ酸」と「繊維量」を推定できるシステムができたのです。
吉田光さん
「お茶の生産を始めたばかりの方だとわからないのですが、ベテランの農家の方は茶葉の手触りとかでお茶の摘み時を判断されるんです。なかなかそれが難しいので、このシステムでは客観的な数値で評価できるようにしています」

コスト削減や業務効率化への期待

お茶の生産農家はどう受けとめているのか。

大手飲料メーカーと契約を結び鹿児島県の曽於市や志布志市など70か所の茶畑で生産している農業生産法人を取材しました。

この法人では茶葉の成分を分析する機械を導入していますが、その値段はおよそ700万円だということです。
茶畑から茶葉を持って来てこの機械に入れる必要があるといいます。

農業生産法人では新たなシステムの導入でコスト削減や業務の効率化につながると期待しています。
メルヘン農園 重信秀治管理部長
「スマホで画像を撮影するだけで 茶葉に含まれる繊維のおおまかなデータがでれば茶畑で判断ができます。茶葉を粉砕して使っている機械の技術もすごいなと思いましたがそれよりもさらに進歩しているんだと感じます」。

AIがお茶の味も図式化

さらに、製品として仕上げる前の「荒茶」の画像から「AI」が味を推定する技術も開発されています。
スマホで撮影すると出てきたこちらの5角形。

「アミノ酸」や渋みのもとの「タンニン」などの量をあらわしています。

福島県の企業が開発した野菜や果物の画像からAIがおいしさを解析する技術が応用されています。

背景に農家減少への危機感

こうした技術の開発が進んでいる背景にはお茶の生産農家の減少が一段と進んでいることへの危機感があります。
農林水産省が5年ごとに行っている調査によると高齢化などによってお茶を生産する農家や団体の数はおととしまでの10年間で1万5000以上減少。

どのようにして茶葉を安定的に確保していくことができるのかが、課題となっているのです。
大手飲料メーカー 佐藤貴志課長
「お茶の生産農家は減少の一途をたどっていて人手不足や高齢化などで原料調達に危機感を感じております。IT技術やAIの技術でサポートしていきたいという思いがありますし、安心して生産を続けることができる環境づくりが重要だと考えています。少しでも負担を軽減できるように技術開発を進めていきたいです」

農業で進む「デジタル変革」

AIを使った新しい技術。

来年の春からの本格的な導入を目指して準備が進められています。

ふだん、コンビニやスーパーなどでお茶を購入する人も多いと思いますが、さまざまな商品があり、消費者に人気があると感じます。

その一方で現場を取材すると茶畑の集約化も要因にあるということですが、生産農家が減少していてメーカーなどの間に「なんとかしないといけない」という危機感が出ていることを知りました。
お茶の生産についてはお茶の木を植えたり、熟練の技術が必要なこともあり、新規の就農が難しいと言われてきました。

今回の取材を通じてDX=デジタル変革で生産のあり方が変わっていくことで、新規就農者の増加につながっていくことに期待したいと思いました。
鹿児島放送局記者
猪俣康太郎
平成16年入局
前橋局・函館局、ニュース7などを経て現所属
現在は遊軍キャップで経済などを取材